第41話


「何で琴美が泉と一緒にいるの?どういう事?」


結は私達を不審そうに見ながらいつもの強い口調で言ってきた。まさか結と今日鉢合わせる何て思ってもみなくて気まずくて動揺してしまう。何て言ったらいいんだ、悩んでいた私とは打って代わって琴美は普段通り笑って答えた。


「遊んでたからだよ」


「サボってたのは分かったけど何で泉と二人なの?」


「そんなの友達だからだよ」


「……は?」


結は腕を組むと顔をしかめた。気まずい空気に琴美は何も気にもしてなさそうににこにこしているけど結は怒っているようだった。


「泉に何かしたの?泉は何も関係ないでしょ。私以外に何かするのやめてくれる?」


「別に何もしてないよ?琴美あの日の事謝ったし、今は本当に友達だもん。それに、悪いと思ってるからもう何もしないし」


「……意味分かんないから。私に謝ってきたのも泉にちょっかいかけて何かしたかったからなんじゃないの?いいから泉から離れて」


今までの琴美の言動から結がこう思うのは当たり前で、結は私の腕を引いて琴美から離そうとしてきた。だけど琴美は私の手を強く握って嫌がった。


「やだ!琴美これから泉とまだ遊ぶからやめて!」


「はぁ?私の事で泉を付き合わせてるんでしょ?もういい加減にして!」


「違う!琴美本当に友達だもん!」


私を引っ張り合う二人に挟まれて益々動揺してしまう。結は怒っているし琴美は嫌がって否定している。どの道放っといたら喧嘩になりそうだ。結が信じられないのは分かるけど説明をしないと。私はあれから顔を合わせていなかった結の目を見た。


「結、本当だから」


「…は?あんたまで……どういう意味?」


結は理解できないと言った顔をして引っ張るのをやめる。するとすぐに琴美が私の腕に強く抱き付いてきたけど私は事情を詳しく説明した。


「最初は確かに結の事で脅されてたんだけど今はそんなのないし本当に友達だよ。今日はよくないけど一日サボって琴美と遊んでただけだよ」


「……言わされてるの?」


眉間にシワを寄せて疑う結に私は否定した。信じられないのはとてもよく分かるけど、私は自分の意思で琴美と友達になった。


「言わされてないよ。私から友達になろうって言ったし」


「……意味分かんないんだけど」


結は動揺したような顔をする。そして不審そうな眼差しを向けられるけどこれが事実だからどう言えば良いのか分からない。私がどうしようか考えていたら琴美は横から不貞腐れたように言った。


「だから本当だって琴美言ったじゃん」


「……泉の弱味を握ってるんじゃないの?」


「泉の事は好きだからそんな事しないもん。泉の事何にも分かってないくせに…」


「……は?」


琴美の言葉は動揺している結を怒らせる。今のはまずいと思ったけど結は琴美に掴み掛かっていた。


「あんたに言われたくないんだけど。私の方が泉と長くいるんだから分かってるに決まってんでしょ?喧嘩売ってんの?」


強引に琴美の胸ぐらを引っ張る結は本当に怒っているようだった。こんなに怒る結を初めて見た私はどうしたら良いのか分からなくて焦ってしまう。でも琴美はむきになるように言ってしまった。私の事を。


「だって泉の気持ち全然分かってないじゃん!泉がどんな気持ちで結に…」


「琴美!」


私は慌ててそれを止めた。結には絶対にバレたくないし言いたくない。琴美は私を見てシュンとしたようにごめんなさいと謝ってきたけど結は違った。


「……なに?……なんなの?」


結はあの日傷つけた時と同じような顔をして私を見つめる。こんな顔をさせるつもりはなかったのに、結は琴美から手を離すと私を悲しそうに見つめなが怒鳴った。


「あんただって、泉だって何も言わないじゃん!なに?!言いたい事があるなら言えばいいでしょ!!私の事が嫌いだって事?琴美と私を見て笑ってたって事?」


結は誤解をしているけど結の表情に、言葉に、一瞬言葉が出てこなかった。そうだった、あんな事を言ったけど何も言わないのは結じゃなくて最初から私だった。結の正論に私は狼狽えながらも何とか口を開く。


「…そんなはずないよ、私は嫌いだなんて…」


「もう本当に意味分かんないから!私の事笑いたいなら琴美とずっと仲良くしてれば?!」


結は捲し立てるように言うと車に乗って行ってしまった。私は結を止める事もできなくて立ち尽くしてしまう。結は最後には目を潤ませていたし私はまた結を傷つけた。それを改めて今になって理解して胸が苦しくなった。


