奥の手

「……ほう」


少し前のめりになるギル。

この時点でライヤはこの商談の勝利を確信した。


「そこでこれだ」


ライヤが懐から出した一通の文書。

そこには聖王国の印とともにこんなことが書かれていた。


『聖王国は聖女の名のもとにライヤ・カサンへの援助を惜しまないものとする』


聖王国の全面協力を意味するものであった。


「……嘘じゃないだろうね」

「確認どうぞ?」


渡された文書をギルはまじまじと眺めるが、粗などあるはずもない。

だって本物だから。

ミリアリアにお願いしたら二つ返事で書いてくれた。

いつでも使えるように持っていてよかった。


「そうなると話は変わるねぇ?」

「だろ? ちなみに、これを使って引き出せるものを先にカミングアウトしておこう。聖王国における関税の免除だ」


これがどれだけ大きな意味を持つか。

関税というものは商人にとって常に悩みの種である。

仕入れ値に関税を含んだ値段で儲けを出すためにはさらに値段を挙げる必要がある。

その結果客の出せる上限額を超えてしまって潜在顧客を失ってしまうのだ。


しかし、関税を免除されればそんなことに四苦八苦する必要はなくなる。

考えるのは他の商品よりもどれだけ安くするかという一点のみだ。

多少質が落ちようとも値段が安ければそちらを買うという客層は一定数存在する。

そしてそんな客層がほとんどであるというのが実際のところだ。


「いいだろう。その話、のんでやるよ」

「迅速な決断に敬意を。じゃあ、これから俺たちは協力関係だな?」

「その話なんだけどねぇ?」


スッと席を立ったギルはテーブルを迂回してライヤの座るソファーの隣に来る。


「あたしたちがもっと深い関係になればもっと話は早いと思わないかい?」


そういってしなだれかかってくるギル。

その体がライヤに触れる一瞬前。

ライヤは風魔法を発動し、一瞬でその場を離れる。

体重を預けようとしていたギルはそのままコテンとソファーに横になる。


「大変魅力的な提案であることは認めるけど、それにはのれないね。家に帰ったらこわーい人たちが待ってるんだ」

「噂のアン王女かい?」

「さあね?」


もちろん、筆頭はアンだが。


「私も別にアン王女を敵に回したいわけじゃないけど……。あんたがもう少しいい男になったらそんなこといってられなくなるかもね?」


怪しく唇を濡らすギルに柔和な笑顔を返すライヤ。


「今でも精一杯背伸びしている状態なんだ。その期待にはこたえられそうもないな」





【あとがき】

普段怪しげな魅力を持っているキャラがふと少し間抜けな姿をさらすのが好きだったりします。


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