第51話


「私達は女同士だから付き合っても障害が多いのは確かだけど、お互いに気持ちがあるならそれはどうにだってなる。それに、私は今までいろんなやつに告白された事があるけど初めて告白されて嬉しいって思ったし、付き合いたいなって思った。だから私は否定的じゃないの。そんなに真剣に本当に好きになってくれる泉に私は……応えたいって思ってる。私は泉なら、キスも……別に嫌じゃない。誰ともそんな事したいって思った事なかったけど私は泉なら抱き締められたり、頭撫でられたりするのも嫌じゃない。女同士だけど……泉は私を……付き合ったら大切にして喜ばせてくれて、幸せにしたいって思ってくれるんでしょ?私はその未来は幸せだって思う。そんなに想われて、その未来が悪いだなんて思えない」


最後まで真剣な表情で言ってくれた結に私は泣きそうになってしまった。結は私が気にしている事なんて何も気にしていない。結はただ、気持ちを大切に考えてくれている。好きだと言った私の事だけを真剣に考えて付き合いたいと思ってくれていたなんて、諦めていたくせに本当に喜びを感じてしまった。


「……ありがとう結」


私は結が握ってくれる手を握り返した。夢みたいな出来事に嬉しくて涙が溢れてしまったけど結は笑ってくれる。そして私の手を絡めるように握ってきた。


「私、泉の事は好きだけど……まだ恋愛とかって言われると…はっきり分からないの。でも、泉とは……付き合ったら幸せだろうなって思ってる。私の事凄く考えてくれて、好きでいてくれるの分かるから…本当に嬉しいの。…だから、……応えたいって思ってはいるから……まだ待っててくれない?」


私を喜ばせるような事を言う結に胸がドキドキしてしまった。あの結が付き合う前提で考えても良いと言っているような内容に私は生唾を飲んだ。これは勘違いでも何でもないんだ。



「……期待しても良いって事?」


聞かずにはいられない私は大好きな結を見つめる。結は少し顔を赤くしながらも私を見つめて目を逸らさなかった。


「……うん。……一緒にいて恋愛感情が分かるようになったら……泉と付き合いたい…」



結の気持ちは私をどうにかさせてしまいそうだった。結は私をそういう対象と見てくれて付き合いたいとさえ言ってくれた。嬉しすぎる感情のせいで私は涙が止まらなかった。


「…ちょっと泉?なんでそんなに泣くの?」


結は驚いたような呆れたような顔をして私の涙を服の袖で拭いてくれる。私は泣きながら笑った。



「ごめん……なんか嬉しすぎて……」


止まらない涙をそのままに鼻を啜っていたら結は少し笑いながら軽く抱き締めてくれた。結はいつも何だかんだ優しい。


「泣かないでよ。あんたが泣くと私が困るから。……だから早く泣き止んで」


「うん……ごめん。……結と付き合えるかもなんて思ってもみなかったから。……ごめんね結」


いつもの強気なちょっと面倒臭そうな言い方すらも愛しく感じて、私は涙を一通り拭って落

ち着くように呼吸を整える。結は私の首に腕を回しながらそっと体を離すと本当に近い距離で私を恥ずかしそうに見つめた。


「……泉は……私には凄く良く見えるんだから、断るつもりなんか……最初からなかったから…」


「……えっ?そうだったの?……なんか、結みたいな可愛い子に言われると……信じられないって言うか……嬉しいよ」


最初からそのつもりだったのは予想外だった。ただでさえ同性だからネガティブな事しか考えていなかった私はある意味勘違いをしていたようだ。プラスに考えられる事がなかった私にしたら仕方ないけど結がこう言ってくれるのが夢みたいだ。


「あんた本当に自己評価低すぎだから…」


結はそう言って少し表情を歪める。そしていきなり怒りっぽい口調で口を開いた。


「私はあんたの外見も良いと思ってる。ちょっと目付きが悪くて無愛想だけど、綺麗な部類に入ると思うし、笑うと……その、ムカつくけど…ちょっと可愛いし、泉が笑うと私もなんか楽しくなったり嬉しくなったりする。それに泉と一緒にいると…話が合うからそれなりに楽しいし、飽きないし……いつも、優しいし……だから私は、…その、…結構好きだから」


赤裸々に言ってくれた結は最後には恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。素直だけど素直じゃない反応に私は嬉しくて顔が勝手に笑ってしまった。何でもできるくせにこういうところは子供みたいに可愛くて私は結を抱き締めるように腰に腕を回した。

こんなに嬉しくされてしまうと結に触れたくなってしまう。



「本当に嬉しいよ。結にそうやって想ってもらえるなんて嬉しくて死にそう」


少しだけ強く抱き締めてから体を離すと至近距離で顔を見合わせた。結は恥ずかしがっているけど今度は目を逸らさなかった。



「……死んだら私が困るから」


「うん、そうだね。ごめん。でも、本当にありがとう。すっごく自信持てたよ。ありがとうね、私も結の全部が好きだよ。本当に大好き」


「……嬉しいけど、恥ずかしいから」


結は耳も顔も赤くして照れていて私はそんな結が可愛くて愛しくて顔が勝手ににやけてしまう。


「ふふ、結可愛い」


「……うるさい」


「ごめんごめん」


本当に幸せな気分だ。だけど結がここまで言ってくれたなら私はそれに応えないとならない。私は誠意を込めて話した。


「結?私、ちゃんと自分に自信持って待つから。結は焦らなくて良いから本当に私が好きだなって思ってくれたら言ってくれると嬉しい。そしたら私、結の事一生幸せにする勢いで結が嬉しくいられるように頑張るから」


