ガールズトーク

「す、すみませんでした……!」

「いえ、こちらこそすみません! 焦って変なことを口走りまして……」


アンにボコボコにされたライヤは床に転がったまま少女への謝罪をする。

外套も相まって見るも無残である。

今街に放り出したら行き倒れとみなされること間違いなしだろう。


「女性にそういうことを言うのはダメよ。当然よね?」

「はい……」


全く反論のしようもない。


落ち着いたところでふとキョロキョロとしだす少女(21)。


「ところで、アン王女はお2人でここへ?」

「そうよ」

「ほぉー……」


ふと何かを考え出すしょ……、女性。


「あのー……」

「はい?」

「差し支えなければ名前を伺っても? 年上なら尚更失礼は出来ないので……」

「あぁ、これは申し遅れました! 私、ヨル・コンバートと申します! 以後、お見知りおきを!」


綺麗な礼をするヨル。


「コンバート……?」

「また厄介な……」


しかし2人はそれを気にする余裕はなく。


「コンバートってことは領主の娘?」

「あ、はい。一応そうなります! と言っても、うちは弱小ですから王女様が気になさることではないです。あ、もちろん従者の方? も結構です! 勝手に侵入してしまったのは事実なので!」


何とも潔いことである。

青みがかったロングの黒髪に同じ色の瞳を持つヨルははきはきとしゃべる。

ぴょこぴょこと動いていることもあってどう年を見積もっても14歳より上には見えない。


「こいつはライヤよ。私の従者じゃないから。一応、家庭教師ね」

「家庭教師をあんなにボコボコにするんですか……?」

「年が一緒だからいいのよ」

「それでもおかしいと思いますが……。というか、王女の家庭教師が同学年なんてことあり得ます?」

「なに、文句でもあるの」

「ありません!」


ビシッと気を付けをするヨル。

もうどう見ても小学校高学年にしか見えない。

ちなみに身長は130センチあるかないかだろうか。


パンッ!


「王女様の家庭教師になられるという事は、とても優秀なのですね!」

「そうよ、ライヤは凄いんだから」


手を叩いて目をキラキラとさせるヨルとなぜか鼻高々なアン。

どうも話が合いそうな2人を尻目にライヤはよろよろと立ち上がり洞窟の壁にもたれかかる。


(ここに領主の娘が来るだなんてよっぽどだ。スパイ目的なら立場を利用してもっと有効なやり方はある。それをせずに従者もつけず、1人で放り出すだなんてありえない。勘当されたとかなら話は変わるが、家名を堂々と名乗っているからその線もないだろう。そして、なぜこの洞窟に逃げ込んでいたのか。魔力の流れを見るに、かなりの練度はある。あの程度の魔物なら問題ないはずだ。なぜ選択肢が逃げる一択だったんだ……?)


さしものライヤも考えることが多すぎてまとめきれない。

壁にもたれてぶつぶつと考え込むライヤを差し置いて2人はガールズトークに花を咲かせる。


「お2人は恋仲なんですね!」

「そうよ。ライヤは平民だけど、いずれ貴族になるから問題ないわ」

「身分差のある恋愛って素敵です!」

「あなたいける口ね? そういうあなたには恋愛話の1つくらいないの?」

「残念ながら……。ぎりぎり貴族でありながらいつ潰れてもおかしくない弱小でしたので。お声がかかるわけもなく……」

「そう、残念ね。でもまだ間に合うわよ」

「精進します!」


何とも生々しい話である。


(そもそもだ。王国に戦争を仕掛けるとして何が得られる? 領土が拡がれば生活が豊かになるなんてありえない。増えた土地の管理が必要だし、それには元敵国の民の協力が欠かせない。海洋諸国連合はただでさえ人員が足りないと聞く。内陸に対する知識も経験も薄い。それを考えずに攻めるとは思えない。待てよ? まず戦争に参加するのはどれほどの勢力だ?)


だが、そんな和気あいあいとした会話もライヤには届かない。

普段であればどこかでストップがかかるのだが、今回は大抵そのストッパーとなるアンに話し相手がいる。

余計にのめり込んでしまう。


(何にせよ、ヨルの情報は必要になるだろう。戦争をするにせよ、何の名分もなかったら帝国へ示しがつかない。相応の理由を用意してくるはずだ。その動きさえつかめれば開戦のタイミングをこちらでコントロールすら望めるか? いや、流石に可能性が薄いか……)


「……ライヤ様!」

「ん!? ごめん、なんだ?」


先ほどからライヤを呼んでいたらしいヨルの顔が目の前にあった。

ライヤが壁にもたれているのとヨルが頑張って背伸びしていることもあってちょうど顔が目の前に来たらしい。


「ご提案があるのです」

「ほう」


ちょうど、ヨルから情報を得ようとしていたライヤには渡りに船の話だった。

どんな話であれ、現状から進展するのには違いない。


「私の初めてを貰って頂けませんか!?」

「何をどうやったらそうなるんだっ!?」


ライヤの魂の叫びが洞窟から周辺の森にまで響いた。

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