二大巨頭
「……先生!」
「けっこう水の中って綺麗だろ?」
初めて水の中を見ることが出来たシャロンは嬉しそうだ。
「じゃあ、次は浮いてみよう。ダルマ浮きっていうのがあるんだけど……」
ライヤが実践してみせる。
「なんか人間は水には力を抜いた状態では2%だけ水上に出るようになっているらしいんだ。そこに空気を吸って体の中に取り込んでおけばもっと浮きやすい。まずは水に浮くことが出来るっていう感覚を掴んでいこう」
「……はい!」
初めて泳ぐことが出来そうなシャロンは普段よりもテンションが高い。
クラスメイトとライヤしかおらず、流石のシャロンも人見知りをしなくなってきたという理由もあるだろう。
バーンッ!
「夏ね!」
「……何してんの先輩……?」
そんな場に扉を大げさに開けてフィオナが入ってくる。
「りょ、寮長さん……!」
フィオナに惚れている(?)デラロサのテンションは爆上がりである。
大人っぽい黒のビキニに身を包んだフィオナはデラロサの熱い視線を(胸に)一身に受けながらライヤの方へと歩く。
「どう? お姉さんの悩殺水着姿は」
「綺麗なのは否定しませんけど、いつも同じようなファッションしてるでしょう」
明らかにデラロサの性癖を歪めてるからやめていただきたい。
「それで、何しに来たんです?」
「え? 遊びに」
「……」
なんだこの自由人は。
「……じゃあ、シャロン。俺が手を引くからバタ足からやっていこうか」
「……ありがとうございました」
「うん、今日はここまでかな。これからまだ何回かプールあるし、最低限は泳げるようになると思う」
「……はい」
シャロンも初めて泳ぐことが出来てプールに意欲的だ。
「帰ったらストレッチだけしておけよー。普段使わない筋肉使ってるから筋肉痛になるかもしれないぞー」
「「はーい」」
「じゃあ、さよならー」
「「さようならー!」」
「あ、あの、寮長さん!」
「うん? なにかなー?」
「あの、また今度遊びに行っても構わないでしょうか……?」
「うーん、ちょっと遠慮してほしいかなー。一応、先生の家ってことになってるからねー。あんまり生徒が出入りするのは良くないかなー」
「そうですよね……。すみません……」
ハイテンションで生徒たちが帰っていく中、一人振られて悲し気に帰っていく生徒がいた。
「残念ながら私はライヤ一筋なんだよねー♪」
「……」
「ドキッとしたー? 嬉しかったー?」
「まぁ、多少は。先輩みたく綺麗な人に好きでいてもらえるっていうのは光栄なことですよ」
「へ……?」
生徒が帰り、2人きりになって攻撃を仕掛けてきたフィオナに対するカウンターが刺さり、思わず赤面するフィオナ。
ニヤリとしているライヤを見てさらに顔を赤くする。
「もうー! どこでそんな手管を覚えてきたのかなー?」
「いつまでもやられっぱなしの後輩じゃないってわけですようぷっ」
急に胸に抱きかかえられてライヤのセリフが途中で止まる。
「そういうところも好きだよー!」
好きが溢れてしまったらしい。
「(やわわ……)」
一瞬で思考を飲み込まれる。
何という破壊力。
プールで濡れて瑞々しいのがまた乙であった。
「ライヤ! デートよ!」
今日も今日とてアンの襲来である。
公務で5日閉じ込められていたところから解放された反動と考えれば仕方のないことだろうか。
「よし、いくか」
「な、なによ。いやに乗り気ね」
普段はかなりの面倒くさがりなライヤが乗り気なことに違和感を覚えるアン。
「いや、俺たちって付き合ってるわけだろ?」
「? そうね」
「寂しいのはアンだけじゃないってことだよ」
「……? ! ライヤ!」
「行こうか」
ギュッと右腕に腕を絡ませてくるアンと共に家を出る。
今日も今日とて破壊された玄関のドアを尻目に。
本日のアンは普段よりも穏やかな装いだ。
貴族だと一目でわかるようなけばけばしいものではなく、商人の娘がおめかししたというレベルのワンピース。
少し顔を隠すようなつばの広い帽子を被ってはいるが、神々しいとまで言える綺麗な白髪が民衆の目を引きつける。
そして帽子の下に見える笑っている桜色の唇が男性の視線を吸い寄せる。
隣にいる男も教職の白ローブを着ておりよく見れば綺麗な顔立ちだ。
女性の視線も一定数向けられる。
2人は周囲の視線を存分に浴びながら楽しい休日を過ごしたのであった。
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