"サカズキ"争奪戦 前半戦
第9話 "破のサカズキ"
■9月15日 11時05分
シンとの衝突のあと、アマツは、八つの〝サカズキ〟の回収に向かっていた。
今は砂漠地帯の手前で、少し休みを取ってる。昨日の戦闘の後、一晩中ヒトの集落を襲いながら移動していたが、予想よりも時間がかかっていた。数千年ぶりに動く肉体では、まだリハビリが必要なようだ。
彼女の求める八つの〝サカズキ〟は、この数千年の間に大陸中に散っていった。しかし、〝呪のサカズキ〟と〝破のサカズキ〟の二つがどこにあるのかだけは、アマツにはわかっていた。
女神像としての彼女は、いわばヒトがマナを掘削するための装置だった。
マナは、それ自体ではヒトにとって有毒な物質でしかない。マナをオーブに変換してはじめて、ヒトが扱えるものとなる。彼女は、半死半生の状態で、常に星のマナと接続され、オーブを生産し続けていたのだ。その間、マイヤは、星のマナと非常に深い部分で繋がっていた。そして、常に感じていたのだ。ヒトに対する強い怨念を込められながら、この星のある地点でマナを吸い、起動し続ける〝サカズキ〟の存在を。
その場所は二ヶ所ある。
一つは、北の大地。怒りと憎悪を込められた〝サカズキ〟が、異常なほどのマナを吸い上げている。こちらが〝呪のサカズキ〟で間違いないだろう。
もう一つは、西の砂漠。こちらでは悲しみと絶望が染み付いた〝サカズキ〟が、淡々とマナを吸い上げている。こちらにあるのは、きっと〝破のサカズキ〟だ。
〝サカズキ〟とは、ホシタミが魔術を使うために用いる媒体である。
ヒトとは違い、ホシタミはマナを体内に取り込み、循環させ、魔術を行使することができる。その魔術をより効率的に扱えるようにする道具が〝サカズキ〟だ。地殻や大気中からのマナを吸い上げと、そのマナを特定の属性を持つ魔術に変換するサポートを行う。
そんな〝サカズキ〟の中でも、史上最強の〝サカズキ〟が〝草薙剣〟だった。
その剣は八つの特別な〝サカズキ〟に分割された。アマツの持つ〝炎のサカズキ〟もその一つだ。八つの〝サカズキ〟は、それぞれがとてつもない威力を誇るが、それでもヒトの滅亡という彼女の目的を果たすためには少々まどろっこしい。〝炎のサカズキ〟で世界中に火の玉を落とし続けるだけでは、時間も手間もかかってしまう。
短期間で、確実にヒトを皆殺しにするには、やはり最強の〝草薙剣〟が最適だ。〝草薙剣〟は、別名〝死のサカズキ〟。かすり傷ですら致命傷になる〝死〟の力。その力をもって徹底的にヒトを滅ぼすとアマツは決めていた。
「〝呪のサカズキ〟の回収は最後ね。回収してしまうと魔獣が消えてしまうし。まずは〝破のサカズキ〟から。」
そうつぶやくと、炎の四肢を操り、砂漠地帯の目的地に向かって飛翔する。一時間ほど飛行したところで、砂漠の中でも特に砂粒が小さく、蟻地獄のようになっている地帯を見つけた。確信をもって降り立つと、そのまま足をとられ、ズルズルと砂の中に埋もれていく。
「ジール……この下にいるのね。」
そう言って息を止め、目を瞑る。頭まで砂に埋もれて数秒。目一杯伸ばした燃え盛る右手の先に、何かが当たる感触があった。鋭い刃の部分だ。彼女の思ったとおり、斧はここにあった。
「……ignite!!」
アマツがそう念じると、斧が振動する。その衝撃派で、砂が波打つ。斧の柄を持ち直し、真上に掲げれば、砂は水しぶきのように跳ね上がり、アマツを囲むカルデラのように降り積もった。
アマツは上空に飛び上がり、斧をじっと見つめる。間違いなく、ジールの持っていた〝破のサカズキ〟だ。不意に涙がこぼれ出る。無言のまま、その斧の中にある力を、自らの四肢となっている炎の槍の中に吸い込んでいく。
「〝破のサカズキ〟、問題なく取り込めたわね。……ジール、あなたの無念、私が引き継いだわ。」
アマツが両手足に力を込めると、炎のゆらめきとともに強烈な振動派が発生し、大気を震わせる。
これで再びシンと戦うことになっても、間違いなく勝てるだろう。〝サカズキ〟を一つしか持たない者と二つ所有する者では、圧倒的な戦力差がある。
ただ、シンも〝サカズキ〟を集めていくであろうことを考えると、どうしても先に五つの〝サカズキ〟を集めておきたい。最後の決着は、単純に集めた数の勝負ともいえる。先に過半数を集めれば、勝利は揺るがない。
時間がない。アマツはすぐに来た道を戻ることにした。
その道中、通りすがりのヒトの村が騒がしいことに気づいた。来る途中にも視界の隅に入っていたが、無視して通り過ぎていた村だ。
砂漠まで最短ルートで飛ぶ中で、進路中にあった村は潰してきたが、あえて回り道をしてまでヒトを襲いはしなかった。それでは時間を浪費してしまう。
しかし、先ほど通り過ぎた時、誰一人注視していなかった街頭テレビに、異様なほどヒトが群がっている。気になったアマツは、ふとその村に降り立ち、街頭テレビに目を向けた。そこには、どこかで見覚えのある、短髪で目つきの鋭い男が映っていた。
「繰り返し申し上げます! 炎の女神、アマツ様!」
男は、自分の名を叫んでいる。
「この放送を見ていれば、明日の正午、貴方が滅ぼした大聖堂跡地においでください!
私の名はマルス! 貴方と同じホシタミであり、また貴方を復活させた者です!」
その言葉を聞いた途端、アマツの脳内に、復活直後の記憶がフラッシュバックした。
そうだ。私の槍、〝炎のサカズキ〟に手をかけ、起動させた者がいた。そのおかげで私は復活したのだ。目が覚めた瞬間に目に入ったのは、この男の顔で間違いない。
しかし、突然の復活で混乱した私は、〝炎のサカヅキ〟を再起動させ、辺り一帯を焦土にしたのだ。
(何がおこった? ともかく、復活できた! この機を逃してなるものか! 今こそヒトに復讐を――)
そう思い、ひたすら破壊の限りを尽くしたのだ。
この男は、自分の巻き起こした炎の渦から生き延びたということになる。〝サカズキ〟は起動するためにもそれなりのマナが必要である。普通のヒトであれば、生命エネルギーすべてをマナに変換しなければ起動させることもできない。つまり、ヒトは〝サカズキ〟を起動させるだけで死んでしまうのだ。
〝サカズキ〟を起動しても死なず、自分を復活させ、さらに〝炎のサカズキ〟の攻撃から生還したというわけだ。
(ホシタミである可能性は高いわ。でも……)
しかし、ホシタミは既に滅んだはずだ。この世界にいるのは、女神像から復活した自分と、なぜか眠りから目覚めたというシンだけだと思っていた。他にもホシタミがいるというのか? 子孫なのか、生き残りがシンと同様に復活したものなのか。
アマツは画面を見ながら考えをめぐらせ、一つの結論に至った。
「こいつが何者であろうと、直接会えばわかるわ。」
そう微笑むと、アマツは〝炎破のサカズキ〟を起動した。そして、その場にいた村人たちは悲鳴を上げる間もなく、一瞬で灰になり、村は破壊された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます