急展開

「あら? あらあらあらあら?」


王城の中でも王妃のために用意された一角がある。

基本的に男性は王家以外立ち入りを禁じられ、侍女たちしかそこに入ることを許されない。

不貞があるにしろないにしろ、そういった疑いが掛けられることがないようにとの配慮によるものである。

しかし、そんなことは知らないアンはライヤを連れてきていた。

それも学生のころから。

それはもうメイドたちにより歓待を受け、常人であれば誘いに乗ってしまったかもしれないような状況はいくらでも存在した。

しかし、ライヤは持ち前のヘタレ精神を遺憾なく発揮しそれらをクリア。

「あ、こいつは無害なんだ」とメイドたちに判断され、割とすんなりとこの一角に入れるようになったのだ。

もし間違いを起こしていたら、それこそ命はなかっただろう。

いわゆる後宮で、欲に吞まれたなど万死に値する。


「アン、ちょっと女の顔になったかしら?」

「!? 何てこと言うのよお母様!」

「いいことじゃないの~。やっと素直になったのね」


前々から2人のことを応援していた王妃は2人を祝福するが、その若々しい立ち振る舞いが却って煽っているようにしか感じられない。


「それでそれで? どっちから告白したの?」


もうノリが完全に中高生のそれである。


「お互いにって感じですよ」

「あら、ということはアンからね?」

「……なぜでしょう」

「もしライヤ君からならアンが自慢してくるはずよ。その上で、ライヤ君がどちらが先と明言しないという事は気を遣ってるという事ね。つまり、アンからよ」


よまれている……!


「伊達に貴族社会で生きていないってことね」

「御見それしました」

「でも、本当にうちの子でいいの? ライヤ君ならより取り見取りだと思うけど……」

「どこからそんなことになるんですか」

「ほら、フィオナちゃんとか……」

「先輩は俺をからかってるだけですよ。それこそ、先輩の方がより取り見取りだ」


王妃も国王と同じくクソでかため息。

また意味合いは違うが。

実際フィオナはその気になれば王国の誰とでも婚姻できるほどの家柄と容姿、実力を兼ね備えているのでライヤがそう判断する気持ちもわからないではない。

アンに比べて格段に関わりが薄いというのも関係している。


「まぁ、私は3人目までなら許せるわ。あとはアンに聞いてちょうだい」

「? はい」


まさかライヤも付き合うことになった彼女の母親が妾の話をいきなりするなど思ってもみない。


「それで、折角アンが素直になったんだから、どこでライヤ君のことを好きになったのかとか聞いてみたいわね」

「お母様!?」

「それは興味あるな」

「ライヤまで……」


親との恋バナ程苦痛なことはない。





「ただいまー」


長かった一日、いや一日と半日を終え、やっと家で落ち着く。

思えば事の発端はライヤがアンにマロンのための指導を頼んだことであり、こんな方向に話が進むなんて予想できるはずがない。


「ねむっ……」

好きな女性が部屋にいてろくに眠れなかった弊害がここにきて襲い掛かり、布団に倒れ込むライヤ。


(ちょっとアンの匂いがする)


そんなことを意識しながら眠りに落ちた。





コンコン。


いつになくつつましいノックで目を覚ます。

そもそも、学校の教員寮に訪ねる人間なんてそうはいない。

ちょうど眠りが浅かったタイミングで気付くことが出来た。


「はいー……」

「フィオナよ、開けてもらってもいい?」

「珍しいですね、先輩がちゃんとノックするなんて……」


今までは管理人権限で勝手に合鍵で入って来ていたり、天井から現れたりなどまともな訪ね方をしていなかったフィオナだが、今回はまともであった。


「はい。 !?」

「失礼するわね」


ライヤが驚愕したのはフィオナの服装。

なんと、普段の数倍露出が少なかったのだ。

普段は海の家の店員もかくやという露出度を誇るフィオナだが、今回は貴族らしい、令嬢という言葉がふさわしい装いだった。

白いドレスに身を包み、青の両目は普段よりも強い意志を感じさせる。


「どうしたんですか、こんな時間に、こんな格好で」


現在、夜の10時。

ご飯に呼びに来るには遅すぎるし、格好も謎である。


「求婚しに来たわ」

「キュウコン?」

「えぇ、ライヤ。私と結婚してくれないかしら」

「は?」


また話がややこしくなってきた……!

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