慎みとは
気合いの更新
「あ、初めてと言っても私の処女の話なので心配しないでください!」
「それ以外だと何があるんだ! 俺が何の心配をしてると思ってるんだ!?」
ツッコミが追い付かない。
「え、誤解を与えたかと……」
「間違いなく伝わってるよありがとうね! で、アン。どうしてこうなってんだ」
「いや、相手がいないそうだから……」
「俺を巻き込むな!」
要するに、領主の娘とは貴族だ。
ただでさえ現状ややこしいことになっているのだから、これ以上要因を増やしたくないのがライヤの本音である。
「あ。ご心配なさらずとも大丈夫です! 寵愛を受けたいわけではございません! ただ、少しばかり子種を……」
「おいぃ!!」
その見た目で言ってはいけないランキングトップ10に入るのではなかろうか。
「おい、アン!」
どうにもライヤの子を色んな人に産ませたがっているアンは聞く耳を持たない。
「王女の夫ともなる方の子種を受ければ私にも生存の目が……」
「重いな! 他にあるだろう方法は!」
この一言からわかったが、どうにもヨルの立場は弱いらしい。
わかっていたことだが。
戦争相手のトップクラスの人間に対して渡す情報ではない。
「……とりあえず、連れて帰るってことでいいか? 話も聞きたいし」
「そうね。このまま留まってもこの子以上の収穫なんてないでしょうね」
「この子……?」
「なによ」
「いや、年上……」
「私は、王国の第一王女よ」
「うわぁー、貴族社会―」
「先生が幼女を誘拐してきた……?」
「ウィルとそんなに年変わらないだろ! いや、待て。こいつこう見えても21だぞ」
絶望していたウィルとどこかからスッとナイフを取り出していたエウレアに必死の弁明をする。
ナイフを取り出していたエウレアは何をしようとしていたんだ。
「挨拶して、ヨル」
「お初にお目にかかります。第三王女、ウィル様。私、ヨル・コンバートと申します。この度は魔物に追われ、王国領に侵入してしまった私をお二方が助けて下さったのです」
「そ、そういうことですか……。……コンバート?」
勤勉なウィルはまだ公務を担うことは無いにも関わらず、海洋諸国連合の領主の名前に聞き覚えがあるようだ。
1年生当時のアンとは大違いである。
「そう、そこだ」
名前に引っかかっているウィルだが、会話をライヤが引き継ぐ。
「領主の娘ともあろうものが何の戦闘訓練も受けていないとかあり得ないだろ。最低限身を守れるか、逃げられるくらいには習熟させるはずだ。何も修練を積んでいないのなら話は別だが、ヨルの魔力の流れは綺麗だ。かなり特訓していないとそうはならない」
「綺麗だなんて……」
「よくその一言だけ抜き出せたな。いや、そうじゃなくて」
言わなくてはいけませんか? と瞳をウルウルとさせてライヤを見上げるヨルだが、ライヤは流されはしない。
「うっ……。あの、な。その、もし差し支えなければ……」
「流されそうになってるんじゃないわよ」
パカンとアンに後頭部を叩かれる。
「……協力の要請をしてるんだ。それ相応の情報提供はしてもらうぞ?」
「そうですよね……。実はなんですけど……」
「うん」
「私、聖女なんです」
あ、終わったぁー。
厄介ごとが役満だ。
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