第55話


結とキスをするのは本当に満たされる。結が私のキスを受け入れてくれて、深いキスをすると舌を絡めてくれる。私を求めているようなそれはキスは止められなくなる要因だった。


勉強会が終わった後、私達はずっとキスをしていた。結を抱き締めながら夢中でキスをしてしまう私に結は甘い声を漏らしながら応えてくれた。その甘い時間に言葉はなくて深いキスをする時は卑猥な音しか聞こえないし、結は唇を離すと少し息を荒くしながら私から目を離さない。



そのせいで私は結をソファに押し倒してしまったけど体をいやらしく触ったりセックスに繋がるような事はしなかった。結の表情を見ているとやっぱりそういう事をしたくなるけど結が嫌がっていたしこれは付き合ってからじゃないとダメだ。


私は押し倒してからも結とキスをして甘い時間を過ごした。






「泉……もうそろそろ帰らないとじゃないの?」


ソファに二人で身を寄せて抱きつきながら横になって話していたら結は少し私から体を離して言ってきた。キスをしていた時より顔の赤みは引いたけど結はずっと照れている。


「そうだね。そろそろ帰らないと」


まだ結といたいけど明日は学校だし外は暗くなってきている。私は結を抱き締めるのをやめて体を起こすと結も体を起こした。


「じゃあ、送ってあげるからちょっと待って」


結は携帯を取り出すと少し弄ってからしまう。ちょっと悪いとは思うけど結は絶対送ろうとするから私はお礼だけ言って少し乱れた結の髪を整えてあげた。


「ごめん、髪が乱れちゃったね」


結の髪はさらさらで艶があって本当に綺麗だ。手入れがよくされた髪は少し撫でるように触るだけですぐに整ったけど良い匂いがするしずっと触れていたくなる。


「もう、いいから……。髪なんか、そんなにしなくて平気」


「え?そんなのダメだよ。こんなに綺麗なんだから。結の髪って本当に綺麗だよね」


照れてやめるよう促してきた結に私は笑いながら何回か撫でると手を離した。地毛の綺麗な茶色の髪は本当に美しい。


「……普通だから。それより帰る準備したら?車はもう用意できてるから」


「え、あぁ、そうだったね。ちょっと待って」


私は立ち上がってテーブルの方にある荷物を確認して鞄を持った。忘れ物はないし大丈夫そうだ。


「結、もう大丈夫だよ」


「う、うん」 


結は私の近くに来るとなぜか私の腕を掴んできた。よく分からない行動に結に顔を向けるけど結はなぜか恥ずかしがって顔をしかめている。


「結?どうしたの?」


「……」


歩き出す素振りもないし私が歩き出そうとしても強く腕を引かれる。これはいったい?本当にどうしたんだろう。結の意味不明な行動に私は困惑していたら黙っていた結はやっと口を開いた。


「……最後に……もう一回したい……」


「え?……キスの事?」


「……」


また黙ってしまったけどこれはキスのおねだりのようだった。私はそれに困惑していた。だって結がキスしたいって、私が言うなら分かるけどあの結が?私は目に見えて動揺していたけど結は黙ったまま俯いてしまっている。



たぶん恥ずかしがってるからだろうけど腕は離してくれないし、これはしないとダメなんだろう。それに話しかけても今で恥ずかしがって黙っているんだから答えられないだろうし、何か言うのは可哀想だ。

結の可愛いおねだりに私はドキドキしながら結の顔を覗き込むように顔を寄せる。


「結」


小さく呼び掛けて顔に手を添える。さっきキスしていた時のように顔を赤らめている結は少し顔を上げるとキスを受け入れてくれた。

さっき何度もしたのに結とのキスは飽きる処か中毒性があるように私を虜にする。


何度か気持ちの良いキスをすると結は私の腕を掴んでいた手で私の手を握ってきた。私もそれに握り返しながら結とのキスを続ける。



何でこんなに気持ちが良いんだろう。ただ唇を合わせているだけで幸せな気持ちになって、結にもっとキスをしたくなる。

キスをすると結を求めずにはいられない。


私は唇を一旦離してまた結を求めてしまった。


「好きだよ結」


結に私の愛情を伝えて深いキスをする。さっき沢山キスをして分かったけど結は舌の奥の方を舌でなぞると気持ち良さそうなくぐもった声を出すから私は舌を絡めながら舌の奥の方を舌でなぞる。

すると早速結は私の手を強く握りながら甘い声を漏らす。


「はぁっ……んっ……あっんんっ!……はぁ、……あっ……んっ!はぁ……」


可愛いそれに体が熱くなるような感覚に陥る。こんな甘い結の声を聞けるのは私だけなのかと思うと優越感を感じてしまう。結は私としかキスはしないし私を好きになっている、それが証明されているみたいでやめられない。


