第67話


「じゃあ、もう帰るから」


結とエッチをしてからもう随分暗くなってしまった。時間を忘れる程夢中になっていた私はバカだなと思うが結が好きすぎてこればっかりは仕方ないと思う。結は帰り際まで恥ずかしがっていてその姿は本当に愛しい。


「結」


私は結にもう一度気持ちを言おうと思った。興奮した流れでしてしまったけど結の体目当てじゃないし、私を信用してほしい。結は少し首を傾けた。


「なに?」


「私、本当に結が好きだから。今日は嬉しくて、嬉しすぎてキスしてたら止まらなくなってしちゃったけど……本当に好きだよ。遊びとかじゃなくて真剣だからね私は」


この高まり続ける気持ちは止めどなくて私の理性を奪う時がある。しかし私の根底にあるのは結に対する好きな気持ちだけだ。私は真剣に付き合って関係を続けていきたい。結は私の気持ちに恥ずかしそうに答えてくれた。


「…さっき散々聞いた。……ちょっとああいう事するには早すぎたかもしれないけど、私が泉を待たせ過ぎてたから…別にいいの。それに、……泉とできて嬉しかったから」


「…そっか。私も嬉しかったよ。でも、上手くできなくてごめんね?初めてだったから緊張してて…。次からはもっと頑張るから」


これに関しては恥ずかしいけど付き合っていくのに避けて通れない。情けないが私はセックスを覚えたてのガキだから結を一生懸命愛したけど気を使わせてしまった。結は優しいから私を受け入れてくれたが全然自信なんかないのだ。



「そんなの気にしてない。私も初めてだったし……泉が触ってくれるなら…上手いとか下手とかどうでもいい‥」


結は私に優しいと言うくせに私よりも優しくしてくれると思う。結の気持ちが嬉しくて笑ってお礼を言った。


「ありがとう結」


「お礼とかいいから‥」


さっきからずっと恥ずかしがっている結を愛しく思うが、大好きな結と付き合えたんだからちゃんと頑張らないとダメだ。心の中で私は密かに決意していた。



「それより、浮気したら許さないからね」


さっきあんなに気持ちを伝えたのに結は私を少し睨むように見てくる。浮気なんかするはずがないから私は笑ってしまった。


「ふふふ、しないよ」


「本当に?したら本当に、一生許さない」


「だからしないってば」


私は結の頭を優しく撫でるとそのままキスをした。


「あんなに好きだって言ったのに信じられないの?私には結しかいないよ」


結に気持ちは伝えたけどこれからも溢れる気持ちは伝える。結は照れながら表情を歪ませた。


「信じてるに決まってんでしょ。……もう帰る」


「ふふ、はいはい。気を付けてね?大好きだよ結」


私は照れ隠しをしている結に笑って言うと、結は益々顔を歪ませたけど耳を本当に赤くしているから平気だ。結はじゃあね、とだけ言って私の家を出た。




私はそれから本当に幸せな気分だった。

結と付き合う事ができて、エッチまでしてしまった。本当に身に染みて幸せを実感する。結はあの後連絡をくれて恋人らしく好きと言い合ったりできて、こんなに嬉しい事が続くと頭がどうにかなってしまいそうだった。


私は結が恋しくて恋しくて無償にうずうずしていた。




だが、今日はバイト先の皆とBBQの日である。夏休みのイベントの中でも私がいつも楽しみにしているバイト先の皆とのBBQは結とは違う意味で浮かれる。


今日は遠藤さんが家の車を出してくれて涼介と田村さん、私と渡辺さんのメンバーだ。渡辺さんはキッチンで歴が長く仕事ができる大学生の遠藤さん的存在だが、この人も面白い人だ。今日は他にも呼びたかった人がいたけどシフトの都合があるし今日は夜からバイト組がいるから朝から行って夕方解散である。



