人嫌い、事情を聴く

「いた。」


「よし!僕はここらで」


「駄目。」


昼休み。来てしまったその時を逃げ切ろうと決めていた秀人だったが、林の方が早くまた朝のように抱きつかれた。


「…くそったれが。」


「…まあまあ…任せて。」


「ま、またやるの?」


また二人がかりで引き剥がし、この場ではどうしようもないと思った秀人たち。仕方なく昼食場所である校舎裏まで行くことにした。


「先生!ご無事でしたか…てめぇ朝の!」


「おや?君は笠原くんか。」


「新しい人…そんな歓迎ムードではなさそうね。」


「…ヘルプ。」


「な、なんでこんなに強いんだか。」


校舎裏についた瞬間、引き留めていた麗華たちを振り払い、再び秀人にくっつく林。


「…普段は頼まないけど、今日ばかりは助けを求めて来たんだ。」


「嫌?」


「嫌だよ離れてよ。」


「これは…何があったんだい?」


「…分からない。」


「先生に害あるなら許せません!」


「ひ、ひとまず話を聞かせてよ。」


「今日も面白くなりそうね。」


秀人は話す。珍しく人に良くした昨日の事を、その結果朝から付きまとわれ流れで戦ったことを。


「高山くん、女性に蹴りをいれるのはどうかと。」


「忠告はしたんで。」


「それで?懲りずにまだ来てるって話なのね。」


「そうなんだよ。」


「やはり先生の敵ですか!ここは自分が」


「や、やめた方がいいよ。笠原さん、まだ負け知らずのボクサーだよ?」


「そうなの?どうりで捌かれるわけだ。」


「…でも…なんで…くっつくの?」


「そこが知りたいんだよ。」


ちなみにこの会話の間も、林は秀人にベッタリである。方に頭を乗せたまま、抱きついて離れない様子だ。


「まるでコアラだよ。」


「笠原林。」


「うるさいよ知ってるよ。」


「あなたは?」


「…秀人…名前…伝えた?」


「その必要ある?僕としては傘も返してもらえたし、もう関わりたくないんだけど。」


「笠原くん。この通り高山くんも困ってるみたいだ。少し離れてはあげれないか?」


「高山?」


「先生!顔色がどんどん悪く…」


「な、なんか感情も死んでるよね。」


「無にならなきゃ吐きそうだし、それかこの場で自殺しそう。」


「…追い込まれ…すぎ。」


「高山秀人。」


「そうだよそれが名前。」


「覚えた。」


「…笠原くん。ひとまず離してあげよう、このままだと君の恩人は死んでしまうらしい。」


「困る。」


ようやく離れた林。だんだんと生気が戻ってきた秀人は、改めて話を聴くことにした。


「元気が出てきたよ。」


「…それは…良かった。」


「で?なんで僕に付きまとうのさ。迷惑極まりないからやめてほしいし、接触も勘弁してよ。」


「何故?」


「こいつ…。」


「で、でも変だね。蹴られた相手になつく…とは違うかな。」


「しかし先生に害があるなら、離すべきです!」


「理由も聞かずだと、こっちが悪者よ。」


「話す。」


彼女のワンフレーズ会話は時間がかかったし、単語を繋げるのにも苦労した。

その話によれと、昨日の親切にはすごく感謝したそうだ。朝傘を返し名前を聞いて、正式にお礼がしたいと思ったが何故か戦うことに。負けるとは思っていなかった勝負に負け、お礼以外でも興味が湧いたとのこと。

単語喋りは癖のようで、話すよりは行動をするタイプらしい。抱きついたのは逃がさないため、後はこうされると男子は嬉しいと思ったからだそうだ。


「いや全然嬉しくないよ、なんなら気分最悪。」


「ごめん。」


「もう二度としないでよね。」


「無理。」


「あ?」


「気に入った。」

 

「どうやら高山くん、抱き心地最高みたいだな。」


「…秀人…仕方ない。」


「さすが先生!抱き心地も最高とは!」


「そ、その誉め言葉は変だと思うよ。」


「事情は分かったわね。これでまた一人、あなたが人を連れてきたってことね。」


「また?」


「…私たち…秀人が…繋いだ。」


「先生のおかげで日々を楽しく過ごしてます!」


「高山くんがこの場を作ったと言っても、おかしくはないな。」


「ぼ、僕は勝手についてきてるだけだけどね…。」


「不思議なことに、一番人嫌いな彼がみんなを集めたのよ。本人は嫌そうだけど。」


「面白い。」


「何が面白いのさ。僕は困ってるんだよ…1人でいたいのに。」


「…今さら…何を。」


「お世話になります先生!」


「こうしてご飯を食べるくらいだが、よろしく頼む。」


「ぼ、僕は後ろの方にいるよ。」


「諦めを覚えたんでしょ?今が使い時みたいね。」


「よろしく。」


「…まじで?」


話をしていたらあっという間に昼食時間は終わり、解散となった。昼食会のメンバーには林も加わり、7人という大所帯となっていた。


「どうすれば一人になれるんだ…僕はどうしたら救われるんだ…。」


「…秀人…平気?」


「そう見えるなら眼科に…この話はしたね。平気じゃない。」


「…今日は…委員。」


「あーそうだったね。図書室なら、1人になれるか。」


放課後の救いを期待して、午後の授業に挑むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る