「はぁ……んっ……んんっ………」


「はぁ…はぁ、んっ……ちゅっ……はぁ……んっんん!はぁっ……」


結の声が私を刺激して激しく舌を絡めてしまう。もっとキスをしていたい。だけどもう帰らないとならない。私は名残惜しくも結から唇を離した。


「……ごめん、やりすぎちゃった」


「…はぁ………んっ……別に、平気……」


照れている結はそう言って顔を逸らすけど手は離さない。赤くなった顔は可愛いらしいがあからさまな照れ隠しに追及したら可哀想だから私は何も言わなかった。平気じゃないくらい顔が赤いのに結は何でこんなに素直じゃないんだ。でも、これも結の魅力だなと実感する。


「ありがとう結。じゃあ、そろそろ行こう?」


「……うん……」


結は顔を見られたくないのか私の手を離すとすたすた先に行ってしまった。そんなに恥ずかしがらなくても良いのに、私は笑いながら結に付いていった。


その後、車で送ってくれた結は車の中では無言だった。でもそれは嫌な沈黙じゃなくてなんだか嬉しい時間だった。結は普段なら少し話しかけてくるのにずっと窓の外を見ていたから、つまりそういう事だ。



家に着いてから私は改めて結にお礼の連絡をして明日の準備を済ませる。

もう今週の中頃から期末テストが始まるけど私はテストよりも夏休みの予定に浮かれていた。結と遊びに行けるのが今から楽しみでしょうがなかった。




翌日からまた三人で登校して授業が始まる。結とは勉強会のおかげで親密な仲になってしまったので、結は私を意識しているかのような態度をしてきて私は内心ちょっぴり笑っていた。

目が合ったり結に触れたりするだけで結は動揺して少し耳を赤くする。そしてあからさまに素っ気ない態度をとってくるから私は結がいじらしくて特に何も言わなかった。

きっと言ったらもっと恥ずかしがるだろうし怒る可能性もある。


でもそれは見ていて飽きないから私は最近結を観察するのにハマっていた。



そして期末テストが始まった。

勉強会の日から自分でも頑張っていたから問題は前の中間テスト同等に良くできた。これなら赤点もないし平均点も取れて問題ないだろう。

私はテスト期間を余裕で乗り切った最終日、午前で学校が終わるから帰ってご飯食べてのんびりしようと思っていたら急に現れた琴美に連行された。今日の予定を聞かれたからないと答えたらじゃあ遊ぼうと言われて車に乗せられてしまったがどこに行くんだろう。


「泉、今日は琴美がいつも遊んでるとこに行こう!」


「ん?うん、どこ?」


「え?前行ったじゃん。あっ!その前にまたファミレスでご飯食べよう?琴美ドリンクバー飲みたい!」


「あぁ、うん。まぁ、何でもいいよ琴美」


前連れてかれた所か。予定はないし琴美と遊ぶのもちょっと久々だし今日は楽しもうと思う。


ファミレスに着いた私達は昼食を済ませてから琴美が遊ぶ専用の部屋に来た。

結の姿が見えないから今日は二人みたいだけど琴美と二人なのは久しぶりだ。今日は何をするかな、と思っていたら最初からテーブルに広げてあったパズルを琴美がやろうと言うから一緒にやった。




「結は受け入れてくれたんだね」


パズルをしていたら私の腕にくっついていた琴美は唐突に楽しそうに呟いた。琴美は私を脅していた時からたまに見透かしたような事を言う。


「え?……あぁ、告白の事?」


「うん。結の様子が変だし、付き合ったの?」


パズルをやる手を止めた琴美は私を笑いながら見つめる。恥ずかしくなるような質問は私を少し緊張させる。


「付き合ってはないけど……付き合う予定、ではいる……かな」


「じゃあ、結は泉の事を真面目に考えてるんだね」


「うん。考えたいって言ってくれたよ」


「ふーん。そっか…結にしては意外だなぁ」


琴美は笑って言うと笑うのをやめて私の手を握ってきた。


「どのくらい結が好きなの?」


琴美の声はいつもと違う。それはただ真面目に問いかけているようだった。


「え、それは……まぁ、一番好きだよ」


「それじゃ分からない。もっと具体的に教えて?」


普段と雰囲気が違う琴美に緊張と不安が募る。琴美はどうしたんだろう。答えないと言う選択肢がない今の状況に私は自分なりに分かりやすく答えた。


「……何よりも誰よりも好きで本当に大切にしたいって思ってる…かな」


「そっか。じゃあ、一緒なんだ…」


よく分からない呟きをした琴美は私をただ見つめてくるから不安になってくる。これはどういう意味なんだろう。意味深なそれに私が聞き返そうとしたら琴美は無表情だったのに小さく笑った。







「黙って見てるなんて、琴美はしないよ?」



そう言って琴美は私にキスをした。

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