「私さ、こないだ大福食べながら歩いてたら可愛いですねってナンパされたんだけど、口の回りに粉付いてたからかな?」


渡辺さんは車の移動中に私の隣で唐突に訝しげに呟いた。渡辺さんは遠藤さん同等に綺麗で美人なんだけどただのアイドルオタクだ。ショートカットで小顔なのにモデルみたいな身長とスタイルはいるだけで目を引く。でも全く名の知れない地下アイドル?みたいなのに人生を捧げている。この人の面白いところはこれだ。


「ただの食い意地張った女に血迷ったのかね?なべどこでナンパされたの?」


遠藤さんは運転しながら笑っていた。


「バイト先出てすぐだよ。疲れたから大福食べながら駅まで歩いて信号で止まってたら可愛いですねって言ってきて、私じゃねーなって思ったら私しかいなかったんだよね」


「ウケる。それなんて答えたの?」


「え、何かこれから遊ぼうみたいな事も言ってくるしもう疲れてたから、すいませんもういいですかって言ったら、あ、はいって言って引いてくれた。あんな素直なナンパ初めてだったわ」


「すいませんもういいですかって疲れてるのが滲み出てるじゃん。なべそんな疲れてたの?ナンパした人引いてたんじゃない?」


遠藤さんは本当に愉快そうに笑っているけど渡辺さんは思い出したように話した。


「あの日は私の推しのユカちゃんのために徹夜でCD二十枚買いに行ってユカちゃんのライブで死ぬほど応援してチェキめっちゃ撮って話してからバイト行ったからマジで疲れてたんだよ。私はドルオタのユカちゃん推しだから無理ですって言えば早かったんだけど頭回らなくてさ…」


「一日のスケジュール詰め込みすぎだしキモいですよ渡辺さん。しかもナンパにそんな事言ったら何かSNSで書かれますよ?渡辺さん美人なんだからモデルとか、もしくはアイドル追いかけてないで自分でアイドルしたら良いのに。絶対ファンできますよね?柳瀬さん」


私の隣にいた田村さんは遠藤さん同様に愉快そうに笑って悪口を言っていて内心笑えた。渡辺さんはいじられキャラなので皆からキモがられているがここで私に振ってくるとは。とりあえず頷いておこう。


「うんうん。渡辺さん美人だし絶対大丈夫ですよ」


「それめんどくさくて無理だよ。そんな事してたらユカちゃんのために生きられなくなっちゃうからドルオタ失格だし……」


「ドルオタに失格とかあんの?てか、ユカちゃんのために生きてるの気持ち悪いしもはや怖いんだけど。なべあのキモい躍りも一人でやってるんでしょ?絶対ユカちゃんは引いてると思う私。会った事ないけど」


遠藤さんはなぜか渡辺さんにはズバズバ言う。いつも優しいのにこれは謎だ。渡辺さんが嫌いな訳じゃないんだろうけど笑顔のくせにズバズバ刺さる事を言う。


「こないだユカちゃんと話した時喜んでくれたよ?コールもCDもありがとうございますって。また来てくれて嬉しいって言われてチェキ死ぬほど撮っちゃったし。ユカちゃん私の事覚えてくれてるしきっとまだ引かれてないと思いたい」


「いや、絶対引いてるから。ていうか金積んでるんだから喜ぶに決まってんじゃん。キャバクラとかと一緒でしょ?何回も来てれば顔覚えるし絶対何か変な女に好かれてる怖い、くらいには思われてるよ。てかそんな写真何枚も撮ってどうすんだよ、遺影の写真でも探してんの?」


「遠藤もうやめて。夢見させてアイドルに。チェキは私の癒し件金より大事な物なの。ていうかユカちゃんは私の全てなの」


凄い美人なのに必死にこんな事を言っちゃう渡辺さんはまぁ傍目から見ていると引く。てか、遠藤さんキツいなマジで。私はもう会話に入らないように田村さんと話していた。



川辺の予約したBBQのスペースに着くと機材と食料、それに日除けのパラソルが付いたテーブルがセットされていた。渡辺さんが皆からお金を集めて支払い等を済ませてから早速BBQを始めた。

