努力と無茶

「……大丈夫か?」

「えぇ、大丈夫ですとも。少々全身が痛いだけです」


何してたんだ……。

翌日の学校。

王城で休んだはずのウィルがボロボロの状態で登校してきた。


「本当に大丈夫ですか?」

「……心配」


ティムはともかく、エウレアまでも心配と口にするくらいである。


「まぁ、明日から週末だからな。ゆっくりテスト勉強でもして休めばいいだろ」

「明日からが本番みたいなところありますが……」


本当に何してんだよ。


「頼むからテスト当日に体調不良で来れないとか、無理して来るとかいうのがないようにな?」

「その時にはヨル先生に治してもらって頑張ってきます」

「それを無理しているって言うんだよ」


ポカリと軽くウィルの頭をはたく。


「努力は尊いものだが、限界を超えた努力は身を滅ぼすんだ。やれる範囲で構わないんだぞ?」


我ながら言葉の重みが違う。

前世で勉強のし過ぎで死ぬという大失態を犯した人間だからな。


「これは忠告じゃなくてお願いだ。俺はウィルのことを大事に思ってる。できるだけ本人の意思を尊重してほしいけど、体を壊すのは看過できない」


あくまでもさらりと受け流そうとするウィルの両肩を掴み、正面から目を見て話す。

最初こそあっけにとられたウィルだったが、ボッと顔を赤くしてどもる。


「えっ、えっ……?」

「それは努力じゃなくて、無茶というんだ。頼むから、自分を大切にしてくれ」


ウィルが自分のことを二の次に考えているのはライヤも初めて会った時から感じていた。

王家で末っ子であることが影響しているのか、姉や兄に対する劣等感か、それともその両方か。

他にも要因があるのかもしれないが、なんにせよ自分の身を軽視している。


「わ、わかりました。本当に無理のない範囲で……」

「頼むぞ」


パッと手を放し、周りに目を向けると、生徒たちがガン見していた。


「これが夫婦か……」

「すごいなー」

「……(あたふた)」


リアクションは様々だが、なんにせよ照れている感じだな。


「もう、先生ったら。こんなところで見せつけても何の得もないですよ?」

「見せつける? ……あぁ、なるほど」


夫婦が仲睦まじい様子を外部に発信するのは影響力があるってことか。

ウィルは王女だし、何なら関係は一応伏せている状態だ。

生徒たちしかいないから良かったが、もっと外では気を配る必要があるな。

だが、ウィルは満足げである。


「……じゃあ、授業始めるか」

「もう少し余韻に浸らせてくれてもいいんですよ?」

「夜にちゃんと寝る。そのためにはちゃんと日中に勉強するのが一番なんだよ」

「はーい……」


テストは万全な状態で受けるべきだ。

俺が保証する。





[あとがき]

悪いニュースが多くて気の休まらない世の中です。


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