第68話


バイト先のBBQを楽しんで、あとは結とクルージングだなぁとワクワクしていた私はやらかしてしまった。本当に私はバカだと思う。

クルージング前日にバイトをしながらちょっと体調悪いかも?と思ったのは当たりで私は当日に熱を出してしまった。

夏風邪は侮れないと思っていたのに最悪だ。というかめちゃめちゃ楽しみにしていたのに死にたいくらい悲しい気分だった。幸い喉は痛くないけど高熱のせいで体がダルくて頭が痛い。私はそれでも朝一で結に電話をかけて風邪を引いてしまったから行けないと謝った。



結は体調管理がなってない!って怒るかなと思ったら怒る事はなく、逆にとても心配してくれた。予想外に優しくされた私は戸惑いながら死ぬほど謝って電話をきったけどクルージングに行きたかったからずっと泣きそうだった。


「はぁ~、もう死にたい。……はぁ…」


大きなため息をついてから私はだるい体を起こして病院に向かう。歩くのもしんどいし熱のせいで少しくらくらするけど市販の薬じゃすぐによくならないから、私は朝一で病院で見てもらって薬をもらうと薬局で適当に食べ物や飲み物を買った。


本当はお母さんに連れてってほしかったのにお母さんは朝から夜までずっと仕事なので仕方ない。ていうかお母さんは遊んでばっかりいるからでしょって呆れていてその通りだから何も言えなかった。私は家に着くと食欲がないなりにご飯を食べて水分補給をして薬を飲んだ。



「あー、天気良いのになんで風邪引いてんだろ……」


さっき歩いて分かったけど外はよく晴れて絶好のクルージング日和だ。今からでも張って行きたいくらいに。ああ、結に会いたかったなぁ。

しかし、熱で具合が悪いので私はすぐに自分の部屋に戻るとベッドに横になる。とにかく寝よう、寝てよくなろう。

悲しい気持ちを拭うように私は強く目を閉じて眠れるのを待った。




そしていつの間にか寝ていた私はお昼過ぎに目覚めた。朝よりは体調がましだが熱はまだ高い感じがする。でもちょっとは良くなっているみたいでほっとした。

明日はバイトがなくて良かった。風邪で休みを台無しにするのはすさまじく嫌だけど休まないと治らない。

私は起き上がってまた薬のために適当にご飯を食べた。そして薬を飲んで部屋に帰る。


体がダルいけどまだ眠くないし、少しベッドに凭れながらミュージカルを見ようと思う。悲しすぎて気分をどうにか上げたい。こないだ結が良いと言っていたミュージカルをネットで買ったから面白いに違いないが本調子じゃないのであまり集中できない。私はすぐにベッドに横になってしまった。




結は今ごろ私の代わりに誰かを連れてクルージングしてんのかなぁ。ミュージカルを見ながら羨ましく思った。代わりに誰かと行ってきてと謝りながら言ったけど、代わりに行ったやつ羨ましすぎるよ。結が折角誘ってくれたから絶対行きたかったのに。

ミュージカルを見ているのに私の頭は結の事だらけで悲しくなってしまう。

自分のバカさに絶望する。私はあんまり風邪なんかひかないのにタイミング悪すぎませんか神様。死にたい…。


私はそうやって自己嫌悪に浸りながら気づいたら眠っていた。







「ピーンポーン」



心地よく眠っていたのに誰だろう。インターフォンを押す音が響いて目を開ける。眠気が覚めた私はだるい体を起こして玄関に向かった。こんなブルーな気分なのに勘弁してよ。


「はい……え?どうしたの?」


玄関を開けて驚いた。そこにはてっきりクルージングに行ったと思っていた結がいた。


「どうしたのって……心配だから来たの」


「え?でも、クルージングは?誰かと行かなかったの?」


「はぁ?行く訳ないでしょ。泉がいないとそんなに楽しくないし、私は泉としか行くつもりなかったから…」


朝に結が楽しめるように言ったのにこう言われると嬉しく感じる。結は私の事を考えてくれたのか。ちょっと耳を赤くして顔をしかめる結を私は招き入れた。


「そっか、ごめんね心配かけて。よかったら上がってって?さっきまで寝てたから朝よりは体調良くなったからさ」


「うん…」


結に会いたいと思っていたから結といれるなら風邪を引いて具合が悪くても気にならない。それに折角来てくれたんだからちょっとくらい話したい。私は結を自分の部屋に通すと飲み物を準備してあげた。


「泉、これコンビニで色々買ってきたから食べて」


結の隣に座った私に結はさっきから持っていたビニール袋を私にくれた。中にはペットボトルの飲み物とゼリーやプリンが入っていた。本当に心配してくれる結の気遣いが凄く嬉しくて笑顔になってしまう。


