第86話


「これ敵を狙って撃てばいいんだよね?」


結は顔に似合わないゴツい銃を持ちながら私に聞いてきた。その姿に違和感がありすぎて笑ってしまう。しかも最初はやりたがっていなかったのに真面目な顔をするのが結らしい。


「うん。いっぱい出てくるから狙って撃てば平気。途中で画面にナビみたいなのも出てくるから」


「分かった」


「あっ!始まったよ!結頑張ろうね!」


琴美はゲームが始まって楽しそうに笑っていた。こないだと一緒の様子は何だか微笑ましい。私はそうやって二人がゲームをしているのを眺めていたが、結は苦手と言っていたのに琴美同様に上手かった。



「泉!これいつ終わるの!?」


銃を撃つ音と恐竜の奇声が響く中、結は少し眉間にシワを寄せながら強めな口調で聞いてきた。


「全部倒すまで終わらないよ」


「はぁ?じゃあ、やるかやられるまで終わらないの?!」


「え、うん。まぁ、そうだけど…」


なんかキレていそうな口調な割りに結は真面目にゲームをやっている。結って適当にやる時ないのか?どこまでも真面目な結は正確に敵を倒していた。


「結も琴美もまだ体力あるから大丈夫だよ!まだ一匹恐竜倒しただけだし!」


対する琴美はずっとにこにこしながら敵を倒していた。琴美は真面目にやってる感じがないのに前よりも上手い気がする。

この二人は本当に凄いなぁ、私は感心していた。


「わー!!全然死なない!楽しい!!」


「泉!私と代わって!疲れた!」


ボスを倒してしばらくした後、結は私に目をくれずに言った。琴美ははしゃいでいるのに何でこんなに正反対なんだろう。ていうか、理由もそうだけど今は敵がいっぱい出てきていて代われるような場面ではない。


「今代わったら私死ぬよ?」


「いいから!ゲーム苦手だって言ったでしょ!」


「でも、結すっごい上手いよ?」


「どこが?!」


「え?どこが?」


結はほとんどやられていないのに上手いと思っていないみたいだ。なぜだ?結の上手いはどこからなんだ…。私は結よりも下手だから何だか代わりたくなかった。


「私よりも全然…」


「早くして!」


「う、うん!分かった」


説明しようとしたら結は私を一瞬睨んできたからすぐに代わった。睨まなくてもいいのになぜこんな怖い思いをしないといけないんだ。

しかし代わって何分もかからないうちに私はもう死にそうになっていた。


「泉もう死にそうだよ?面白い!!」


私は下手くそすぎて琴美に高らかに笑われていた。だから代わりたくなかったのに。自分でも分かってるんだけど私にゲームの才能はない。


「しょうがないじゃん!いっぱい敵出てくるし!うわ!またやられた!」


私は沢山出てくる敵に照準を合わせながら必死に倒しているのに敵はわんさか沸いてくる。もう私の体力ゲージが失くなりそうだ。これじゃボスまで行けない。


「泉下手くそ。何でそんなに下手なの?笑えるんだけど」


私が必死にやっているすぐ横で結はおかしそうに笑ってきた。そんなに笑う?ってくらい笑う結に傷ついた。少しくらい誉めてくれたっていいのに結だから仕方ない。


「二人が上手すぎるんだよ!あぁ!!もう死んじゃったじゃん!」


私は呆気なく雑魚にやられて死んでしまった。私に代わらない方が絶対良かったのに。結は死んだ私に更に笑いながら言った。


「下手くそだったけど慌ててる泉は面白かったわ。たかがゲームなのに本当笑える」


「だって難しかったじゃん。結は簡単だったかもしれないけど」


「はぁ?これは私も難しかったけど。やられてたし」


なぜかここで食い違いが起きている。あんなできていたのに難しかったって、じゃあ私はどうなるんだ。私はもう開き直った。結と私の感じ方は違いすぎるのだ。


「私はゲームできないんです」


「私も苦手だけど」


「いや、結は絶対苦手じゃないでしょ?めっちゃ上手かったじゃん」


「は?私かなりやられてたじゃん」


「え?……いや、もうやめよう。止まらなくなる」


結は謙虚なのか何なのか、ゲームをやらないから上手いの基準が分からないんだと思う。さっきから若干噛み合わない会話を私は強制的にやめたのに結はよく分からなさそうに聞いてきた。


