第39話
「好きだから見てただけだよ」
普通に言ってきた琴美に私はまた反応に困った。何だろう本当に、琴美って恥ずかしいとかないんだろうか。ていうか、琴美は可愛いからこんな事をいきなり言われるとそれなりにはドキッとするけど結の事もあるし反応したら琴美が楽しがるだけだ。私はよく分からないから流そうと思って前を向いた。
「……あっそう」
「ふふふ、泉照れた?」
「いや、照れてはない」
「ふふふ、可愛い」
「……」
流したのに誉めてきた琴美を相手にしていたら頭が痛くなるだろうからもう何も言わない事にする。琴美は携帯で話している時は普通なんだけど会って話していると疑問とか分からない事が色々出てきて頭が混乱する。
どうしたものか、と思っていたら琴美は私の肩に凭れてきた。
「泉?」
「ん?なに?」
「ご褒美ちょうだい?」
「……ん?……なんの?」
前に顔を向けていたけどいきなりご褒美と言われて不審に思った。昨日言ってたけどさすがに昨日の事じゃないだろうし何の要求だろう。よく分からないでいたら琴美は私の手を両手で握りながら私を見つめた。
「昨日のだよ。ご褒美くれるって言ったでしょ?」
「え?昨日の?……え、本当に謝ったの?」
疑わしいそれに琴美に疑惑の目を向ける。でも琴美は笑って頷いた。
「もちろん。今までの事も含めてちゃんと謝ってきたよ。結は驚いてたけど分かったって」
「……ちゃんと本心で謝ったの?反省してんの?」
信じられない話に私が素直に頷ける訳がない。琴美の発言は私を困惑させる。こう言ってるけどちゃんと気持ちを持って謝ったのか?琴美は私に申し訳なさそうに説明してくれた。
「う、うん。ちゃんと謝ったよ?あれは……琴美が悪かったし、よくなかったって本当に思ってる。殴ったのだって、八つ当たりみたいに悪口言ったのだって、前にした事全部……全部よくない。だから全部謝ってきたよ。本当にごめんなさいって、もうしないって言ってきた。前から琴美だって……よくないって分かってたから本当に心から謝ったよ。そしたら結は分かったって、別に気にしてないからって言ってきて……」
「……私の事脅してるくせに本当にもうしないの?」
私の率直な疑問に琴美は慌てて答えたけど表情を暗くした。
「そ、それは……そうなんだけど…しない。もうしないよ。……泉に嫌われたくないし……いけない事だもん。でも、泉とは繋がってたいから、あの……えっと……」
「じゃあもう私は琴美に付き合わなくて良いんだね」
自分で招いた矛盾に戸惑っていた琴美に突き付けるように言ってやったら琴美は表情を歪ませるけど私は別に仲良くする理由がない。琴美はそれでも私の手を両手で強く握って離さないようにしてきた。
「ダメ!それは嫌!……琴美の事……泉が好きじゃないのは分かってる。でも……琴美は好きだから仲良くしたいし……連絡とかもしたい。……琴美、今までは本当によくなかったけどこれからしっかりするから。だから泉も……少しは好きになってくれると思うから……」
琴美は言葉に詰まりながら一生懸命考えて話しているようだった。そんなに私と仲良くしても別にプラスの事はないのにこの子は本当に私が好きみたいだ。なぜこんなに好意を寄せられてしまっているのか分からないけど何だか琴美が可哀想に見えた。琴美は結と離れてから人との関わり方が分からなくて本当に信頼できる友達もいなかったんじゃないだろうか。じゃないと私を脅してまでこうやって仲良くするなんてしない。
「あ、あのね?琴美と仲良くしてくれるならお金もあげる。泉がしたい事も欲しい物も何だってあげるよ?琴美はお金ならあるから大体の事はできるし、泉にはプラスだと思うの。それに琴美は…」
「そんなのいらないよ」
唐突な提案を否定しても琴美はまだ提案しようとしていた。
「え?じゃ、じゃあ……えっと、えっと…」
「なんにも私はいらないから」
焦って言う琴美を止めた。最初は印象が最悪だったけど琴美と短い期間一緒に過ごして私は琴美がそこまで悪いやつには感じられなかった。結に対して最悪な事をしていたのは確かだけどちゃんと悪い事と自覚して謝った琴美は辛くて寂しかったからそうしてしまったように私には感じた。
いつも完璧な幼馴染みの隣にいて自分との違いに琴美は昔から劣等感を感じて嫉妬して、好きな友達の結に対する自分の気持ちに苦しんだと思う。誰にも言えないどうする事もできない気持ちを抱えすぎて爆発したそれは怒りに変わったけど、その途端結にすら相手にしてもらえず益々イラついて寂しくて今の今まで来たんだろう。
あれが悪い事だって分かっていた琴美はやっと謝れたけどどうしたら良いのか収集がつかなくて今まで悩んでいたのかもしれない。
それに、そこにぱっと出てきた私は唯一琴美を相手にした相手だから私に入れ込んで、寂しいから離したくないんだろう。
