第62話


琴美とのデートはいつも一緒にいる時のように遊んで終わった。もう琴美は恋人ごっこに満足したのかその話には触れてこない処か、それっぽい我が儘も言わなかった。でも琴美は嬉しそうに笑ってくれた。



それを見て私は何とも言えない気分になった。琴美は私の気持ちが分かっていて、もう変わる事がないのを悟ったからやめてしまったんだろう。


それでも琴美は私にくっついて私に笑って好きと言ったりしてきて、嬉しいけど切なかった。

私はちゃんと恋人ごっこができていなかったのだろうか。

約束を守ったけど、琴美を辛くさせただけだったんだろうか。




笑う琴美を思い出すと胸が苦しかった。

私は琴美とデートしてから琴美の事ばかり考えていた。琴美は普段から私によく連絡をしてくるけどそれはデートをしてからも変わらない。

琴美は私と連絡するのは気まずくないのか?それとも気まずくなりたくないからこうしているのか分からない。

私はあの日琴美を苦しめて泣かせた。

その事実が私に罪悪感を募らせる。


私は琴美と普通にしていて良いのだろうか。私は琴美に酷い事をしたから謝らないといけないんじゃないのか。でもそしたらもっと琴美が傷ついてしまうかも知れなくて分からない。私はどうやって琴美に接していけばいいのか分からなかった。



あの日の事を考えると最初からあんな事しなければ良かったのかもしれないなと思う。

だけど、琴美はあの日本当に嬉しそうにもしてくれた。

嬉しそうにするのは本当に琴美が望んだ事に応えられたからなんだと思うけど分からない。



琴美の気持ちも、私がどうすれば良いのかも分からない。


そんな時に私は結と千秋と聡美の四人で結の別荘に来ていた。今日は琴美がいなくて本当に良かったと思う。琴美は今海外にいるみたいだけど、今日琴美がいたらどうしたら良いのか分からなかった。


「泉?海に行かないの?」



琴美の事を考えていたら結に不審そうに話しかけられた。結の別荘は車で二時間程の海の近くにある凄い立派な別荘だった。結の専属メイドの九条さんとあと何人か使用人が付いてきたけどそれでもでかいから部屋なんか困らないだろう。



「あぁ、行くよ」


私は水着に着替えた結に笑って答えた。結はラッシュガードのパーカーを着ていて髪を今日はポニーテールにしていた。それは可愛らしかったし久しぶりに会ったから色々話したかったけど琴美の事を考えていてまだ全然話せていない。


「忘れ物はない?あっても戻ってこれるけど大丈夫?」


「うん、平気」


「じゃあ、行こう。千秋が聡美を連れて行っちゃったから」


「うん」


私達は荷物を持って別荘を出た。海まで歩いてすぐだけど結は早速日傘を差していたから私は結の荷物を持ってあげた。結とこうやって歩くのも久しぶりだ。


「なんか久しぶりだね結。元気だった?」


琴美の事が頭にちらつくけど今は別荘に来ているし結がいるから楽しまないと。私の問いかけに結はいつも通り素っ気なく答えた。


「普通。あんたは?」


「私も普通かな。相変わらずバイトしてる。結はどっか行った?」


「くだらないパーティーは参加してきた。ピアノまで弾かされて疲れた」


うんざりしたような物言いは変わらない。大変だなと思いながら私はそっかと言って結の水着を誉めた。


「水着可愛いね、結」


「こんなの普通でしょ」


白のビキニはパーカーを羽織っていても可愛いし結はスタイルが良いから似合っているのにどうでも良さそうだった。結って無駄な肉がなくて羨ましい。


「よく似合ってるのに。ていうか結ってスタイル良いね?羨ましいよ」


「何言ってんの全く…。それより、朝からぼーっとしてるみたいだけどどうかしたの?」


結に早速ばれている私は笑って誤魔化した。結には言えない。


「いや、えっと…なんか夏休みだから夜更かししちゃって……」


「はぁ?バイトしてるんだからちゃんと休まないとダメでしょ?何してんのあんた」


誤魔化せたけどごもっともな結の意見に私は即謝った。親みたいな事を言われているけどこれは正しい。


「あ、うん、ごめん。分かってるよ、気を付けるから」


「……何かあったら心配するから気を付けて」


「うん。分かってる」


キツイ口調で言ってきたけど私は本当に心配されているようだから頷いた。まぁ、結は真面目だしこう言うのは当たり前だった。



海辺のビーチに着くとパラソルをさして千秋と聡美は待っていた。ここはプライベートビーチなのかよく分からないけど結の家の使用人みたいな人は立っているけど他に人はいない。

