質量は正義

「(こりゃ当たりを引いたな……)」


場所を変えようと前を歩くライヤの背を見ながら男は集中を高めていた。

一見隙だらけに見える背中だが、仕掛けたが最後、決闘という枠組みが外れてどんな手を使ってでもやられるだろうという確信めいたものがあった。

その予感は正しいが、ライヤにやられるというのは間違いだ。

ライヤに加えてアンとフィオナも参戦してリンチが始まるのだ。

そういった側面もあってライヤも敢えて隙を見せているまである。


「ここらでどうだ?」

「問題ねぇな! さぁ、やろうぜ!」


町外れの平原。

そこで今、2人の男が向かい合う。

始めの合図なんていらない。

2人は既に牽制しあっていた。


「オラァ!」


男が地面に手をかざすと、ライヤに向かって地割れが起きる。

ライヤは慌てることなく、避けもしない。

ライヤの前方3メートルほどの位置で地割れは止まる。

制御を奪ったのだ。

だが、ライヤは少し顔を顰める。


「オラオラオラァ!」


次は地面が隆起したり、棘状となって襲い掛かってきたり。

種類は様々だが、土属性の魔法が得意なのは確かだろう。

それを悉く無効化しているライヤだが、あまり顔色は優れない。


「なんでライヤさんの顔は不満げなんでしょうか」

「思っていたよりも相手が強かったんじゃないかしら。どうせライヤのことだから面倒くさがって一瞬で終わらせようとしたはずよ。効果的なのは相手の魔法の制御を一瞬で奪って相手にぶつけること。ぎりぎりで防いでいるわけでもないから、間違ってないと思うわ。

想定よりもあの軽薄男の魔法制御がしっかりしてて不満なんでしょ」

「がんばれ~」


外野がやいのやいの言っているが、無視する。

しっかり当たっているのが辛いところだ。

舐めていたわけではないが、決闘を長引かせたくなかったライヤは一瞬で終わらせるためにアンの言っていた作戦を考えていた。

だが、ライヤの本気の気配に勘付いた男は最大限用心しており、始まりの瞬間に油断をしているなんてことは無かった。


ボンッ!


ライヤは足元から土煙をあげて空中へと飛び上がる。

十八番の飛行ではなく、男へと放物線を描いて落下していく。

手にはライヤの背丈ほどもある大きな氷魔法のこん棒。

空中で創り出し、振りかぶる。


「こいよぉ!」


それを待ち受ける男。

ライヤの想定通りだ。

男はその体躯に似合わず繊細な魔力制御を行っていた。

主要な攻撃手段が魔法なら、その鍛えられた体は何のためにあるのか。

防御のためだろう。

あれほど自信満々なんだから、初撃は受けるだろう。

そう考えての大振りである。


「よいしょお!」


やや格好悪い掛け声と共に男へ渾身の力で棍棒を振り下ろす。

男は両腕をかざし、受け止めようとする。


バキンッ!


男へ棍棒が振り下ろされようかというその瞬間。

棍棒が二回りほど大きくなる。


ガオンッ!


質量物がかなりのスピードで通り過ぎる音が聞こえ、地面に叩きつけられる。


「がかっ……!」


地面にぼろぼろにひしゃげた男の姿。

咄嗟に土魔法で衝撃を和らげようとしたのか、男が纏っていたような土の塊が転がっており、少し地面が柔らかくなっている。

その判断の速さには目を見張るが、余裕綽々で受けようとしたのがまず間違いだ。

ライヤの腕力ではあんな大きさの棍棒を振り回すなんてことはとてもできない。

風魔法で補助しても、隙だらけだろう。

だが、ライヤには男が正面から攻撃を受けるだろうという確信があった。

つっかけておいて、あれだけ煽っておいて避けるなんてダサい真似しないよな? という男のプライドを信用したのだ。


後は簡単、自分でも振り回せる大きさの棍棒を敢えて大振りして、これなら受けられると思わせる。

ぶつかる直前に更に氷魔法を重ね、重く太くする。

既に振り下ろしている段階なら重くなろうがあとは重力に任せればいい。

まだ力を入れている段階で重くしたら手首がいかれる。

ちなみに実験済みである。

あそこまで受ける態勢になっていて避けるのは不可能だ。

致命傷でもヨルに治してもらえばいいかとかなり本気でやったのだが、なんだかんだ無事なのは凄い。


「よし、ここまで面倒なことを俺にさせた罪を償ってもらおうか」

「絶妙にダサいわね……」


いいだろ!

ここ数年で何回決闘じみたことやってると思ってるんだ!





[あとがき]

ふと思った。

これ、毎日投稿現実的じゃないな、と。

というわけで、これから2日に1話を目標に書いていこうかと。

あくまで目標ですけど!(予防線)


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