思惑

「よし、着いたぞ……」


時は進み、体育祭開始から1時間ほど。

会場では中間発表が行われ、保護者たちが子供のクラスのポイントに一喜一憂している頃。

何のめぐりあわせか、Aクラスの男子生徒たちが範囲の端っこに到達したときにはその様子は映し出されていなかった。


「……?」


その一団についていっていたDクラス担任のニキーナ・ユーリーは地面に違和感を感じていた。

どことなく揺れているような、地響きのような……。


「! まずいかも!」


即座に飛行魔法を発動し、上空から見下ろす。

王都からは逆向き。

今回の体育祭の範囲の向こうの森から夥しい数の魔物がこちらへと向かっているのが見えた。


「嘘……。体育祭で使う範囲の外側まで間引いたはずなのに……」


範囲内だけ間引いていても周囲から入られたらどうしようもない。

よって、今回使う範囲よりも外側も間引いていたはずだ。

間違ってもあんな数がいるわけがない。

それに、こちらに大挙して押し寄せているのも魔物の習性にない行動だ。


「それどころじゃない!」


一瞬で思考を切り替え、生徒たちの方へと向かう。


「あなたたち! 逃げなさい!」

「なぜです?」


ニキーナの必死の呼びかけに薄笑いで返すドウェイン・ユーリー。


「体育祭中ですよ? いくらお姉さまでも止められないですよね?」

「姉としてではないわ! 教師として言ってるの!」


2人は異母姉弟であった。


「こうなったら無理やりにでも……!」

「おっと、お待ちください」


魔物たちを魔法で食い止めようとしたニキーナの首元にナイフが添えられる。


「軍が関与しているんですか……!」

「俺もお姉さまを傷つけるつもりはありませんから。そこで大人しく見ていてください」


5人の軍人に取り押さえられるニキーナ。


「あなたたちに敵う相手じゃないわ! 森より向こうは……」

「なぜやってもいないのにそんなことがわかるんですか? 俺たちは体育祭中に運悪く森から出てきた魔物たちと遭遇。やむを得ず、交戦します。結果的に魔物たちを退けてその魔物たちの強さと討伐数から体育祭でも優勝。王国を救ったとして報奨も出ることでしょう」

「そんなに上手くいくわけがない……」

「それは見てから言ってください」





同時刻、各審判役の教師たちも異変に気付いていた。


「なんだあれは……」


最初に気づいたのはライヤ。

宙に浮いていて地響きなどは感じなかったが、その分少し周りを見渡すだけで以上に立ち上っている土煙に気づいた。


「見るからにただ事じゃないけど……」


こんな事態にも備えて外側に王国軍が配置されているはずだ。

異変が伝われば集まって対応するだろう。


「一応、連絡だけしておこうか」





「学園長! 教師陣から続々と『何か見える』と報告が入っています」

「方角は?」

「A・Eクラスのいるほうです」

「ニキーナ先生から連絡は?」

「ありません。また、軍の方からも異変があるという報告は受けていません」

「……映像を回して」

「会場にも映りますが」

「構わないわ」


『学園長から連絡です。現在、体育祭会場外に異変を察知したとの報告が上がっています。確認のためにそちらの映像を映しますが、ご了承ください』


パッと画面に映し出されたのは現在のドウェインたちの視点。

迫りくる魔物たちを迎え撃とうとしている。

映像上なので正確にはわからないが、もう距離は500メートルもないだろう。


「なんで逃げないの!?」

「教師は何をしているんだ!」


その様子に保護者達から怒声が上がる。


『落ち着いてください。現在、状況を確認中です』


「ニキーナ先生に連絡は!?」

「つきません! 何らかのトラブルに巻き込まれているのでは……」


今映し出されている映像はニキーナに預けていたビデオカメラのようなものから送られているものだ。

壊れやすい代物が残っていることから、ニキーナに大事があったとは考えにくい。


「なぜ、軍は動かないのよ……!」


学園長は歯噛みする。

最後までこの形式の体育祭に反対していた学園長だが、最後は軍が責任を負うと聞いて納得したのだ。

その軍が働かないなんて想定外である。




「……体育祭は中止です」

「え?」

「聞こえなかったのですか! 体育祭は中止です! 先生方を今すぐ現場に向かわせてください!」

「は、はい!」





[あとがき]

今日の夕食の献立募集。


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