人嫌い、髪を切る
「うっとおしいな…」
その日秀人は悩んでいた。入学してからもうすぐ3ヶ月、引っ越した先での床屋選びが終わっておらず、その髪はずいぶんと伸びていた。
「…おは。」
「お、おはよう。」
「ああどうも。」
「…何か…あったの?」
「別に何もないけど、なんか変かな?」
「ふ、不機嫌そうな顔してたから。」
「それは悪かったね。この前髪をどうしようか、悩んでたんだよ。」
「…かなり…伸びてる。」
「は、早く切った方が良いと思うよ。」
「あいにく、まだこっちで床屋を探してないんだ。前は決まったところに通っててね、新天地でお気に入りを探すところからなんだ。」
床屋というのは難しい。話しかけてくるタイプ、淡々と切り進めるタイプなど店主で様々だ。もちろん秀人が探すのは後者であり、そんな店を探すところから始まっていた。
「何処かにないかな?一言もしゃべらない床屋とか。」
「…美容院だから…わからない。」
「ぼ、僕が行くところは駄目だと思う。」
「だよね。」
「いた。」
「先生おはようございます!」
しばらくすると林と大山がやって来た。林は何かと秀人を抱こうと近づいてくるが、最近は周りが阻止する流れになっていた。
「離して。」
「女性がむやみにしてはいけませんから!」
「…まあまあ。」
「も、もう慣れたけど…まだ諦めないの?」
「無論。」
「朝からお疲れだね。」
「…2人は…床屋?」
「あ、あの話し続くんだね。」
「自分は床屋ですね!店員さんと楽しく話してます!」
「家。」
「これは外れだね。」
「ところで!何の話をしていたのですか!」
秀人は簡単に伝える。髪を切りたいから、喋らなくて良い店を教えてくれと。
「うーん…心当たりないです!」
「ごめん。」
「まあ期待してなかったからいいさ。結局は当たって砕けて、探すしかないだろうし。」
「…ファイト。」
「へ、変な髪型にならないといいけど。」
午前の授業も始まるので一旦解散、昼食会でもこの話題になった。
「私か?すまないが力になれない…美容院だ。」
「私もよ。」
「はいはい知ってましたよ。」
「…数打ちゃ…当たる。」
「あ、当たるまで苦労しそう。」
「同意。」
「以前行っていたところは遠いのですか?」
「もし近くならば、無理に冒険する必要もなくなるが。」
「決まった場所があるなら、無理してでもそこの方が良いと思うわ。」
「それもそうだね。」
そして秀人は放課後、毎度世話になっている床屋まで行くことに決めた。引っ越す前の場所とはいえ、電車を使えば1時間程度で着けるようだ。
「悪いけどタマをよろしく。」
「任せてください!」
「…やっとく。」
「タマ?」
「た、高山くんが飼ってる猫だよ。」
「預かってるのさ。良い引き取り手がいるなら、是非ともってところだよ。」
「本当はいないと寂しいんじゃないかしら?」
「まあ高山くんの考えだ。」
「行く。」
「頼むからやめて欲しいんどけど。」
「猫だけ。」
「先生!怪しいことしてたら見逃しませんから!」
「…林も…頑固。」
「め、迷惑だけは駄目だからね。」
「高山くんは安心して行ってくるといい。今日は私も時間がある、同行しよう。」
「私は図書委員だから。」
「じゃあ先輩、お願いします。」
不安が残ったが仕方ない。今の秀人は髪を切ること、それを一番に行動していたからだ。放課後になり、大山へ鍵を渡した秀人は電車に乗っていた。
「さてと…次の駅か。」
電車を降りてまっすぐ床屋へ向かう。以前は何気なく通っていた道も、少し時間が空けば違って見えた。10分も歩けば、秀人の目的の場所へついた。
「お、やってる。」
正直来てみたら休みだった、そんな場合も考えていた。
「いらっしゃいませ。」
「また短めに。」
「耳は。」
「出してください。」
これで終了。いつも秀人と店主のやり取りはこれしかない。これ以上の会話もなく、切り終えた髪型を確認する秀人。
「これで?」
「ありがとうございます。」
「お会計は3000円です。」
「どうも。」
これぞ彼が求める理想郷。どんな無茶をしてでもここに通おうと決めた一日だった。
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