「泉……ごめんなさい……」


隣から小さい声で言った琴美は泣いていた。私はそれに慌てて慰めるように頭を撫でて顔を覗き込む。結の事もあるけど琴美も放ってはおけない。


「琴美なに泣いてんの?」


「だって、琴美のせいで結は怒ってるし泉の事言いそうになっちゃったし……ごめんなさい泉。琴美、結に謝ってくる」


琴美は涙を拭いながら謝ってきたけど私が結にあの日酷い事を言ったから結が敏感に反応してしまっただけで琴美は悪くない。これは全部私のせいだ。私は結との事を少し説明してあげた。


「琴美は悪くないよ。私この前結と喧嘩しちゃったからそれでお互いにぎくしゃくしてたから私が怒らせたんだよ」


「でも、でも、結怒ってたから琴美謝ってくる」


「私が謝るからいいよ。明日会う予定だから」


結には元々明日会って謝る予定だったしこの前から私が全面的に悪い。それに私の気持ちは言わないと解決できない。琴美がああ言ってしまったしもう言わないと分からないだろう。私は明日謝る時にそれも言うつもりだけど、あの様子だとまた言い合ってしまうかもしれない。それでももうあんな顔をさせたくないから必ず言おうと思う。

私は泣き続ける琴美の頭を優しく撫でた。


「泉が謝るなら琴美も謝ってくる。それに、泉と友達になったのも疑ってたからそれも説明してくる」


頑なに謝ると涙を拭って言う琴美に私は同意しかねたけど頷いてしまった。琴美の一生懸命な様子を見ると嬉しくて、もう言えなかった。琴美は結も私も大切にしている。


「うん、分かった。でも、私の事は私が言うから琴美は言っちゃダメだよ?」


「うん、言わない。琴美今から結の所に行ってくる。泉も来る?」


「私達二人で行ったら益々結が怒りそうだから私はいいよ。明日ちゃんと話すし」


「分かった」


目を赤くした琴美は頷くと携帯を弄る。するとすぐに琴美の車がやってきた。私達の近くで車が停まると琴美は少し笑って私に抱きついてきた。


「泉ごめんなさい。琴美、泉が好きだから結にムカついて泉の事言っちゃって。結は泉を軽蔑したりしないと思うけど泉の気持ちを言って悲しくなったりしたら琴美に言ってね?琴美慰めてあげるから」


「……ふふ、うん、ありがとう琴美。私は大丈夫だよ」


琴美だってこれから結と話すんじゃさっきみたいに言い合いになりそうなのに、琴美の優しさに応えるように軽く抱き締めてあげると琴美は私から離れる。


「泉大好きだからね。じゃあ行ってくるね」


「うん、ありがとうね」


琴美はそれからすぐに車に乗って行ってしまった。琴美が先に謝るなら私も明日しっかり謝って言わないと決めていた気持ちを言おう。これで結が私をふってくれれば私の初恋の気持ちも消えてくれる。


私はそれから家に入って部屋のベッドで横になった。琴美と一緒に遊んだのは楽しかったけどいきなり来た結とまた言い合ってしまって暗い気分だ。私はおもむろに携帯を取り出した。そこで私はようやく結がなぜ私の家に来ていたのか理解できた。


琴美と一緒にいたから携帯を見ていなかったけど結は私が休んだのを心配していたみたいで電話もかかってきていた。

あんな一方的にキレてしまって酷い事を言ったのに結は私を気にかけてくれるのが嬉しくて申し訳なくて私は胸が詰まってしまった。


結は本当に優しい。私を気にかけて来てくれたのに怒らせて傷つけて、私は一体何をしているんだ。私は結が好きなだけなのに何でこんなに結を傷つけているんだ。

そんな自分が本当に嫌になる。



私はその日結の事を考えて眠りについた。

謝って告白してフラれて結と一緒にいれなくなって終わる。それが私に待っている事だけどもういい。元々一人で友達もいなかったから私にはそれが合っている。


私は翌日、結に連絡を入れてから結の家に直接向かった。結は家に着くまで連絡をくれなかったから会えないかもしれないと思ったけどインターフォンを押して自分の事を説明して結に会いに来たと言うとすんなり中に入れてくれた。

そして結の部屋の前まで案内されると私は深呼吸をしてから部屋のドアをノックした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る