聖女
「で、今回はヨルもか?」
「残念でした。今日はライヤがおまけよ」
事件から2か月。
ヨルも徐々に教職に戻りだした頃。
いつものように王城に呼ばれた。
今回はヨルも連れて来いとの事だったが、どうやらヨルに用があるらしい。
ではなぜライヤも呼ばれたのか。
「聖王国がちょっかいを出してきた」
これまたいつも通りの謁見の間。
「今度は聖王国ですか」
王国から見て帝国を挟んで大陸の反対側にある国家。
頂点を聖王とし、王国よりもかなり中央集権国家らしい。
そして聖王国からの干渉によってここ数年で周囲の三国と何かしら関わりを持ったことになる。
うち1つは既に支配下にあるが。
諸国連合が曲がりなりにも王国の傘下となって遂に聖王国とも国境を接することになったのでそこ関連だろうか。
だが、そうなればヨルがメインだという理由が弱いか?
諸国連合としての意見を聞くなら他にもいるだろう。
「ヨル殿が聖女と呼ばれていることについて、だと」
「はぁ?」
くっそ長ったらしい文章で小難しく書かれていたのをまとめると、聖王国を人間を差し置いてどこぞの小娘が聖女と呼ばれていることが気に食わないらしい。
ヨルは自分が原因だと聞いて困惑している。
それもそのはず。
聖女など自ら名乗った覚えなどなく、他人からの呼称に過ぎないからだ。
しかし、聖王国において聖女は代々治癒魔法を最も得意とする者に与えられてきた称号なのだ。
ヨルの二つ名というか、この聖女の呼び名もそこに由来されているだろうから聖王国の主張はあながち間違ってはいない。
本人の知ったこっちゃないというだけで。
「それで、どうしろと?」
「『もちろん聖王国の聖女と毛色が違うのは理解しているが、聖女と名乗るからにはせめてわが国で襲名してから名乗ってくれないか』だと。どう思う?」
「相手にしなくてもいいのでは? その内容に全く拘束力はないですし」
まずヨルは聖女と名乗っていないのだから前提が間違っている。
「ヨルも聖女と呼ばれなくなったからって何か不都合があるか?」
「むしろせいせいしますね。元々過ぎた呼び名ですから」
「ということなので、放っておいてもいいのでは?」
「……聖女が絡んでいるらしい」
「!」
今代の聖女。
現在の聖王国において最も治癒魔法に優れているとされる者。
奇しくもライヤとは面識がある。
そして、ライヤに並々ならぬ興味を抱いているのだ。
「……俺はおまけっていうのは嘘か?」
「本当よ。ヨルの話にしか言及はないもの。ただ、あの女のことだからどうせライヤが目的だろうなと私たちが予想しているだけ」
そしてライヤと面識があるということはもれなくアンとも面識がある。
アンと聖女だが、馬が合うわけがない。
ライヤに関することだけでも対立しているのに、性格がとことん合わないのだ。
初めて会ったのは互いの身分を明かしていない状態でだったが、それでも最初から仲が悪かった。
「俺が目的だとして、どうするつもりなんだよ」
「さぁ? ヨルを聖王国に呼べばライヤもついてくると思ってるんじゃない? あの女頭お花畑だから」
「いや、だからこそヨルと俺を結び付けてこんなややこしいことはしてこないだろ。言っちゃ悪いが」
聖女は幼いころからその才能を発揮していたため、聖王国内では何不自由ない暮らしをしていた。
聖女の言う事はほぼ絶対で、勉強も彼女がしたくないと言えばしなくて良かった。
そして誕生したのがわがままでおバカな聖女である。
「誰かにそそのかされたのは間違いないでしょうけど。ヨルを呼べばライヤが来ると言われて信じたんでしょうね」
「その誰かの思惑は何だよ」
「知らないわ。その辺りはライヤの得意分野でしょ?」
確かに、相手の思考をよむのはライヤの領分ではある。
「情報が少なすぎる。予想にもならない」
「今日のところはそういう話があるぞというだけだ。王国としてもそう簡単に応じるつもりなどないが、聖王国がどういう手段を取ってくるかもわからん。一応の忠告だ」
「ありがとうございます。その調子でお願いします」
「簡単に言ってくれるな」
また面倒なことになりそうだ。
[あとがき]
あれ、この物語ってヨルが主人公?
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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