体育祭当日 10:00

「まぁ、そうだよな」


場を掌握したライヤは呟く。

それなりに良い武器を持っていたにもかかわらず、男たちの戦い方は素人のそれであった。

剣を振り回せているから腕力には自信があったのだろうが、剣は振り回せばいいというものでもない。

そもそも刃の部分をちゃんと敵に向けるというだけでもかなりの練習を必要とする。

ゲームのようにただ装備しただけで強くなれるようなものでもないのだ。

例え20人対1人でも魔法と剣に一定の理解を持つライヤが負ける理由が無かった。


「で、お前らはこんなところで何してたんだ?」

「……ただ暴れたかっただけだ」

「なら今日ここじゃなくて良かったよな? わざわざ武器ももらって」

「……」

「まぁ、早くしゃべるか四肢切り落とされるかどっちか選べ。大丈夫、死にはしないから」


淡々と述べるライヤに目を見開く男たち。

彼らもそんなことになるとは思っていなかった。

特に、何か実害を及ぼした後でならまだしも、未遂であるにも関わらずそこまで重い罪になると思っていなかったのだ。


「ま、待て!」

「待て?」

「待ってくれ! 俺たちはここで暴れるように言われただけだ! 他には何も知らない!」

「そんなわけないだろ? そんな自分たちに相応しくない武器を持っていて誰からの介入もないとは言わないよな?」

「そ、それは……」


言葉を失う男たちにスッと無言でライヤは剣を振り上げる。


「ほ、本当に知らないんだ! 仮面をかぶった男が武器と金を持ってきて、ここで暴れればこれよりも金を積んでやると……!」

「それはいくらだ?」

「1万は保証すると……」


どう考えてもこの武器たちを売った方が金になるんだが。

その金額を提示したその仮面野郎も馬鹿だし、それで納得したこいつらも馬鹿だ。

いや、こいつらが気づかないことを見越してたのか?

だとしたらやり手だが、そこまで考えてるとも思えない。


そして、ここでほぼ確定したことが一つ。

男たちは20人ほどいるが、1万あっても1人頭500ほどしかもらえない。

それで納得するくらいには庶民にとっては大金なのだ。

そんな大金を簡単に用意できる。

そして、それを上回るほどの装備を使い捨てでこいつらに与えるってことは相当の金を持っていることがわかる。

簡単に言えば、貴族が関わってる可能性が高いよなってことだ。


「それで、これからどうするよ」

「は?」


座り込んでいる男たちにライヤは声をかける。


「自分で歩いて出頭するか、引きずられて出頭するか。どっちがいい?」





「急いで戻ったのに……」

「ご心配をおかけしました」


男たちを詰め所に連行し、さぁ次はミランダのことだと先ほどまでいた門の上に戻ったところ、ミランダが無事に戻ってきていた。

女性だという事もあり、まずいことになっていないか心配であったが着衣の乱れがないところから見るにそういったことはなかったようだ。


「何してたんだ?」

「油断して当て身で少しの間気を失っていました。ですが、ちゃんと調べてきましたよ」

「何か疑われるようなことをしたのか?」

「箱の中身を聞いただけです」

「穏やかじゃないな……」


ライヤは箱の中身を聞いただけで襲ってきたと思っている。

しかし、実態はミランダが箱の中身を言い当てたため、店の男は危機感を感じて襲ったのだと思われる。

情報の正確な伝達は難しい。


「それで、あいつらは何をしようとしてるんだ?」

「どうやら、会場を爆破してその混乱に乗じてウィル王女を誘拐しようとしているのかと」

「またウィルか……」


誘拐される星の下に生まれてんな。


「だが、爆破するって言っても」

「箱の中身は店の中のものまで含めて全て火薬でした。あの量があれば難しくはないと思われます」

「なるほど……?」


報告を聞いてライヤは思案する。

一般人がそれ程の量の火薬を用意することなんてまず出来ない。

なぜなら一般に流通していないからだ。

この世界には花火がないので火薬はもはや戦争道具だと言っても過言ではない。

そんなものが一般に普及しているはずがないのだ。

となれば、こちらにも黒幕がいる。

同じ貴族が関わっているのであれば話は簡単だが、どうにもやり方が違いすぎる。

別々だと考えるのが妥当だろう。


「目的は?」

「そこまでは……」

「そうか。まぁ誘拐するからには人質をとって何か要求するつもりだろうが……」


騒ぎを起こすのが目的なら会場爆破で十分だ。

そしてわざわざウィルを誘拐しようとしているのなら、国王に直訴したいことがあるのか。

やり方は大いに間違っているが。


「絶対に大事にはさせない」


教え子たちの晴れ舞台の邪魔は許さない。

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