この子は分からない事が多いけど単純で子供みたいだからそんな気がする。
私はそんな琴美を放っておけなかった。一人でいる事が多いから友達がいない寂しさや辛さは慣れたけどよく分かっているつもりだ。
「今日からさ、友達になろっか?」
「え?」
私は結が言ってくれたみたいに友達宣言をした。信用ができなくて疑っていたけど琴美とこれから仲良くすればそれは失くなる話だ。それに、謝って反省をちゃんとしている琴美に今はマイナスなイメージはない。この子の不器用な所や必死に私を繋ぎ止めようとする様を見ると結が琴美を友達だって思っている理由が今になって分かる気がする。
「だから、今日から友達になるの。友達なんだからお金も要らないし、普通に遊んだり話したりすれば良いんじゃん」
「……いいの?琴美、何も泉にあげないんだよ?それに……泉に悪い事してたし…」
不安そうな琴美に私は手を握り返してあげた。あげるも何もそんな人間関係は何の利益も生まないし気持ちも感じないから私はそんなものは望まない。それに悪いと思って謝ってやらないと言ったんだ、普通な事だけどできない人が沢山いる事を琴美はちゃんとやったんだから私は信用してあげたい。
「損得勘定じゃないでしょ、友達は。それに謝って反省してるから許してあげる」
「…うん!ありがとう泉。今までごめんなさい…」
「分かったよ。でも、もう脅したりするのは勘弁してよ」
私が笑って言うと琴美は手を嬉しそうに握りながら笑った。
「うん!もうしないよ!絶対しない!」
「はいはい。それよりさ、ここら辺って学校の最寄りの駅ら辺だよね?」
私は少し窓の外をきょろきょろ見ながら言った。駅から歩く時に見覚えがある建物や町並みに琴美はよく分からなそうに答えた。
「え?うん、そうだよ」
私は高校に入ってからはしなかったけど中学の時はたまにやっていた事をしようと思った。折角友達になったんなら楽しい事をした方が良い。私は琴美の耳元で小さな声で誘ってみた。
「今日学校サボらない?友達になった記念に遊びに行こうよ」
私の誘いに琴美は目を輝かせた。
「うん!行きたい!ねぇ、車停めて!」
二つ返事をした琴美はすぐに車を停めさせると駅の近くで二人で車から降りた。琴美は運転手に何か色々話てから私の腕に抱き付いて手を繋いできた。琴美のこの距離の近さはこれからも変わらないのだろう。
「泉どこに行くの?」
私はもう楽しそうな琴美に時計を見ながら考えた。今の時間じゃとりあえずあれか。私は歩きながら答えた。
「朝早いから映画でも見よっか?駅の近くにあるし、ポップコーン奢ってあげる」
「うん!ポップコーンいっぱい食べたい!」
「いいよ。琴美は何の映画見たいとかある?今なら……これかな?」
私は駅の近くにある映画館に向かって歩きながら携帯で上映している映画を見せながら聞いたけど琴美は一切見ないで私の顔を見たまま答えた。
「琴美泉が見たいのでいい!」
「え?でも色々あるけどいいの?」
遠慮とかはしてなさそうだけど琴美は本当に嬉しそうに笑っていた。
「うん!泉と一緒がいいからいいの」
「ふふふ、琴美なにそれ。じゃあめっちゃ怖いやつにする?」
「それはやだ!怖いやつにしたらぶつからね!」
即答して怒ったように言う琴美に笑いながら分かったよと言って私達は映画館に向かった。映画館に着くと琴美は歓声を上げながらはしゃいでいた。一応琴美も凄いお嬢様だから映画館に来た事がないのかもしれない。チケットを買ってポップコーンを奢ってあげると琴美は本当に嬉しそうにポップコーンを食べていて席に着いてからも楽しそうにしていた。
「琴美?ポップコーンは食べながら見てて良いけど映画始まったら話したらダメだよ?」
私は一応琴美に注意しておいた。でも琴美は不思議そうに首を傾げた。
「え?何で?」
これはお嬢様ギャップってやつか。本当に分かってないだろう琴美に琴美ならあり得るかと思いながらちゃんと説明してあげた。
「私達以外にも人いるし皆で見るから静かにしないとうるさくて集中できないでしょ?」
「そっか。うん、分かった!泉も静かにしないとダメだよ?」
「え?…あぁ、うん、私は分かってるよ」
なぜか笑顔で琴美に逆に注意されてしまった。何か琴美に言われるとちょっと複雑だけどとりあえず私は頷いといた。
それから映画が始まる。映画は今流行りの俳優が出てる定番のラブコメディーにしたから笑えて楽しめた。琴美も楽しそうに見ていたけど私の手を途中からいきなり握ってきたり肩に凭れてきたりして私は何だか犬や猫に懐かれている気分だった。琴美は私といる時は常に触れていたいみたいだ。
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