色んな正解

「先生から距離をつめて戦えば良かったのでは?」

「最初に視界を遮られる前にってことか? それなしで。初見でアンの作戦を潰しに行くってことだろ? 無理だなそんなの。互いに手の内を知っているからこそ初見技は刺さる。そこの前提は崩さない感じで頼む」

「じゃあ、視界が遮られた後ってことですよね……」


ウィルの確認によってどこから考えればいいのかが決まる。


「完全に見えなかったんですよね?」

「俺の当時の身長が160センチくらいか? となると、壁は2メートルくらいはあった気がするな。ジャンプすれば見えるってレベルじゃなかったのは断言できる」

「ってなると、私に出来ることは無いかなぁ……」


くしゃりと笑ってヨルは諦めモードだ。


「いや、そもそもヨルがタイマンの場に出されたら出来ることなんてないだろ」

「確かに!」

「それでも、他の人が何できるかなって考えることは大事だぞ。当事者は焦っていて何も出来なくなる時はあるし。逆に当事者がした判断が正しいものだった場合でも周りの人がその意図を理解していなくて結果的に失敗してしまうってこともある。ヨルは確実に後衛で前衛の邪魔にならないようにするのが大切だから、何なら一番大事かもな」

「ほぇー、その考え方はなかったなぁー」


少しはヨルも興味を持ってくれたようだ。


「他の人も自分ならどうしたかは今は考えなくていい。そもそもが1年生の皆と4年生の俺たちだからな。出来ることの幅が違う。それに、4年の時の俺が何が出来たかなんて全部説明するわけにもいかないからな。『これが出来ればどうにかなったんじゃないか』ってことを考えればいい。それが出来ないことなら出来るようになるしかないわけだろ?」


少し思案に沈む生徒たち。


「はいー」

「お、マロン」

「動かずに、相手の視界も遮るのはー?」

「正解の一つだ。やるなぁ!」


マロンの短髪をくしゃくしゃと撫でる。

基本のんびりとしているマロンが最初に答えを出すのは珍しい。


「解説しとくと、アンがこっちの視界を遮っているのは2つの利点がある。1つ目は俺からアンの動きを察知できなくなること。もう1つはアンの任意のタイミングでその壁を下ろせることだ。こちらが察知できないタイミングで向こうは視界を得られるんだ。一瞬の有利とはいえ、タイマンでは決定的だ。この2つ目のメリットを消すことが出来る。向こうが壁を下ろしてもこっちが主導権を握っている壁があるんだからな。この時はアンが力押しの大魔法だったからどうしようもなかったが、速さを重視した小規模な魔法の時は狙いが付けられない」

「なるほどー」

「……空を飛ぶのは……?」

「お!」


ずっと一人考えていたらしいシャロンがボソッと言った言葉にライヤが反応する。


「それが俺が出した正解だ! よく思いついたな!」


凄いライヤの食いつきである。

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