千秋は私達に嬉しそうに手を振ってきたけど聡美はあくびをしていた。



「結ちゃん!泉ちゃん!もう浮き輪もボールも準備できたよ!早く遊ぼう?」


千秋は嬉しそうに笑いながら浮き輪を持って笑っている。千秋は水玉のビキニを着ていて可愛かった。


「ありがとう膨らませてくれて。じゃあ、行こっか」


「うん!早く海に入ろ!泉ちゃんも行こ?」


「うん、行く行く」


結は日傘をしまうと千秋に手を引かれて海に行ってしまった。聡美も行くかと思ったけど聡美はパラソルの下に引いてあるレジャーシートに横になる。


「聡美行かないの?」


「まだ眠いから寝る。起きたら遊ぶわ」


聡美ってどこでもぶれないなと思う。眠いからってビキニまで着てんのに己の欲に純粋だな。


「じゃあ、先に遊んでるね」


「うん。頑張って」


私は聡美をおいて浮き輪を持つと結達の元に向かった。

ていうか私はラッシュガードのパーカーとショーパン履いてきて良かったと心底思った。皆スタイル良すぎで眩しいよ。

私は結達に混ざって遊んだ。私は泳げないからほぼ浮き輪に掴まって浮いていたけど水遊びは楽しかった。今年初めてだしボールで遊ぶのも楽しかった。



「千秋そっち行ったよ!」


「う、うん!」


水辺でボールを打って遊んでいたら分かったけど千秋は泳げるのにこれは劇的に下手だ。結は何も言わないけど千秋はボールを全然人がいないとこに飛ばしているし飛ばしても距離が足らない。だけど結は絶対千秋にボールを打ってあげている。結って本当に千秋に優しいので私は千秋のフォローに回っていた。普段なら聡美がやってるんだろうけどまだ聡美は寝ている。


「あっ!ごめんまた変なとこ行っちゃった」


千秋は結のボールを打ち返したけどボールは後ろに飛んだ。なぜ?と思うけど千秋は必死に頑張っているから私は笑ってボールを取ってあげる。


「大丈夫だよ千秋」


「でも、私下手だから……さっきからごめんね泉ちゃん」


「全然気にしてないから平気。ほら千秋結に打ってあげて?」


ボールを千秋に渡す。私は下手とかは気にしていない。むしろ頑張る千秋が微笑ましくて付き合ってあげたくなる。


「あの、泉ちゃんコツとかある?」


「え?コツ?」


「うん。私さっきから全然上手くできないから…」


千秋はしゅんとして聞いてきたのでいつもお世話になっているし喜んで教えてあげようと思う。


「コツって言うか前の方に動くって言うのかな?打つ手を打ちたい方向に向けて振りすぎないように振る感じ?こんな風に」


私は千秋の後ろから千秋の手を掴んで打つ時の動きを教えてあげた。意識した事ないからあんまり上手く伝えられないけどこれで大丈夫なはず……。千秋は私が教えた通りさっきよりも前に動く動作をした。


「こうかな?」


「うん、それでボールは真ん中ら辺狙って打つと良いよ」


「うん。……でも、できるかな…」


千秋の動きは良いけど少し不安そうだ。


「じゃあ、一緒にやってみよ?」


私は笑顔で千秋に提案した。私より何でもできるのに千秋らしいなと思う。


「うん。お願いします」


「うんうん、さっきみたいに前に動くみたいにして結の方に体を向けて…」


「うん、さっきみたいにだよね」


私は後ろから千秋の手を掴んで一緒に動く。これで飛ばせなかったら結に何か言われそうだし千秋に申し訳ないから絶対飛ばす。私は真面目な顔をする千秋と一緒にボールを打った。


「よっ!あっ、良かった上手く飛んだ」


「本当だ!上手くできた!泉ちゃんありがとう!」


ボールは見事結の方に飛んでいった。それを見た千秋はボールが上手く飛んだのに喜んで私に向き直って小さく跳び跳ねる。愛玩動物みたいで可愛い千秋を見てるだけで顔が笑ってしまう。


「やったね千秋」


「うん!私初めてこんなに上手くできた!嬉しい!良かった!」


千秋が跳ねると足元の水がばしゃばしゃ飛ぶ。膝下位にしか水には入ってないけど千秋は本当に小柄だからそれだけでも少し体制を崩していた。


「千秋そんな跳ねてると波きたら……おっと!」


私の心配は的中して少し大きな波がきた。そのせいで千秋は倒れそうになったので私は咄嗟に抱き締めるように千秋を支えてあげた。千秋は水着の時点で細いのが分かっていたが結同等に無駄な肉がないし細くて本当に小さい。私は少し驚いていた。千秋スタイル良いし本当に小柄だな。


「わぁ!ごめん泉ちゃん。ありがとう」


「大丈夫だよ。千秋小さいんだから波きたら気をつけないと…イテッ!」


小さい千秋に跳ねないように言おうとしたら頭に軽い衝撃が走った。これはボールが私の頭に当たったのか。結の方に目を向けると結は穏やかに笑っていた。



「ごめん間違えちゃった」


「あ…うん。平気」



結に限って間違う訳ないだろうに、これは絶対狙ったろ。千秋に故意に触ったと思ったのか?結が大切にしてる千秋に私がそんな事する訳ないんだけど私は苦笑いしといた。


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