せいじょ

「見つけたわ!」

「うわぁ……」


そんな願いもむなしく。

聖王への謁見の前日。

つまり初遭遇から二日後。

今度は許可を得て外出しているらしい女の子が王国が止まっている宿を訪れた。


「うわぁ……、ってなによ! 折角こんな美少女が迎えに来てあげたっていうのに!」

「頼んでないし……」

「もう、うるさいわね……」


隣の部屋から目をこすりながら出てくるアン。

流石に一緒に寝るのは回避した。

というか護衛が許さなかったが、同室ではあるが寝室は別という事で落ち着いた。

つまり居間のスペースは共用なのである。

そして現在午前6時。

まだネグリジェ姿なのも仕方のないことだろう。

それはそれとしてその麗しき姿を目に焼き付けるのだが。


「アン、お客様らしいぞ」

「違うわよ! あんたによ! あ・ん・た!」


ビシィッとライヤを指さして言う女の子。

声でかっ。


「頼むから静かにしてくれ……。俺はまだしも、他の人たちはまだ寝てるんだから……」

「そんなの知らないわ。私が起きてるんだもの」


何て理論だ。

ライヤの後ろでアンもポカンと口を開けている。

アンでさえ言ったこともない暴論をさも当然のように口にする。


「申し訳ございません……。我々ではどうにも……」


助けを求めて後ろの護衛にライヤは視線を向けるが、そんな情けない言葉が返ってくる。

記憶が間違いでなければ、この前の人たちとは顔ぶれが違う。


「それで、こんな朝方から何の御用で?」

「とりあえず、中に入れてもらってもいいかしら。立ち話は疲れるの」


居間のスペースを指さしそんなことを言う女の子にライヤは至極まともな問いを返す。


「そんなことよりあなたは誰ですか」

「え、知らないの!? この顔を見ても!?」


ズイッとライヤに顔を寄せるが、見えていないとかそういう話ではないので近くで見てもわかるはずがない。

まつ毛長いなーって感想しか出ない。


「うちの者に何の用?」


いつの間にか軽い正装に着替えてきていたアンが近すぎる距離からライヤを引っ張って引き離す。


「ねぇ、あなたも知らない!? この顔!」

「知るわけないでしょう」

「こちらの方々は国外の方だと初めにお伝えしましたが……」

「え!? この国の外ってことだよね? それだけで私の顔って知らないものなの!?」


なんだこのおめでた頭は。


「うーん、そっか! じゃあ自己紹介するね! 私はミリアリア・ムーア! 一応、聖女やってまっす!」





聖女。

聖王国に来ることがなくともその存在は認知している。

聖王国において治癒魔法に最も優れた者に与えられる称号であり、その権力は絶大。

聖王国に害を為すと判断されない限り、大抵のことは許されてしまうと言われている。

だが、歴代の聖女の多くはその名に誇りを持っており、あまりにラインを超越したことを言うことは無かったと聞いている。

もしくは、そんなことを言った聖女は闇に葬られたか。

どちらにせよ、聖王国内外に神聖視される存在だ。


それが、目の前の残念頭の女の子。


「年齢をお聞きしても?」

「お答えしましょう……。この前17歳になりました!」


ピースしながら満面の笑みを浮かべるミリアリアさん。


「それで、聖女様がこちらに何の用で?」


杜撰な対応をしていたが、聖女となれば話は変わる。

いくら王国からの客であるとはいえ、適当な対応は出来ない。


「え、そこの男の子に邪険にされたから来たんだよ?」


当然でしょ? とライヤを指さす聖女。


「……それは王国に対する申し立てですか?」

「え、ううん? なんでそんなことするの?」


人が人なら問題に出来そうな案件。

そんな頭はなかったようだが。


「私の魅力に靡かないのちょっと納得いかないなーって思って!」


先ほどまで聖女らしさを醸し出していた純白のローブがストンと床に落ちる。


「ライヤ、見るな!」

「ぐああぁぁ!!??」


アンが急いでライヤの目を突いて目をそらさせるが時すでに遅く。

下の肌着しか身につけていない肢体をライヤは目にしていた。


「ヤることヤっちゃえば私の魅力に気づくこと間違いなし!」

「何を言っているのよ!」


流石のアンも外交など忘れて本気のツッコミ。

床ではライヤが潰れた目を回復させようともんどりうっていた。






[あとがき]

タイトルの「せいじょ」がひらがななのは仕様です。


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