翌朝

「昨晩はお楽しみでしたね?」

「何のことかな。いや、まずなんでいるんだ」


翌朝、流石に2人一緒に部屋から出てくるのは気まずいという事でライヤだけ先にリビングに出たのだが、なぜかウィルがいた。

彼女は夜には王城に帰らされているので朝ごはんの時にはいつもいなかった。

登校して顔を合わせるのだが、なぜか今日に限って来ていた。

そして開口一番のこれである。


「どこで覚えてきたんだそんな言葉」

「どこででも覚えられると思いますよ?」

「テスト勉強は?」

「ライヤさんが楽しんでいる間もちゃんとやっていましたよ」

「なんか一々棘があるな……」

「おはよー!」


ウィルの圧とライヤが必死に戦っていたところにつやっつやのアンが登場する。

未だかつて朝にこれほどのテンションだったことがあっただろうか。


「アン姉さまもおはようございます。感想をお聞きしても?」

「ふ、あんたにはまだ早いわ。フィオナとヨルが終わったら3人で感想を話す会でもしようかしら」


うっすらとその色白な額に血管が浮かんでいるウィルと、同じく色白な肌が上気してピンクがかっているアン。

そして朝からこうならないようにと出てきたのに……、とげっそりしているライヤ。


「ほらほら~、早くご飯食べないと学校に遅れちゃうよ~?」

「フィオナさんはいいのですか!」

「だって、次は私の番だしね~。あんまり怒る理由が無いかな~」

「くっ、私の味方はいないのですか!」


キッとウィルはヨルを睨むが、睨まれたヨルはスッと視線を外す。


「神様!」


そんなことで手を貸してくれる暇な神もいないだろう。

というか、神に祈るほどのことか。


「この話は前もって決着がついてたんじゃなかったか?」

「それはそれです。実際に行動に移されたとなっては気も休まらないというものです! おかげさまで昨日は眠れず、勉強がはかどってしまいました!」


よく見れば目の下にうっすらとクマのようなものが出来ている。

なんで昨晩の段階でアンがライヤの寝室に押しかける予定を知っていたのか。


「女の勘です!」


こわっ。


「じゃあちなみにフィオナとヨルは気付いてたのか?」

「まぁ、なんとなくはね~」

「気付いていた、というほどじゃないですけど。何か雰囲気が違うな、とは思っていました」


まじかよ。

女の勘って侮れないんだな。


「時間大丈夫~?」

「はっ!」


まずい!

遅れる!


「ヨル、先に行っとくぞ!」

「気をつけてくださいね」

「ウィル! 行くぞ!」


未だにアンとバトルをしているウィルに背中を示すが、一向に乗ろうとしない。


「妻に対しておんぶは違くありません?」

「そんなこと言ってる場合か! しかも別にいいだろ!」


渋るウィルをお姫様抱っこで抱え、玄関へと猛ダッシュする。

抱きかかえられたウィルはアンに向けてあっかんべー。


ビキッと後ろで血管が浮き出る音が聞こえたような気がするが、気のせいだろう。

人間の体ってそうはできていないはずだ。





「今日は仲良く登校ですか?」

「これが、仲良いように見えるか?」

「見えますね」



学園に到着し、肩で息をしているとたまたま通りがかったデラロサに会った。


「なんでそんな二宮金次郎みたいな……」

「ニノミヤ?」

「あぁ、何でもない。本読みながらだと危ないぞ?」

「気を付けます」


教科書を二宮金次郎スタイルで歩きながら読んでいたデラロサに注意するが、あまり響いてない様子。

まぁ、日本とかと違って車がいたりして特別危ないということは無いのか。

貴族用の校門から来るのだから馬車がいたとしてもちゃんと道路は整備されてるしな。


「ほどほどにな」

「はい」

「じゃあウィル。俺一回職員室行かなきゃだから」

「はい、また後で会いましょう」


笑顔でライヤを見送った後、ウィルはデラロサと共に教室に向かう。


「いつも先生と来ているんですか?」

「いいえ、そんなことはありませんよ? 今日が特別な日なんです。悪い意味ですけどね」

「そ、そうですか……」


ウィルの暗い笑みにビビりながら、デラロサは教室に向かうのだった。





[あとがき]

いわゆる女の勘の的中率を調べてみたい。


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