特別授業
「ほら、気を付けろって言っただろ?」
空に飛んでいったシャロンをライヤが捕まえる。
「流石ねー」
上空100メートルまでシャロンを追って行って捕まえたライヤを見て地上では王妃が子供たちに授業していた。
周りの親たちも「それはありなのか?」と思いながらも口を出せていなかった。
「さて、皆は今のライヤ先生の何が凄いかわかるかな?」
「「……?」」
唐突に王妃によって始められた授業に戸惑いを隠せない子供たち。
「じゃあ、ウィル。言ってみなさい」
「……反応速度でしょうか」
確かに、シャロンが悲鳴を上げ、飛んで行ってからのライヤの行動の迅速さは異常であった。
その場の誰もが見上げるしかなかった中で1人だけ地を蹴っていたのだから。
「それも正解の一つかもね。いいでしょう。では、他の子はどうかなー?」
「「……」」
「いいわ。じゃあ、カリギュー家当主。どうかしら?」
「!」
唐突に話を振られたゲイルの親は少し考えた後に答えを出した。
「彼が、彼女に追い付けたという事実、でしょうかね」
「そうね。私もそう思うわ」
疑問符が飛び交っている子供たちに説明する。
「あなたたちは恵まれているわ。才能である魔力量はもちろんのことでしょうけど、魔力量が多ければ多少雑でも魔法は発動するし、学園でも高いレベルで授業を受けることが可能です」
要領を得ない言葉に子供たちの疑念は深まる。
「そんな才能に恵まれたあなたたちが魔法を暴走させたらかなり危ないと思いませんか? ねぇ、エウレアさん」
びくりとするエウレア。
親たちにはわからないが、生徒たちにはわかっているのであった。
王妃がエウレアの名前を出したのはすなわち、ライヤがエウレアに魔力の暴走の経験をさせているのを知っているという事を。
「まぁ、彼はそれを押さえつけるだけの技量を持っていますから、そこは問題ではありません。でないと、教師になんてなれませんからね」
「しかし、今回のような魔法が既に発動してしまっているものならどうでしょう」
ふよふよと降りてきている2人を見上げて王妃は言う。
「S
そこまで言っても、まだ知識のない生徒たちにはわからない。
しかし、親たちはライヤの異常性をしっかりと理解していた。
どれだけ魔力制御をスムーズに行って魔法を行使すればその領域に辿り着けるのか、想像がつくからである。
王妃は子どもたちへのアドバイスとして先生のまねごとをしたつもりであったが、結果的に親たちの間でライヤへの認識を改めるきっかけを作ることとなったのだった。
「シャロン、お前にしては無茶したな?」
「……ごめんなさいっ……!」
「いや、まぁ反省は大事だけどな? そんなに縮こまらなくてもいい。お前らに教えるのが俺の仕事だし、失敗したら助けてやるのも俺の仕事だ。存分に失敗しろ。どうにか助けてやるから」
地面に降り立ったライヤは自分にしがみついたまま泣き続けるシャロンを抱えたまま王妃に話を振る。
「何をなさってたんですか」
「んーと、ちょっと先生してみたいなーって思ったからやってみてたのー」
「王妃が何をやってるんですか」
ライヤと王妃の親し気なやり取りに目を白黒させる親たち。
「シャロンも、大丈夫だった?」
「は、はい……。王妃様……」
「もう、おばさまでいいって言ってるのに」
「そういうわけには……」
シャロンも泣き止む温厚さ。
「姉さん!」
「あら」
シャロンの親の登場だ。
「この度はライヤ先生。うちの子が大変のご迷惑を……」
「迷惑なんてそんな。先生として当たり前ですよ」
「そう言って頂けると、幸いです。ほら、シャロン! お礼はしたの!?」
「あ、ありがとうございました、先生……」
「うん、気を付けろよ」
俺への挨拶を終えると、キッと王妃に向き直る。
「それで、姉さんは何をしているのよ!」
「何って、授業参観に来たに決まってるじゃない?」
「今まで他の子の時に来たことなかったでしょう! 政治に関わるつもり?」
「そんなわけないわ。ただ、今回は、ウィルにシャロン。ライヤと3人も知ってる子がいるから面白そうだと思って来ただけよ」
「お願いだから王妃だという自覚をもって頂戴! 姉さんが何かしたら家に迷惑がかかるのよ!?」
「そうね、何かしたら、ね」
凄い剣幕で怒る妹を柳のようにのらりくらりとかわす姉。
家での関係性が伺われる一幕だったな。
だが、シャロンの親は子と違ってかなり元気な印象だ。
父親が大人しい性格だったりするのかもな。
カーンカーン。
授業終了の鐘が鳴る。
「あ、授業終わっちゃった」
結局、シャロン以外は飛ぶことにチャレンジすらしていない。
「チャレンジはまた明日だな……」
「「えぇー!!」」
非難轟々であった。
仕方ないだろ!
王妃たちの喧嘩がこんなに続いて授業が出来なくなるとか誰が予想できるんだよ!
「ということがありまして」
「大変だったねー。お姉さんの胸で癒されとく?」
「遠慮しておきます」
わざとらしく胸を寄せるフィオナに改めて聞く。
「先輩の時は誰も来なかったんですよね?」
「そうだよ? 自慢とか、そういうのじゃなくて、本当にみんな忙しいのよ」
「わかってます。大丈夫です」
やはり、今日の出席率は異常だ。
シャロンの親は遅れてきたとはいえ、全員の親がくるなんてことがあるだろうか。
「それで、どう思った?」
「実力は確かなようだな。噂に関してはどうか知らないが」
「噂についてはいいだろう。だが、王妃との仲の良さを見るに、第一王女との交友関係も本当のようだ」
「カリギュー殿はどう思われる」
ウィルの親と、シャロンの親であるヨンド家の者以外で行われている会合があった。
議題はずばり、ライヤの処遇をどうするか、である。
「うちは既に愚息が決闘を挑み、敗北している。彼に関して、カリギュー家が何かしらのアクションをとることはない」
息子も心を許してきているようだしな、というのは飲み込む。
「カリギュー殿がそう言うのでしたら……」
「ひとまずはいいでしょうかね」
しかし、ライヤが目を付けられていることには変わりがないのであった。
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