とりあえずえっちな要素入れときゃええんや

 ところで、一つ僕には大きな疑問があったのだが。


「お前、催眠光線とかいう訳の分からんもの使えるんだったらさ……」

「手っ取り早く直接ますたぁを洗脳してみーにゃにデレデレにさせられたのではないか、と!」

「そう、それだよそれ。身も蓋も手間もない最適解だろ」


 それをされたら最初の一手で積みだ。

 抵抗する事すらできなかっただろう。

 しかしみーにゃはその意見を鼻で笑った。


「ますたぁ、発想が童貞ですねぇ」

「煩いわ! 世の中僕くらいの年で童貞な奴一杯いるわっ! というかそうじゃねーよ! 僕を貶めたいのならそれぐらい思いつくだろ!」

「まぁ可能か不可能かで言えば可能ですね。むしろますたぁを奴隷スレイブにして家でゴロゴロ出来るくらいです」

「……存在意義を失ったアンドロイドだな。催眠装置さえあればもはや当人がいる必要もねぇ」

「まったくです! みーにゃは人をダメにするソファの延長線上にいる存在ですよ!? 自分がソファに座ってどうするというのです!」

「キレる所そこじゃねーよ! その名誉無さそうな存在意義に対する謎の拘りなんなの!?」


 多分行動の優先順位で上位に位置しているのが人間への奉仕なのだろうが、それにしたってなにもソファじゃなくていいだろうに。座られたい願望でも植え付けられているのだろうか。


「座られたい……なるほど! ますたぁがそういうプレイをお望みであるならば、このみーにゃ、吝かではございません! ロープも鞭も常備していますとも! そーれっ!!」

「痛゛ぁッ!!」


 みーにゃがバチコォォン!! と、全くどこから取り出したか分からない鞭で僕の背中を引っぱたく。マジクソ痛くて涙が出た。


「何で!? 僕ぶってほしいとかそういう趣味があるとか一言も行ってないけどぉっ!?」

「コンプライアンス的な問題です! 漫画でもこういうのはだいたい男がやられてると規制の目も緩くなります!」

「誰が得するんだよその修正ッ!! 誰も望んでねぇなら最初からやるんじゃねーよッ!!」

「申し訳ございません、確認不足でした……では改めて、どうぞ!!」

「ん?」


 僕に鞭とロープを手渡したみーにゃはこちらにお尻を向けて四つん這いになり、首だけこちらを振り向く。


「さぁ、ますたぁ!! ダメなみーにゃにお仕置きという名の罰をっ!!」

「しねーよ!! だからそういう趣味ねぇって言ってるだろ!?」

「やってみたら新たな性癖に目覚めるかもしれませんよ! ご心配なく、打たれた箇所と強弱に応じて適正な悲鳴を上げる設定は既に行いましたので!!」

「何故そこまでノリノリ!? もしかしてぶたれたいの!?」

「ぶひっ!」

「だからそういうの求めてねぇって言ってんだろ!! だいたいアンドロイドに体罰が効果あるかいッ!!」

「ぶひぶひぃっ!」

「イエスかノーか分かんねえからその言い方!!」


 うきうき顔で豚の鳴き声を返すみーにゃ。ロボット三原則を破って人をぶったと思えば今度は自分が豚になる。これが製作者の設定だとしたらそいつはとんだドスケベ変態である。

 もういっそ一発鞭でシバいた方がいいのではないかと思ったが、マゾ設定が本物ならただ喜ばせるだけである。やられっぱなしは悔しいが、素直に諦めることにした。


「そんな、ますたぁ!? ここまで期待させた上に反撃の口実まで用意したのにお仕置き抜きだなんて! みーにゃはこの体の疼きをどう処理すればいいと言うのですか!?」

「だからアンドロイドはそういうのないだろうがッ!!」

「くうっ!! 未来のますたぁはドMのユヅキさんと夜な夜なそういうプレイに興じているというデータがあったから目覚めてくれると思ったのに!!」

「え?」


 今さらっと全く聞きたくない暴露が飛び出した気がする。

 ちょっと待て、そんなこと言われたら僕は明日からユヅキのことどんな顔で見ればいいって言うんだ。


「知らなかったのですか? ユヅキさんは中学頃から自分に痛みを与える行為に快感を覚えていまして、例えば自宅では翌日に体育の時間がない時だけ……」

「あ゛ーーーー!! あ゛ーーーー!! ヤメロぉッ!! 幼馴染の性癖とか聞きたくもないわッ!!」

「なんちゃってのジョークです。騙されましたか、ますたぁ?」


 悪戯大成功とばかりにニヤニヤするみーにゃのお尻に、俺は我慢できず鞭を一発全力で叩き込んだ。「ぶひぃぃぃんっ♪」と嬌声を上げられた。何故か言葉にならない敗北感に苛まれた。


「虚しい。余りにも虚しい。暴力は何も生み出さない……」

「流石はますたぁ、博愛の心に満ち溢れています」

「お前のせいだからなッ! 言っておくがッ!」

「では卑しいみーにゃめに罰をっ!! もしかしてあの赤くて人体に優しいロウソクとか面積の少ない衣装がないと興奮できま――」

「……」

「はっ! ますたぁが無言で何かを主張している! なになに……」


 どうやら俺の猛烈不機嫌な顔にみーにゃも何か思う所があったのか、態度を改める。


「えっ、そんなますたぁ! 恥ずかしいですぅ……でも、えへへ。そんな風に思ってくれていたなんてみーにゃ感激っ!」

「僕の意志を拾う気0%かァッ!! この仏頂面のどこをどう見たらそんなお花畑なリアクションになるッ!?」

「みーにゃみたいな可愛い女の子は、例えアンドロイドでも暴力を振るいたくないというますたぁのお優しい心は伝わりましたよ?」

「……」


 全く思ってなくはないことだったため、咄嗟に突っ込みが出なかった。その反応を是と見たのか、みーにゃはじゃれつくように僕の腕を抱いてしなだれかかる。


「ねぇ、ますたぁ。どうしてみーにゃがますたぁに催眠を使わなかったのか、ちゃんと言ってませんでしたよね?」

「え、うん……」

「アンドロイドの愛情はピュアなんです。人間の愛なんて子孫を繁栄させてそれを残す為の本能に過ぎません。でもアンドロイドにはそれがない。みーにゃは、ただ純粋にますたぁに寄り添いたいだけ……」


 囁くように、消え入るように、みーにゃはそれだけ言って口を閉じた。


 緩やかに流れる時間。やがて僕は口を開く。


「そんなこと言ってもお前に設定施したやつ人間の一番醜い感情大爆発だっただろ。騙されんぞ」

「むぅ。ぐうの音も出ない反論にみーにゃ閉口です」


 お前は製作者の味方か敵かどっちなんだ。本当に彼女が面倒を見るべきは製作者だったのではないかと思い始める僕であった。

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