会場警備
「先生方には審判を公正に行って頂きたいと思います」
珍しく行われた職員会議。
体育祭ですら学年別で行われるこの学園では審判団が圧倒的に足りない。
先生方の魔法の粋を集めてやっていく必要があるのだ。
「もちろん、自分のクラスに審判につくことはありませんが、自分のクラスに有利になるような他クラスの審判ももちろん禁止です。今年は国王夫妻も観戦に来るのではと噂にもなっています」
学年主任を務めるA
本来ならばS
S
才能にあふれる子供たちをしっかりと伸ばすのはそれだけ難しいとされているのだ。
だから必然的に最年長の経験ある教師がS
次期S
入れ替えもある教師の中ではS
その上で彼にはS
しかし、彼はまた同時に聡明であった。
ライヤの異質さ、有能さをわかっていたし、ライヤが学生だった頃から知っている身としてはどれだけ本人が関与を否定しようともアンとの繋がりがある以上下手に動くわけにはいかなかったのだ。
ただ、この時思った。
少し意地悪をする程度ならいいだろうと。
「ライヤ先生」
「はい」
「あなたには会場ではなく会場周りの警備を担当していただきたい」
「全て、ですか?」
「えぇ、全て、です」
「例年なら王国軍に会場周りを委託しているのでは?」
「もちろん、王国軍にも協力を仰ぎます。しかし、今回は最近あんなことがあった後ですからね」
その言い草に顔を顰めるライヤ。
まるで、ウィルの誘拐の責がライヤにあるようではないか。
「そこで、先の戦争でも活躍されたというあなたの出番なわけです。会場は先生方が常駐していますから。しかし、会場周りとなると手が回りません。生徒も親御さんに会いに会場を出ることもあるでしょうそんな時に目を光らせている先生がいてもいいのでは?」
「王国軍では不足だと?」
「いえいえ、まさか。ただ、保険ですよ。警備とはそういうものでしょう?」
「……わかりました。会場の方はお任せします」
「えぇ、言われずとも」
ライヤは本番の審判団から退けられる形となった。
そして、F
「親父、本当に体育祭じゃないとだめなのか?」
「なんだ、今さらおじけづいたのか?」
「違う! 本番には国王夫妻が来ると言う噂もあるんだ! あの国王の前で人質なんて真似が成功するのか!?」
クンの剣幕に黙る父親。
確かに現国王の武勇は父親の方がむしろよく知っている。
単身で敵軍の脅威となり得る世界的に見ても稀有な存在。
そんな存在が自分の手の届く範囲で自分の娘の危機に立ち上がらないだろうか。
「いや、国王にも立場がある。国王に話が届くころには事を終えておけばいいだけだ」
だが、彼らからすれば彼らのような身分の者が大挙して学園に入ることのできる機会なんてそうない。
是が非でも、この機会を逃すわけにはいかないのだ。
「ふーん、会場周りの警備ねー」
「まぁ、追い出されただけでしょうけど。俺がいたって出来ることなんてないので別にいいかなと」
「そうー? 先生がついていてくれるのって結構頼りにならない?」
「俺の時は誰一人としていてくれなかったので」
「……可哀想! お姉ちゃんが抱きしめてあげるー!」
「まだ俺のせいだと決まったわけじゃないでしょう!」
飛びついてくるフィオナを避けながら反論するライヤだが。
「え、でもわざわざ先生がついてくれない理由なんてー……」
「先輩、それ以上はいけない。一人の男が立ち上がれなくなる可能性がある」
ライヤだってわかっている。
王女を差し置いてテストで1位を取り続け、その王女当人と仲良くなってしまい排除しようにもできなくなったという驚異の邪魔さを誇る存在のことは。
「実際ウィルを誘拐できたという実例が生まれて調子に乗ってやらかそうとする輩がいないとも限りませんからいいんですけどね。当日は先輩は何してるんですか?」
「家にいるよー?」
「……いつ仕事してるんですかね」
「寮の整備が私の仕事だよー?」
「……」
暗部とやらのことを教えてきたくせに何をやってるかは教えてくれないらしい。
そりゃ国で大事なことやってるんだから当たり前か?
しかし、フィオナがそういう仕事をしているとは思えない。
エウレアの方が数百倍納得がいく。
やけに実戦的な魔法使ってるなと感じたのもそれが大きいのだろう。
「何か失礼なこと考えてないかなー?」
「まさか、今日も夜ご飯美味しかったです。ごちそうさまでした」
「お粗末様―」
さて、体育祭まであと1週間もないが。
会場周りの要注意ポイントの洗い出しでもするか。
あ、明日の授業の準備しなきゃ……。
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