人嫌い、先輩になる

それは週末の事。喫茶寄り道での仕事中、秀人はこんな話をふられた。


「そういや高山くん。明日から1人、新しいバイト入るからよろしくな。」


「えーウチ初耳ー。」


「てかよろしくって、僕何かするんですか?」


「男なんだよ。月宮さんにお願いしたいけど…ほら、職場で浮わついた心持たれてもね。」


「あーそれは困っちゃうー。」


「え、僕の時はなんだったんですか。」


「仕方なかったんだよ…バイトが月宮さんしかいないし、今は高山くんがいるからさ。」


「ちっ。」


「秀人ーウチからもお願いー男の人苦手なのー。」


「じゃあ僕にも近づかないでください。」


「あーん冷たいよーうりうりー。」


「離しやがれください。」


「…じゃあ高山くん、明日は頼むね。」


とても不本意な仕事ができてしまい、明日が来なければと願う秀人だった。しかし寝て起きれば出勤時間、諦めて寄り道に行くのだった。


「おはようございます。」


「あー秀人ーおはようねー。」


「来てくれたか高山くん!」


「帰ってもいいですかね。」


「いや、もう着替えてるんだ。よろしく頼むよ。」


「お待たせしました!今日からお世話になる正部正人で…」


「よろしくお願いし…」


「あれれーどうしたの秀人ー?うりうりー。」


「凄い…いつもならすぐ弾くのに無反応。」


「これはこれでーつまんないよー。でもー触り心地良いー。」


「「店長、今までお世話になりました。」」


「なんで2人して辞めることに!」


秀人の後輩となる人物。それは以前お互いの主張をぶつけ合い、決して分かりあえないと確信した正人だった。正人も秀人の事を覚えていたようで、顔を合わせた瞬間固まった。


「店長僕には無理です。こいつの相手するなら他所行きたいです。お世話になりました。」


「すみません店長。今日から精一杯働きたかったですが、こんな奴がいるなら他所に行きます。お世話になりました。」


「「あ?」」


「なんだかー険悪だよてんちょー。」


「えっと、君たち知り合いなのかな。」


「「こんな奴知りません、気にくわないだけです。」」


「仲良さそーだけどねー。」


「「あ?」」


「とりあえず落ち着いて、仕事の付き合いだから私情はやめろ。」


「ちっ、なんで僕がこいつを。」


「…店長の言うことも正しい。お前も従えよ。」


「うるさいな。仕事で仕方なくなら、君みたいな奴とも付き合ってやるよ。一言も喋らないでね。」


「お前みたいなねじれ野郎、本当なら顔も見たくねえけど。一言も話しかけるなよ。」


「「やるかお前?」」


「とりまー仕事しよっかー。」


「…月見くんよろしく。俺は厨房にいるから。」


「おっけー任しててんちょー。」


こうしていがみ合う2人のバイトは始まった。仕事となれば冷静になり、秀人はしっかりと教え正人も覚えようとしっかり聞いていた。


「それさっき教えたよね。いやーお花畑脳じゃ無理だったかー。」


「いや初耳だぞ。お前わざと黙ってたろ。」


「え、言い訳するのかい?」


「はいはいー喧嘩ストップー。」


衝突は避けられないものの、間に心愛が入り仲裁。その流れを繰り返すなかで、ようやく正人の仕事ぶりも様になってきた。


「8番席、サンドイッチとコーヒーです。」


「コーヒーは僕が。」


「あ?お前が作ると泥水だろ。」


「ふ、これだからお花畑は。」


昨日教わったばかりのコーヒー入れ、それを見せつけるように秀人は行っていく。ただコーヒーを入れるのではなく、温度や豆の配合具合に挽き方と順序は多い。


「はい。これ運んできて。」


「本当に大丈夫かよ…」


「てんちょーのOKも出てるしーウチも美味しいと思ったよー。」


「月宮さんが言うなら、平気そうですね。」


「自分が出来ないからって、嫉妬むき出しに噛みつかれてもね。」


「すぐに追い抜いてやるよ。」


今日が初めての提供にはなったが、秀人のコーヒーは受け入れてもらえたようだ。秀人も缶コーヒーなどは楽しんでいたが、しっかりと挽いて入れる事は初だったので緊張があった。


「…家でもやろうかな。」


「美味しいよー家で飲むよりー店で作ると段違いー。」


「良かったなねじれ野郎。ごまかせたみたいで。」


「新人が生意気だよ。」


「よーし、この調子でがんばろー。」


それからも衝突はあったが、終業までやりきった秀人たち。秀人は馴れてきたのか平気な顔、正人は初日だからか疲れきっていた。


「はっ貧弱。」


「うっせえ。」


「おつー。」 


「いやー高山くん。助かったよ!」


「で?これからどうなるんですかね。」


「え。」

 

「少なくとも俺とこいつは別日にしてください。」


「いやそれが…土曜だけはどうしても被ることに。」


「1日だけなら…そのうち手が出そうだけどね。」


「そんときは返り討ちにしてやるよ。」


「2人ともー落ち着いてー。」


「まあよろしく頼むよ。まじで助かってるから。」


「…仕方ないか。」


「邪魔だけはするなよ。」


和解は出来なかったが、仕事と割り寄るくらいには成長できた2人だった。

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