「なんの事泉?」


「いや、こっちの話。ほらそれより琴美応援しよ?琴美頑張れ!」


琴美は私達が少し揉めている間にかなりやられてしまったみたいで体力が少なくなっていた。二人用のゲームだから上手くても敵に囲まれたら終わる。琴美は嘆いていた。


「あー!死んじゃうよ~!泉が死ぬから琴美もう死んじゃう!!」


「もっと真面目にやんないから死ぬんでしょ」


結は琴美にいつも通り辛口だった。真面目にやるやらないはそんなに関係ないと思うけど琴美に真面目さは求めてはいけない。


「えー?真面目にやってたよ琴美」


「ずっと笑ってたじゃん。あ、死んだ」


「あー!!折角楽しかったのに~!!」


ゲームオーバーになってしまった琴美は残念そうに落胆していた。うん、私のせいだね。でもいずれ死ぬ運命だったんだ。しょうがない。


「琴美ごめんね。次のゲームやろ?負けたら次だよ次」


今日はとことんゲームをやろう。琴美は嬉しそうに頷いてくれた。




それから三人でいろいろなゲームを楽しんだ。銃で撃つゲームはもちろん、リズムゲームや格闘ゲームをやってそれはそれは楽しかった。

結はどのゲームもやる気がなさそうだったのにやりだしたら真面目にやって途中で私に代わってきた。結いわく、ゲームは頭を使うから疲れるみたいで長くはできないらしい。天才の言う事はよく分からないが私はゲームの下手さにずっと笑われていた。



結が楽しそうだから大目に見るけどどうしたら上手くなるのか分からない。

ちょっと悔しかったが二人とも楽しそうだったから良しとする。



ゲーセンで一通り遊んでから私達は琴美の家に来ていた。琴美は以前言っていた通り新しい被り物である魚のリアルな被り物を被ってエレクトーンを弾いてくれて本当に笑えた。頭と格好とやっている事が合ってなさすぎてシュールな印象のそれはじわじわ来るものがあった。


「琴美……本当にウケる……」


ソファに座った私は笑いが止まらなくて震えていた。琴美はジャズをまた弾いてくれたが魚の被り物を取らずに私の隣に座って魚顔のまま話しかけてきた。


「面白いよね!琴美これ見た時ビビって来たんだよ!でも、これ長いから振り向いたりするとガンガン当たっちゃうの」


「当たるでしょこれは…。あんまり顔動かさないでよ刺さるから」


「琴美本当になにしたいの?」


話に混じってきた結も呆れながら笑っていた。琴美の考えは誰も察してあげられない。


「えー、楽しいかなって思って」


「意味不明だから。まぁ楽しい……というか見てるだけで笑えるけど」


「だよね!琴美エレクトーン弾けるまで手こずったから良かったぁ~」


琴美の努力の行き先は謎だし努力する事なのか疑問だ。魚面の琴美を見て笑っていたら琴美はいつもみたいな事を言ってきた。


「泉?琴美の頭撫でて?」


「え?これを触るの?……なんか気持ち悪いんだけど」


リアルでてかてか光っている魚を撫でるなんて、手を伸ばしがたい。しかし、琴美は私の腕を引っ張ってきた。


「早くー!このままでも撫でてほしい!」


「えぇ?結に撫でてもらえば?結やってあげなよ」


私はどうにか結に流そうと思ったら結は真顔で即答した。


「気持ち悪いから触りたくない。私は見てるだけで良いから泉がやって」


「え~、……もう分かったよ」


「泉早く!」


これはどう足掻いても私がやるようだ。もう腹を括った私は気持ち悪いくらい輝いている魚の体を触った。

なんか、思ったよりも気持ち悪くはない感触に安心したけどいい気分ではないし魚顔の琴美に見つめられているのは正直反応に困るというか不気味で怖い。気持ち悪いよ琴美。



私が撫で終わると琴美はやったー!と喜んで魚顔のまま腕に抱きついてきたが頭が刺さって痛かった。




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