プール授業
「いっちにーさんしー……」
「「ごーろくしちはち!」」
元気な生徒たちと共に準備運動を行う。
今にもプールに飛び込みたそうな子供たちは掛け声も大きい。
こちらの世界は少なくとも王国は常春気候だ。
だが、夏になれば多少暑くなるし、冬になれば多少寒くなる。
日本のように寒暖差がえげつないわけではないが、多少の気候変動はあるという事だ。
でなければ、夏や冬といった季節を指す言葉はこちらでは生まれていないだろう。
もしくは、他国のこととして王国では使われていないかだ。
「よし、あとはシャワー浴びたものから入っていいぞ」
「「やったー!」」
「走るな!」
ここまでがテンプレである。
プールサイドでこけると非常に痛い。
普段なら多少衝撃を和らげてくれる服を着用していないし、プールサイドは水はけをよくするために地面がぶつぶつになっている。
そりゃ痛いし、危ない。
「よっしゃー!」
ゲイルが最初に飛び込み、デラロサとマロンも続く。
年相応の子供だというところを見られていい光景である。
そんな中、しり込みしている生徒が1人。
「シャロン?」
「……ひゃい……」
学校指定の紺のスクール水着に身を包んだシャロンは両手で体を抱えるようにしてプールをのぞき込んでいた。
捉えようによってはその恰好は腕組をしているようにも取れるわけで。
9歳とは思えない発育を見せる胸部が強調されてしまっている。
いや、本題はそこではない。
「泳げないのか?」
「……ごめんなさい……」
「いや、謝ることではないけど……」
何をもって謝ってるんだ。
「プールも一応授業だからな。泳げない人がいたら教えるのは当たり前だ。そんなに負担に感じる必要はないぞ」
今にも泣きだしそうなシャロンをどうにか落ち着かせる。
「先生、私も……」
「ウィルは海で教えただろ? 海で泳げたんだからプールなら余裕だ。心配するな」
そう言われてはウィルも引き下がらざるを得ない。
元々ウィルは泳げたのだから当然なのだが。
今回はちゃんとスクール水着が紺色のウィルは頬を膨らませる。
「さぁ、シャロン。まずは小さなプールから行こうか」
しかし、ウィルの視線はシャロンを連れて小プールへ歩くライヤの目には映らない。
「じゃあ、まず何が出来ないのかを確認していこうか」
「……はい……」
シャロンの膝程までしかない小プールに浸かり、練習を始める。
「まず、水の中に顔をつけることは出来るか?」
「……できます」
「お、いいね。じゃあ水の中で目を開けることは?」
「(フルフル)」
「なるほど。じゃあそこからだな」
ビビって委縮するシャロン。
それを見てライヤは早々に秘密兵器を出すことを決意する。
「シャロン、実はな。俺も目を水の中で開けるのは苦手なんだ」
「え……?」
「そこで俺が考案した方法があるんだが、聞くか?」
「……はい」
「それがこれだ」
ライヤが水着のポケットから出してきたのは水中眼鏡、いわゆるゴーグルである。
「……なんですかこれ……?」
「見たことないだろうからわかんないだろうな。とりあえずつけてみてくれ」
つけ方がわからないシャロンの後ろに回ってつけてあげる。
「目の周りが押さえつけられている感覚はあるか?」
「……はい」
「よし、じゃあ入ってみようか」
「……ええ!」
ビビって後ずさりするシャロンをライヤがじりじりと追い詰める。
傍目には犯罪者にしか見えない……。
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