近くの川はとても綺麗で見ているだけで涼しかった。


「あー、なんか非現実って感じで気分良いですね柳瀬さん」


「だねぇ。しかもお肉とか美味しそうだし来て良かったぁ」


私は田村さんと椅子に座りながらのんびりしていた。お肉とかは涼介と渡辺さんがやってくれるし今はのんびり休憩タイムだ。


「泉ちゃんとたむちゃん川行こーよ?」


「そうですねぇ、折角だし行きましょう」


遠藤さんはさっきまで運転していたのに楽しそうに誘ってきたから私達は川に向かった。

靴を脱いで足だけ川に入ると、川の水は冷たくて気持ち良かった。今日は最初は泳ごうとしていたけどここは人気な場所だから泳げないかもしれないと思って水着は用意していない。この考えは当たっていた。川辺には家族連れが多い。


「そーいえばさ、こないだ結ちゃん来てすっごく可愛かったんだよたむちゃん」


遠藤さんは大きい石に座りながら田村さんに話しかけた。遠藤さんは私以外を変なあだ名で呼んでいるが誰も気にしないようにしている。


「え?柳瀬さんの奇跡の友達一号ですよね?見たかったー。そんな可愛いんですか?」


「うん、小柄で顔小さいし目がおっきくてすんごい清楚って感じの見かけ。話しかけたら超おしとやかで礼儀正しかったよ」


「私にはないものですねそれ。なんか泣ける。遠藤さん何話したんですか?」


それは私も気になるところだった。私も大きい石に座って足を水に浸した。


「えっとねぇ、とにかく可愛いって言って泉ちゃんの話聞いてから好きになったって話したよ」


「遠藤さんあんなファミレスで何握手会みたいな事してんですか。ていうか柳瀬さんそんな可愛い子と友達ってヤバイですね。柳瀬さんのコミュニケーション能力を尊敬する」


「え?いや私は普通だよ」


突然そんな事を言われてもあの出会いはそんな話ではない。


「でも泉ちゃんあんな可愛くて小柄な結ちゃんに投げられたんだよね?信じられないんだけど。結ちゃんいい子すぎて泉ちゃんに悪態ついてるとも思えないし」


「え?投げられたってどういう?それ私聞いてませんよ。詳しく聞かせてくださいよ」


「ちょっと!遠藤さんその話やめてくださいよ」


遠藤さんに話したら大笑いしていたから田村さんには話していないのにこれはまずい。でも遠藤さんは普通に田村さんに全て話してしまって私は大爆笑されてしまった。



その後お肉が焼けたと涼介が呼びに来て、私達はBBQを楽しんだ。外で食べるご飯は新鮮で外というだけで解放感があるしいい気分だ。私達は食べながら最近の近状や面白い話をして楽しんだ。



お腹もいっぱいになって充分楽しんだところで帰る時間になってしまった。気分転換になったなぁと思っていたら田村さんが携帯を取り出した。


「皆の写真最後に撮りましょ。皆私の回りに集まってください」


その声に自然に田村さんの回りに集まると田村さんは皆を上手く携帯に納める。


「たむちゃん大丈夫?」


「はい!もう撮りますよー、はいずっと笑顔ー」


田村さんはそう言って何枚か写真を撮った。それはよく撮れたみたいで見せてくれた田村さんに安心する。

しかし早速帰ろうとした時に、なんか涼介がにやにやしていた。


「涼介顔がキモいけどどうしたの?」


私は不審に思って訪ねると涼介は嬉しそうに小声で言った。


「俺、遠藤さんの隣で写真撮れた。家宝にしようと思うあの写真。まじ良い匂いしたなぁ」


「……きも。おまえキモすぎ。変態なの?鳥肌ヤバイんだけど。もう楽しかったのにやめてよ」


「え?なんで?」


「なんでって涼介本当にバカだよね。そんなんだから彼女できないんだよ。私もう車帰るわ」


「え?待てよ泉」


涼介って何でこんなにキモいんだろう。私は涼介のキモさに引きながら先に車に乗った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る