「ありがとう。じゃあ、一緒に食べよ?」


「私は別にいらないから。それはあんたのために買ったんだから、あんただけ食べてれば良いでしょ」


「でも折角だから一緒に食べようよ?結と一緒に食べたい」


「…はぁ?……はぁ、…分かった」


結は眉間にシワを寄せながらも頷いてくれた。良かった。私は結と一緒にゼリーを食べながら結に話しかける。今日はとても楽しみにしていたから謝らないと。


「結、あの……今日はごめんね?朝も言ったけど本当にごめん。楽しみにしてたのに私本当にタイミング悪くて…すいませんでした」


隣にいる結は特に表情は変えない。いつもの険しい顔のままだ。


「平気って言ってるでしょ。クルージングは行こうと思えばいつでも行けるし気にしてない。それよりあんたでしょ?体は大丈夫なの?」


「私は大丈夫だよ。ちょっとまだ熱があって体がダルいけど寝てればよくなるから」


「……それ食べたら横になってよ」


私の大丈夫は今は信用されていないらしい。結らしいなと思いながら頷いた。


「うん分かってる。今日は来てくれてありがとね?今日クルージングも楽しみだったけど結に会うのも楽しみだったから落ち込んでたんだ。だから会えて嬉しいよ」


私はゼリーを食べ終えてお茶を飲む。結に会えると思っていなかった私は結が来てくれたのが嬉しすぎるくらいで、具合は悪いけど笑顔になってしまう。本当に単純なやつだ私は。結はゼリーを食べ終えると少し耳を赤くしながら私を見つめる。


「……私も楽しみだったから。……今日は泉が心配だったけど、……私も会いたかったから……来たし…」


「ふふふ、ありがと」


私は結を抱き締めた。なんか今日の結は素直みたいで嬉しく思いながら優しく結の髪を撫でる。結は私に控えめに抱きついてきた。


「結大好きだよ」


「……知ってる」


「結は?結は好き?」


「……知ってるでしょ」


ほんのちょっと前までは素直だったのに、可愛くて笑ってしまう。私は少し体を離すと結の頬にキスをした。


「言ってくれないの?」


「……言いたくない」


「なんで?」


言いたくない理由なんか分かっている。それでも結が可愛くて聞いてしまった。すると結は恥ずかしそうに顔を歪める。


「……なんでも」


「えー?なにそれ。じゃあ、私も言うのやめようかな。結が言ってくれないなら言っても意味なくなるし」


「……私は……いつもじゃないけど言ってるし……言ってくれないとやだ……」


素直じゃないくせに不貞腐れたように結は視線を逸らしながら嫌がった。もう結の気持ちなんか全て分かっているけどここは言わせてやる。私は結のおでこに軽くキスをして結の耳甘噛みしながら舐めた。そして結が逃げられないように抱き締める。


「結、言って?私しかいないから」


「んっ…ちょっと!…あっ!泉…!…ぞわぞわするから、やめて…!」


「言わないとやめない。……それに、結はこれ好きでしょ?」


私は少し体を震わせる結の耳をいやらしく舐めながら吸う。私はエッチはあまり上手くできなかったけど結の感じる部分は何となく理解している。結は抵抗になっていない弱々しい力で私の腕を掴んだ。


「あっ!んっん……泉……もっ……だめ…」


「じゃあ早く言って?……聞きたい」


「わ、分かった。…んっ…言うから…やめて…」


私はもっとしたかったけど唇を離して結を見つめて待った。すると結は本当に赤い顔をして小さく言ってくれた。


「……好き」


「うん。もっと言って?」


やっと言ってくれた言葉に嬉しくなって、もっと言ってくれるように催促した。私が至近距離まで顔を近づけると気に入らなそうな顔をしたけど結はまた口を開く。


「…好き」


「もっと」


「だから…!…私が一番好き!泉が好き!」


最後にはやけくそみたいに言う結は恥ずかしいのか顔を思いっきり背けた。本当にいじらしくて可愛らしいけどやりすぎてしまったようだ。私は結が愛らしくて我慢できなくて、軽く結の唇にキスをする。


「ふふ、ありがと。私も一番好き。結?もうちょっとだけキスしてもいい?風邪だからしたらよくないのは分かるんだけど、ちょっとしたら終わりにするから」


結の頬に手を添える。結を前にすると私は結が好きすぎて我が儘になってしまう。体がダルくて熱で頭が少し痛いのに、私は獣みたいに結を求めているのが内心笑えてしまう。結は私のお願いを聞いてくれるだろうか。少し黙った結は眉間にシワを寄せた。







「……移さないようにしてよ」


私はその返答に思わず笑った。どうやら良いみたいだ。私は優しく結にキスをした。


「ありがと。大好きだよ結」


私は気持ちを伝えながらまたキスをする。ちょっとだけと言ったけど止まらない私は何度も何度も唇を合わせて結が蕩けるような顔をするのを待った。


結はキスを続けると顔を蕩けさせていやらしい女の顔をする。それが私には深くキスをして良いサインのようなものだった。結はその顔をすると私を求めてくれるのだ。あの一回で私はそこまで理解できている。


「結……好きだよ……好き」


段々とキスをして唇を離す時間を短くしていく。私はもう興奮して結を貪りたくなってしまっていた。だから一旦落ち着けるようにキスをするのをやめたのに、結は蕩けたような顔をして自分からキスをしてきた。



「……もっと……もっと深いのもしたい…」


あぁ、もう良いのか。可愛らしい結が私を求めてきた。合図が出たならもう貪ってしまおう。私は笑って小さく頷くと結に深くキスをした。


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