決闘 ~ライヤ side~

3日後。

学園はこれまでにない盛り上がりを見せている。

これまでとはいうのは、授業参観にして異例の、という意味である。

まぁ、ゲイルのせいだ。


「そうでもないわよ。B級(クラス)初の教師であるライヤを見に来ている人達だってたくさんいるわ」

「それはそれで胃が痛い話だな……」


出来れば注目なんて浴びたくなかったんだけどな。

しかも悪い噂まで付いているときた。

学園長を脅しただの王女に取り入っただの。


どうせそんな噂がたってる奴はどんな奴か見てやろう。

そのくらいだろう。


「さぁ、時間よ。頑張ってね。万が一負けでもしたら」

「ほどほどに頑張るよ……」


3時間目の昼食後。

最も大きなS級(クラス)の体育館で。

それが俺たちの決闘の場となる。

うん。


「逃げださなかったようだな、ライヤ……先生!」


俺のセコンドにアンネ先生がついているのを見ると急に語調に勢いがなくなるゲイル。

もう刷り込まれてんな。


「逃げだせるもんならとっくに逃げ出してるさ。ただ、俺も苦労して手に入れた職を失いたくはないからな。悪いが、勝たせてもらうぞ」

「ふん! その口をすぐにでもきけなくさせてやるさ!」


大層な自信ですね、はい。



「お集まりの皆さん。本日は我が校の授業参観にお越しいただき、誠にありがとうございます。本日は1年生の保護者である皆さんにこの学園のことをもっとよく知っていただくため、このような機会を儲けさせていただきました。S級(クラス)のゲイル君とそのS級(クラス)の担任であるライヤ先生による決闘をお見せ出来ればと思っております。もちろん、両者の同意、また保護者の同意も得ていますのでご安心ください」


ただでさえ決闘なんて物騒なことをやるんだ。

あとから問題になったらまずいからな。

この注意は必要だろう。


「ルールは1本先取。私が審判を務めます。双方、私が止めたら戦いをやめること。よろしいですね」

「はい」

「もちろんです」



「では! これ以上の説明も不要でしょう! 単純明快、何でもありの1本先取! 1本は私の判断でつけさせていただきます! 両者とも、用意は?」


頷く俺とゲイル。


「……始めぇ!!」


校長の号令により、静まっていた観衆が一気に息を吹き替えし、大歓声の中俺とゲイルが向かい合う。


自然体で構える俺に対し、大きく両の手を空へと掲げるゲイル。


「我が一族に伝わるS級(クラス)の魔法を見せてやる!」

「そんな一族の魔法をこんな公の場で使っていいのか?」

「ふん! どうせ真似もできないだろう!」


ゲイルの言っていることは概ね正しい。

詠唱しているものを聞いただけで出来るようになるならば、この学校の存在意義はない。

だって本とか読むだけでいいってことじゃん。


だが、そんなことを言っても詮索する奴はいるだろう。

そこまでは考えていないようだが、まぁ、親が許可してるんだからありなのかもな。


「……我らの名のもとに我が敵を灰燼と為せ! 極光の火炎!」


長々と詠唱をしていたゲイルが元気を集めて放出する某必殺技のように手のひらをこちらへ向けると、まばゆい光を伴った火炎球がこちらへと放たれた。


どよめく会場。

それもそのはず、ゲイルの放った火炎球は流石S級(クラス)と言わざるを得ない大きさだったのだ。

具体的に言えば、そうだな。

大玉ころがしの球の4倍くらいか?

まぁ、人1人に向けるには過剰すぎるほどの威力だ。

よっぽど俺が気に入らなかったんだろうな。


しかし、それもそのはず。

貴族の魔法というのは高威力なように出来ている。

なぜなら、彼らの魔法が使われるのは基本的に大きな戦場であり、そういった場では広範囲を殲滅する力が必要になるからだ。


カリギュー家の「極光の火炎」は文字通り光り輝く火炎球を戦場の真ん中に落っことすというものだ。

その威力もさることながら、戦場での真価はその光にこそある。

周りを真っ白に染め上げるその光は敵の視界を阻み、戦意を削ぐ。


さて、ここで問題です。

なぜ俺はこんなことを知っているでしょうか。

正解は。


「やはり親父さんのより威力が落ちるな」


ゲイルの親の魔法を見たことがあったからだ。


「な!?」


炎の中から平然と出てきた俺を見てゲイルが驚きの声をあげる。

それもそのはず。

ゲイルにとっては一族の切り札。

驚きもするだろう。


「お前がうちの魔法を見たことがあるわけがないだろう!」

「そう思うのはお前の自由だが、実際、俺は魔法を無効化している。ほら、次の手を考えるんだ」


俺は自分からは手を出さず、ゲイルに次の手を促す。


「え、え……。そんなわけがない。俺の一族の切り札が……」


ダメだ。

混乱しまくってて思考が停止している。


「ゲイル!」


俺はこれまでの口調を一変させて激しく名前を呼ぶ。


「お前が俺に決闘を挑んできたのはその程度の覚悟だったのか!? 違うだろうが! 大事にした以上、S級(クラス)がB級(クラス)より上だと証明して見せろ!」

「お前なんかに……、言われずとも……!」


茫然とした状態から立ち直ったゲイルは次々に両の手に火炎弾を作り、こちらに対して弾幕を張る。

物量で押しきろうというつもりか。

だが。

意識が1つに向けられていない魔法で俺に制御で勝るなどあり得ない。


飛んでくる全ての魔法に必要最低限の制御を施し、自分に当たらない場所へと誘導する。

S級(クラス)はその才能ゆえに、魔法を多く発動し、相手に向けることが可能だ。

しかし、その制御がままならないままでは、相手に当たらないどころか、最悪自分に魔法が返ってくることすらあり得る。


「どうした、もう終わりか?」

「……」


流石のゲイルでも魔力を使い切り、悪口も言えない様子。


「なら、見とけ。これがお前が馬鹿にしたB級(クラス)の力だ」


俺は意識を集中させ、雷の魔法を発動する。

幾筋もの雷は互いに集まって、すぐに龍の形になる。


「きれい……」


静まり返った会場の中で、誰かがポツリと呟くのが聞こえた。


「降参は?」

「しない……!」

「いい度胸だ」


雷の龍がブレスを放ち、まばゆい光がゲイルを覆った。


周りから声にならない悲鳴が上がる。



しかし、ブレスが収まり、龍が姿を消した後には尻もちをついてゲイルが無傷で座り込んでいた。


「そこまで! 勝者、ライヤ!」


学園長の声で周りが音を取り戻し、歓声があがる。


「情けをかけたのか……!」


俺がどうしようかとうろうろしていると、少しは回復したらしいゲイルがそんなことを言ってくる。


「悪いが、決闘のルールにどちらかが怪我をしなければいけないなんていうものはない。明らかに勝負はついていただろ? それにな……」


俺は帰りを待っているアンの方を振り返りながら言う。


「俺はお前の先生だ。先生が生徒を傷つけられないだろ? 明日からちゃんと学校来いよ?」

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