それぞれのテスト勉強

「勉強を教えてください」


ミクの前にSクラスの生徒たちが揃い踏みしていた。


「先生に教わればいいのでは?」

「先生も忙しそうにしているので。それに、去年からこの方式をとっているのです」

「ウィルさんもですか? 必要だとは思いませんけど……」


そこにはウィルの姿もあった。


「もちろん、合格点を取るだけなら現段階でも大丈夫です。先生の授業を聞いていればとれるようにテストを作ってくれますから。ただ、先生と結婚してから成績が下がったなんて言われるのは私にとっても先生にとっても好ましいことではないでしょう?」

「それはそうですね。ただ、私がお力になれるかどうか……」

「何を言っているのです。いつも私たちに遠慮して授業中は大人しくしていますが、授業内容を網羅しているでしょう?」


ミクは少し驚く。

自分では目立たないように隠していたつもりだったのだ。


「まぁ、気にすることではなかったので言及はしませんでしたが。私たちは貴族や王族です。他人の嘘などを見抜く力は嫌でも身につきます。ミクさんのは嘘とも言えないものですがね」

「怒ってはいないのですか?」

「なぜです? 自分の実力を隠そうと思うのは自然なことだと思いますよ。余計な波風を立てることにも繋がりますからね。ただでさえミクさんの立場は微妙ですから、当然でしょう」


考えていたことまで当てられ、動揺するミク。

10歳の体とはいえ、日本では高校生まで経験していた。

こちらの10歳に見破られるようなちゃちな隠し方だったのかと少し落ち込む。


「理由に関してはライヤ先生が言っていましたけどね。ヨル先生が王国に来た時も同じようなものでしたので、私たちは気付きやすかったというだけですよ」

「……そういえば、ヨル先生も諸国連合の人間でしたね」

「えぇ。まぁ、それはさておき。協力してくださいますか?」

「私でよければ、喜んで」


こうしてSクラスの臨時教師が誕生した。





「あんたは他の子と勉強しないの?」

「俺のレベルに合わせてたら他の奴の勉強が進まないだと」

「よくわかってるじゃない」

「ぐっ……」


その勉強会に参加していない1人、キリト。

イリーナともだいぶ打ち解けて軽口を叩ける程度にはなっていた。


「そこ違うわ。最初からやり直しなさい」

「え、ここだけ訂正すれば……」

「答案の流れを叩きこむの。あんた、自分が間違ったところだけ直せばいい頭の良さだと思ってるわけ?」

「……」


キリトは無言で別の紙に答案を書き直し始める。

打ち解けるという事は遠慮がなくなるという事だ。

最初は厳しいながらも他人だからと割と丁寧に教えていたイリーナだったが、時間が経つにつれてそのスパルタっぷりが姿を現してきた。

自分に厳しく、他人にも厳しい。

それがイリーナである。


「先輩はこんなことしていていいのか?」

「こんなこと?」

「いや、自分の勉強はいいのかなって」

「馬鹿なの? テスト勉強っていうのは、普段から勉強をしてない奴がどうにか足掻こうとするものでしょ? 普段からしていれば普段通りの勉強でいいのよ」


正論である。

だが、無理な話である。

やったことをそのまま頭に叩き込めるような能力がなければならない。

そして、人間の大半はそんな頭は残念ながら持っていないのだ。

予習・復習が必要であったリ、何回やっても覚えられない事項なども出てくる。


「天才っているんだな……」

「あたしは天才なんかじゃないよ。ほら、あたしよりも馬鹿なあんたはもっと手を動かしなさい」

「はい……」





「あなたはその勉強会に参加しなくていいの?」

「……うん、恥ずかしいから……」


もう1人、勉強会に参加していないシャロン。

ヨンド家の夕食でその話が出た。


「勉強はずっとしてたものね」

「(コクリ)」


ミクを除けばクラスで一番ちゃんと勉強をしていたのはシャロンだ。

勉強は得意ではなかったが、ライヤに褒められたい一心で勉強していたところ、逆に勉強が好きになってしまっていた。


「でも、未だにクラスの子といて恥ずかしいというのはどうなのかしら」


母親は心配するが、大事な情報が抜けている。

彼らは今、教師不足なのだ。

そこにテスト範囲を網羅しているシャロンが来れば教えを請われるに決まっている。

周りで聞いているだけならともかく、自分が教える側になれるとは到底思わなかったのだ。


「まぁ、シャロンは自分のペースで頑張ればいいわ」

「……うん!」





[あとがき]

一回やれば覚える脳が欲しい。


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