天才たち

「ふふっ」


自分に向かって矢のように突っ込んでくるアンを見て、軽く笑う。

誰かと研鑽を積むのが、こんなにも楽しいことだなんて。

本当に、この二人に会えてよかった。


ライヤとアンがぶつかる時よりも数段大きい音とともに、互いの剣が交錯する。

流麗な片手剣を扱うアンと、重厚感のある大剣を扱うフィオナ。

元より膂力ではフィオナに分があるのでアンが突っ込んでいってもそこでとまる。


ただ、片手剣が明確に大剣よりも有利な点が一つ。


バチバチッ!


空いた手に雷魔法を纏わせたアンがフィオナに向かって突きを繰り出す。

もちろん、そんなことは予想済みなフィオナは少し力を込めてアンを剣ごと後ろに下がらせる。

押されると分かった瞬間に放たれた雷魔法への対処も忘れない。


「全く、やりづらいわね……」


思わず、そんな声を漏らすアン。

普段は自分が押し切る側、無理を通す側なのだ。

それをフィオナが相手だと、それ以上の無理で返されてしまう。

先ほどの突進にしてもそうだ。

ライヤなら抑え込むか受け流すか、どうするにしても技術を駆使しているのがわかるから納得できる。

しかし、フィオナはあれくらいであればパワーのみで解決してしまう。

それも大きな余裕を残して。


だからこそ、アンは実はフィオナとの場を大切にしていた。

自分の無理を、それ以上の理不尽で抑え込める相手なんてそうざらにはいない。

これ以上ないほどの訓練になるのだ。

そんなアンの思惑もわかってか、フィオナは基本的に受け身で対応してくれる。

そもそもの戦闘スタイルももちろん関係しているが、フィオナは結局のところ面倒見がいいのだ。


しかし、今日のフィオナは違った。


「ほい」


ライヤから借りていた二本のクナイを取り出す。

それぞれに水魔法と氷魔法を纏わせ、軽く投げる。

目標は、アンの足元。


「甘いわ!」


水魔法と氷魔法だというのを目視で確認したアンは風魔法で飛び上がる。

ただの氷魔法よりも、水魔法を併用した方が氷魔法の範囲が大きくなることは常識。

一気に足元を奪おうという作戦だと考えたのだ。


「えっ!?」


その考えは正解ではあったが、百点ではなかった。

フィオナが氷魔法が広がる方向に指定していたのは上方向。

二本のクナイを見たアンが上方向に逃げることまで見越しての魔法だったのだ。

クナイに魔法を纏わせる発動方法は投げた後はもう操作がしづらい。

投げる前に魔法がどう発動するのかを決めておく必要がある。

その代わりに、投げた後は他のことに意識を割けるというのが利点だ。


そして、この利点がとてつもなく大きい。

ただの魔法であれば、相手の魔法に干渉して無効化することもできる。

だが、クナイにまとわせた魔法を無効化していると、二の矢でくるであろう魔法や剣への対応が数瞬遅れてしまうのだ。


したがって、クナイでの魔法は相手を誘導するために使うのが適切である。

この短い時間でフィオナはそう結論付けていた。


「負けました……」

「ふぅー」


アンが足元から迫る氷魔法に自らの火魔法で対応している間。

アンと同じく風魔法で飛び上がったフィオナはアンに大剣を突き付けていた。


「まぁー、一帯がおかしくなっちゃっていいなら、魔法で上書きされてだめだと思うけどねー」

「戦争中でも味方を巻き込むことになるから、それはあまり考えなくていいだろうな。なるほど……。だとすると……」


決着を見て近づいてきたライヤは何やらぶつぶつ言っている。

明日にはもう自分のスタイルを生み出しているだろう。

目の前で起こったことに対する素直さがライヤの強さの一因である。


「久しぶりにしっかり負けたわ! 悔しい! でも、次は負けないわよ!」

「またやろうねー」


悔しさを全身で表現するアンと、いつも通りゆるーいフィオナ。

二人はなんだかんだ、互いを尊敬している。

とても素晴らしい関係といえた。





【あとがき】

私には決め技より、誘導する技のほうが格好良く見えるんですよね。


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