人嫌い、殴られる

「ちょっと!触らないでよ!」


「ええー良いじゃんか、そんな嫌がらないでも。」


「うっわ気持ち悪い。」


「ああ!?」


それは帰り道、たまにはタマのように違う道を通ってみよう。そんな冒険心から横道に入った、そのすぐ後だった。時代遅れとも言える不良を見つけたのは。


「なんだよ兄ちゃん、こいつの知り合いか?」


「し、知らないわよそんな奴。」


「僕もこんながさつ女、知り合いにいないね。」


「なによ!」


「じゃあ僕はこの辺で。」


秀人はこのいざこざに巻き込まれまいと、足早に去ろうとした。


「おいおい、そんなこと言って…警察でも呼ぶんじゃねーか?」


「ないよ。なんで赤の他人のために、僕がリスクを犯さないとダメなのさ。」


「そうよ!そんな奴いなくても、悠美1人でなんとかするから!」


「まあ見られたから…よっ!」


おちゃらけた態度の不良は、秀人の頬を殴った。いや殴ってしまった。秀人は少しふらついた後、怒りの形相で不良を睨み付ける。


「あのさ、僕は関係ないって言わなかった?その小さい脳みそじゃ、2分前すら思い出せないのか。」


「なんだよお前?」


「バカにしてるんだよ。やられた分は返すし、それ以上もするから。」


「あ?さっきから何だ」


最後まで不良は喋れなかった。その腹に突き刺さった秀人の足による痛みで、思わず前屈みになる。秀人はそれを逃がさない、下がった男の頭に容赦なく横蹴りを当てる。素人のそれだろうと、手加減のない蹴りが頭に当たったのだ。不良は倒れこむ。


「まだ足りないな…もう少し遊ばせてよね。」


「か、勘弁してく」


終わらない。秀人は倒れた不良の頭を踏みつけ、最後にはサッカーボールのように蹴った。これに不良は気絶、秀人の圧勝だった。


「おーい…もう駄目になったか。」


「…つ、強いわねあんた。悠美を守れたこと、誇りに」


秀人は壊れたものに興味を失い、家へ帰るため路地を出る事にした。何かが話していた気もするが、今の秀人には届かない。どんな形であれ、暴れると気分がスカッとするものだ。


「ちょっと!」


そんな秀人の腕を掴む人が。秀人は掴んできた手を力で外し、思い切り捻る。


「いたたたたた!」


「あれ、さっきの不良じゃないんだ。君は彼の仲間?悪いけど、2人がかりでも勝つよ僕。」


「ち、違うから離し痛い痛い!」


「ああごめん、忘れてたよ。」


掴んでいた手を離し、秀人は相手を見る。


「あれ、絡まれてた人か。」


「そ、そうよ!感謝しに来たのに、急にこんな…女性に暴力はどうなのよ。」


「知らないよ。君が急に来て、急に肩を掴んだだろう。仲間と思うのが普通だよ。」


「それは…悠美が悪かった。」


「分かったらさようなら。」


「わ、私は園原悠美そのはらゆみだから!忘れんじゃないわよ!」


「忘れるよ、もう君に会わないし。」


「お、覚えてなさいよ高山!」


捨て台詞をはき、悠美は走って行ってしまった。面倒事を片付け、自宅へ戻ってこれた秀人。


「みゃー。」


「ごめん、待たせたねタマ。」


「みゃー。」


「お詫びに今日は、普段開けない猫缶にするからさ。」


ドアを開け帰宅する二人。タマにご飯を出し、そこでやっと秀人は気づいた。


「僕名前言ってないよな…なんで知ってるんだろ。」


「みゃー。」


「よし、寝るか。」


こうしてプールから始まった忙しい一日は、やっと終われたのだった。

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