決闘 ~another side~

むかつく奴だ。

B級(クラス)のくせにS級(クラス)の俺たちに敬語も使わない。

俺たちに守られる存在の癖に大きな口を叩いている。

だから、潰す。

今日ここで!


「極光の火炎!」


唯一、詠唱をしている途中で邪魔されることだけは懸念していたが、そんな様子もない。

俺は魔法が完成し、ライヤに放った時点で勝ったと思った。

ライヤは避ける様子もなく、ただ立っているだけだったからだ。

大方、俺の魔法に圧倒されて動けないのだろうと思った。

大けがを負えば、こいつもやめるだろう。

当たれば死んでしまうかもしれない魔法だが、それは学園長がどうにかするだろうと思っていた。


しかし、こいつは俺の魔法が収まると平然と生きていた。

無傷で。

服に焦げ跡1つない。

嘘だろ!?

あれをまともにくらって無傷でいられるはずがない!

なぜだ……!?


混乱していたところをライヤに諫められる。

俺は残っていた魔力で次々に魔法を放つが、そのどれもがライヤには当たらない。

くそ!

なんで当たらないんだ!


俺の魔力も底をつき、ライヤは無傷だ。

このまま学園長に止められるかと思ったが、今度はライヤが魔法を使った。

最初は数本の雷を出しただけだったが、それは互いに寄り合って雷の龍となる。

なんだその魔法は!?


なんでそんなことが出来る……!


「降参は?」

「しない……!」


半ば反射的に答えた。

もはや俺には意地を張ることしかできなかったのだ。


雷の龍からブレスが放たれ、自分に向かってくることを確認した俺は思わず目をつぶり、直後に来るであろう痛みに備えた。

しかし、それは来なかった。


目を開けると、雷のブレスは俺をドーム状に避けていた。

どうやったらこんな精密な制御が出来るんだ……。


茫然としているうちにブレスがやみ、学園長から決着が言い渡される。


「情けをかけたのか……!」


俺はまだ挑発するつもりで言ったのだが、軽く流されてしまった。

ここまできて俺はやっとわかったのだ。

自分が喧嘩を売っていた相手がどれだけの高みにいるのかという事を。






すごい……。


どれだけ見ていてもその感想しか出てこないです。

ゲイル君の魔法も凄かったし、それが先生に向かっていったときはちょっと悲鳴をあげてしまいました。

でも、先生は平然として立っていて。

私は安心しすぎてちょっと涙が出てしまいました。


それに、先生はまだまだ止まりませんでした。

茫然としてしまっていたゲイル君をちょっと怒って、自分に向かってくる魔法を全部逸らしていました。

そもそも、他の人の魔法に干渉するのはとても難しいことなのです。

私なんて自分の魔法の制御も上手くできないのに……。

それをいっぱい、ぎりぎり自分に当たらないようにしています。

心なしか、先生は魔法の雨の中で笑っているようにも見えました。


ゲイル君の魔力がなくなった後、どうするのだろうと思っていたら、先生が魔法を出しました。

それも、制御の難しい雷魔法を何本も。

そして、それは龍の形になりました。

雷は、気を抜くとすぐどこかにいっちゃって危ないので、まだ使ってはダメだと言われています。

そんな難しい魔法を一気にいっぱいだして、それを龍の形にするなんてどれだけ難しいのか想像もできません。


それでもゲイル君は降参しなくて。

先生がゲイル君に攻撃したときも少し、悲鳴が出てしまいました。

でも、どこかで安心もしていました。

その予想は当たって、ゲイル君は無傷で魔法の中から出てきたのです。

どうやったかなんて私には想像もできません。


おばさんに言われていたことが少しわかった気がします。

お母さんやお父さんでもあんなに雷の魔法を出しているのは見たことがありません。

私達はライヤ先生より魔力量が多いので、もっと大きな魔法を出すのはできると思いますが、あんなにいっぱいは出せないと思います。


……。


戦っているライヤ先生、かっこよかったなぁ……。






本当に、こいつは。

いつもは本気なんかこれっぽっちも出しやしない。

普段からちゃんとしていれば学園の老骨共に舐められることなんてないのに。

更には教え子にまであんな口を利かれてるなんて。

なんで黙っているのかしら。


今回はいい機会だったと思うわ。

私を負かしたことのあるライヤがずっと舐められてるなんて気に食わないものね。

これで、本気じゃないのがもっとむかつく。


ゲイルとかいう子が魔法の詠唱をしているけど、ライヤは何かする素振りすらない。

最初は受けてあげようって言うのかしら。

ライヤって普段は面倒くさがりだけど、いざ戦いになったら途端に活き活きしだすわよね……。


後ろにいた私には見えたけど、ゲイルの魔法はライヤの周りを球状に綺麗に避けていったわ。

流石の魔法制御力ね。

自分より魔力量の多い相手の魔法を制御して自分の周りだけ当たらないようにする、なんて神業を平然とやってのけるんだもの。

私も逸らすことくらいは出来ると思うけど、あれはできないわね。


その後も襲い来る魔法を紙一重で全部逸らしていく。

ライヤはあれよね。

戦うのを楽しいと思ってるタイプだわ。

でなければ、あんなにギリギリにする必要ないもの。

本人に言ったら否定するでしょうけど。


ライヤはどうやって勝つつもりかしらと思っていたけれど、思っていたより派手でした。

やっぱり、皆が見に来ているというのが大きかったのかしらね。

目立ちたがらないライヤだけど、少しは自己顕示欲と言うものがあったのかしら。

ライヤの作る雷の龍はとても美しいわ。

魔力の澱みもなく、綺麗に形作られていて、本当にそこにいるかのよう。


戦いが終わって、体育館の真ん中でおろおろしてたライヤも、私を見つけてにっこりと笑いかけてくる。

こういうところが……!

もう、ほっとけないのよね。

普段は笑顔なんてめったに見せないくせに。

ゲイルと二言三言交わしていたようだったけれど、歓声で聞こえなかったわ。

とりあえず、私はこう言わなくちゃね。


「お疲れ様、ライヤ」

「ほんとに疲れたよ……。なんでこんなことしなくちゃいけないんだ……」

「そんなこと言わないの! ほら、労ってあげるから! 行くわよ!」

「どこへだよ……」


この後はそれぞれ解散となっているから、私たちはそのまま街へとくりだす。

なんだかんだ言いながら付き合ってくれるところもライヤのいいところね。


「ふふっ!」

「なんだよ、いきなり笑いだして」

「なんでもないわ! さぁ、行きましょ!」


折角2人きりなのだから。

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