人嫌い、泳いでみる

「あー…昼か。」


「みゃー。」


「おはようタマ。」


本来なら朝に起き、任されているレンタル屋に向かう秀人。しかし昨日の件もあり、今日は休みで良いと言われたのだ。


「しかし休みでも、ここじゃ海しかないね。」


「みゃー。」


「タマは散歩に行きなよ。僕ももう少し休んだら、外へ出てくつもりだし。」


そう言って窓を少し開けると、タマは外へ出ていった。秀人自身出掛けるのは好きではない、だが今は自分以外働いている。1人での散歩なら楽しいものだ。


「さてと、ここら辺は何があるやら。」


1人外出することになった秀人。来たこともない地を歩くのは、不安もあるが期待も大きかった。


「んー…目立つのは海とモールくらいか。ここで買い物しても、邪魔になるか。」


迷うわけにもいかず、施設周辺を歩く秀人。他に見つけたのはお土産屋、地元製品の売り場など興味を引かれる場所はなかった。少し離れた場所で、誰もいない公園を見つけた秀人。


「まさに穴場だね。みんな海やら店に夢中で、ここに目が向かないわけだ。」


しばらく秀人は公園で休んだが、ついにやることもなくなった。


「…泳ぐかな。」


今までプールで泳ぐ、授業の一貫程度に思っていた泳ぎ。それが海でも役に立つのか、ふと疑問に思ったのだ。

一度離れた海に帰ってきた秀人は、自分がいたはずのレンタル屋に訪れた。


「いらっしゃー…秀人じゃーん。」


「水着ください。」


「もう平気なのー?無理しちゃダメだよー。」


「水着ください。」


「そだーウチも一緒にー。」


「水着。」


「はーい。」


心愛が受付をやっていた。秀人は水着を購入し更衣室を利用、早速海へ向かうのだった。


「あれ先生!もう体調は良いんですか!」


「見ての通りだよ。」


「泳げるくらいって事ですね!お気をつけて!」


「元気。」


「あれいたんだ。」


「今は林さんと、ゴミ拾いしています!」


「泳ぐ?」


「僕はね。せっかくの休みだし、どっか静かなところ探して楽しむよ。」


「行こう。」


「いや林さん!仕事しなくては!」


「むう。」


膨れる臨を大山が止め、その間に秀人は砂浜を歩く。人が集まるのは海の家など、施設の回りだけ。少し離れて岩場に行けば、誰もいないのではと考えた。


「おや高山くん。」


「…先輩何してるんですか。」


「見ての通り、休憩と食事だとも。」


「向こうで食べればいいじゃないですか。」


「賑やかに食べるのはいいのだが、周りがうるさいのは辛くてね。」


「はあ。」


「そうだ。高山くんも食べるかい?」


「いえ。僕はそこら辺泳いでます。」

 

「そうか…見ていても?」


「何も楽しくないですよ。」


秀人は準備運動を始め、正子は食べ終わり秀人を見ていた。しっかりと体をほぐした秀人は、海へ入っていった。


「…生ぬるい。」


「この気温では、海水も人肌くらいの温度になる。」


秀人は一度顔まで水に入る。多少濁ってはいたが、見通しは思っていたほど悪くはない。沖から離れすぎないよう、泳ぎ始めた秀人。


「うむ、綺麗なフォームだ。」


「…ここに…いたの。」


「やあ麗華くん。」


「…あれって…秀人?」


「ああ。部屋で大人しくするより、動いている方が気が晴れるのかもな。」


「…そうかな。」


「何か引っ掛かるかい?」


「…もう来ないから…海を体験…とか。」


「…まあ高山くんは、海で楽しむよりプールで淡々と泳いでいそうだな。」


「…でしょ。」


「そこも彼の1人好きなのだろうか。」


「…海よりは…静か。」


「言えている。」


2人で見ていると、帰ってきた秀人は考え込むような顔をしていた。


「…おつ。」


「どうだった高山くん。」


「いや、ゴーグルを借りればよかったと。」


「海水が染みたか。」


「…しょっぱい。」


「それに誰が入ったか分からないし…考えれば考えるほど、来る奴等の思考がわからなくて。」


「君は泳ぎながら、何を考えていたんだ。」


「…海は…楽しむ場所。」


「確かに泳いでる人は少ないね。浮き輪で浮くとか、ボートでぶらぶらか。」


「海には出会いを求めて来る人もいる。」


「こんなとこで出会っても、すぐ終わりそうですけどね。」 


「…秀人…シャワー行ったら?」


「そうするよ。」


秀人はシャワーを浴び、そのまま施設へと帰った。


「みゃー。」


「ただいま。」


秀人の部屋前にはタマがいた。普段そうしているように、ドアの前で待っていたらしい。


「また窓から入れば良いのに…まあいいか。」


「みゃー。」


「なんか疲れたよ…次はプールへ行こう。」


秀人は一旦休むことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る