付き合えたらなんて考えられなかったけど、付き合ったら私は結がずっと笑っていられるようにしてあげたいから結を一番に考えて大切にしたい。結が笑ってくれたら私も幸せになるから付き合う事は初めてだけど、結が嫌な思いをしないように一生懸命頑張るつもりだ。


「………わかった…」


私の切実な思いに結は変わらずに照れていた。

それが本当に可愛らしくて自然に笑いながら私は結の頭を撫でた。やっと結に触れても良くなった。その事実が私の体を動かす。結は黙って恥ずかしそうに受け入れてくれたけど私の空いていた手に手を重ねてきた。


「……あんまりこっち見ないで。熱くなるから…」


抗議するかのように少し重ねた手に力を込められるけど私には可愛らしくしか見えなくて逆に手を握り返して顔を近付けた。もっと結を見ていたい。


「ふふふ。じゃあ、もっと見るね」


「ちょっ!ちょっと!…」


後ろに体を引こうとした結の背中に素早く手を回して逃げられないようにする。間近にいる結はただ恥ずかしそうに私を見つめた。


「可愛いね、結」


「……本当に、うるさいから…」


目と鼻の先にいる結は少し困ったような顔をして小さく呟いた。

それが本当に可愛らしくて心臓がドキドキしてしまう。結の気持ちを知った途端に欲深くなってしまった私は結から目が離せなかった。



恥ずかしいなら目を逸らすなり抵抗するなりすれば良いのに、結は私を見つめたままだ。

好きな結がこんなに近くにいて私を見つめてくれるだけで私は自分を抑えられなくなっていた。



結にキスがしたい。無言で見つめ合いながら私はそう考えていた。

まだ待っている身だけど結の気持ちを聞いて、結に触れて、止めていた欲望が溢れてしまう。



結の表情とこの言葉のない甘い空気が私を後押しするように私を動かしてしまった。

唇が触れそうな距離まで顔を近付けても結の様子は変わらない。もう本当にあと少し動けば結とキスができる距離に私は躊躇した。

分かっている、まだダメなのは分かっている。だけど、目を逸らさない結を見つめていたら流されてしまいそうだった。

結の目には軽蔑も嫌悪感もない。ただ熱い眼差しは私を求めているかのようで、それは見ているだけで私の心を揺さぶる。



キスをしてもいいのだろうか。胸がドキドキしすぎて、この空気も相まって口を開けなかった。それに私達の距離が無さすぎて上手く思考がもうできない。


結が欲しい。背中に回していた手に少し力を込める。もう私はダメだ。


結が欲しくてたまらない。



無言のままお互いに見つめ合っていたけど私は欲望に負けて結に小さな声でやっと確認をした。もう我慢できない。


「……いい?」


飢える自分をどうにか抑えながら待っていたら言わなくても分かるそれに結は小さく頷いた。


「……いいよ」



私はそれを確認してから目を閉じた結にキスをした。触れるだけのキスだけど嬉しくて気持ちが良くて、キスの感触が心地いい。私は一回でなんて終われなかった。結にずっと触れたいと思っていたんだ、今の状況でやめるなんて私にはできなかった。



私は啄むように結に何度もキスをした。もう欲望が止められなかった。結の華奢な体を抱き締めながらキスをする私に結は抱きつきながらキスに応えてくれる。


それが嬉しくて興奮して、ただのキスだけじゃ物足りない。本当に欲深い私は唇を離して蕩けたようないやらしい顔をする結に益々興奮しながら片手を結の頬に添える。もっと結が欲しい。


「もっと、深いキス……したい」


興奮してドキドキして、結を貪ってしまいたくなる欲望を制御しながら私は答えを待った。

結は飢えている私を見つめながら控え目にキスをしてから吐息が触れる距離で囁いた。



「……もっとして泉」



誘うような結の囁きは私の理性を失くすようだった。結も望んでくれるならもう我慢はしない。

私は欲望に任せて結の唇を奪うと結の口の中に舌を入れる。初めてするキスは濃厚で卑猥な音が頭に響いて興奮を更に煽った。結はいきなりの事に私に強く抱きついて驚いたような声を漏らしたけど、それでも応えてくれた。


舌が絡まるのが気持ちがいい。私は初めての気持ちの良い濃厚なキスに結を犯すような感覚を覚えながらもっと深くキスをする。


「はぁっ……んっ!はぁ………あっ!んんっ…はぁ…」


「はぁ……んっ…はぁ」


舌の奥の部分や上顎をなぞってみたり、舌を絡めて吸い付いたりして結とのキスを味わう。結はエッチな吐息と共に感じてくれているかのような声を漏らすから私は結を求めるように顔に添えていた手を頭に回した。離れないように、より深くキスをできるように手に力を入れると結は私にすがり付くかのように抱きついてくる。


そんな結が可愛いくて愛しくてもっともっと欲しくなる。キスが本当に気持ちが良くて、結への気持ちが溢れてしまって、私は結の事しか考えられなかった。結が好きで好きでたまらない。やっと結をこんなに感じられる喜びに胸がいっぱいだった。




私達は長くキスをしながら荒い鼻息をお互いに感じつつも唇を離さなかった。離れたくないし離したくない。


「あっ!はぁ、…んっ…んんっ!……はぁっ、はぁっ……んっ!……ちゅっ……」


「はぁっ……んっ、はぁっ……」


結の聞いた事がない声は私を刺激する。興奮しすぎてどうにかなりそうだった。結がいやらしくて可愛い声を漏らす中、私はベッドに結を押し倒してしまった。

これだけじゃ満足できない。キスだけじゃなくてその先もしたい。


散々貪った唇を離すと結は涙目に息を荒くしながら私を見つめた。清楚で可愛らしい結が色気を醸し出すような女の姿に体が熱くなる。


結に触りたい。私の頭にはそれしかなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る