第28話
結は私と仲良くしたいと思ってはいるけど本音か建前か不安で自信がないのかもしれない。こういう結を見るのは何だか胸が締め付けられるような気分になる。私は笑顔で否定した。
「ううん、私も行きたいよ。今私も誘おうと思ってた」
私は結と同じ事を考えていた事実に喜びを感じる。結は少し耳を赤くした。
「良かった。じゃあ、今度から二人ね」
「ふふ、うん。そうだね。私は家でしか見た事ないけど色々教えてね結」
「そんなの当たり前でしょ」
「うんうん、楽しみだね」
結が笑って頷くだけで私はまた胸がドキドキしていた。こうやって私はこの先も結に気持ちを隠して胸の高鳴りを感じるのかと思うと苦しいけど結に嫌われたり軽蔑されたりしたくなかった。
それからまた舞台の話をしていたらお待ちかねのスフレが来た。スフレは見た感じも柔らかそうで美味しそうで私は自分のご褒美の時とかによく食べているけど最近食べていなかったから早速食べて久々の美味しさに悶絶しそうだった。
「あ~、やっぱ美味しいわこれ。結どう?美味しい?」
私はチョコレートソースのスフレを食べている結に聞いた。結はにっこり笑ってくれた。
「美味しい。ふわふわだし、口で溶ける感じがする」
「でしょでしょ?二十分待つ甲斐があるでしょ?」
「うん、これは美味しいわ」
私は結が喜んでくれてほっとした。美味しそうに食べる結に私はさっきの事を思い出して忘れないうちに携帯を取り出してカメラに切り替えた。
「結、写真撮ろう?」
「え?う、うん」
私はスフレが入るように腕を伸ばして合図をしてから写真を撮る。私は少し変顔をしたけど結は嬉しそうに笑ってくれてよく撮れていた。
「撮れた撮れた。あとで送っとくよ」
「うん、忘れないでよ?」
「分かってます。それより冷めちゃうから早く食べよ?」
「分かってるっつーの」
私達はスフレを食べながらまた色々な話をして楽しんだ。
スフレを食べ終えてから私は宣言通り奢ろうとしたら律儀に結はお金を払おうとしてきたから止めた。これはお礼を込めてなのに意味がなくなる。説得してみたら結は少し渋ったけど頷いてくれた。奢りって最初から言ってたのに結は全くもって真面目だ。
そして帰りは車で送ってくれる結に駅までで良いと言ったのに暗くて危ないからって家の前まで送ってくれた。悪いなと思いながら厚意に甘えると結は車から出ようとした時に私の服の袖を掴んで止めてきた。
「泉、今日はありがとう」
いきなりお礼を言った結に私は何だかよく分からなかった。だってお礼を言うのは私の方だ。
「いやそれは私の台詞だけど、こっちこそありがとうね。本当に楽しかった」
改めてお礼を言ったけど結は少し顔をしかめて目を逸らしてから私を見た。何か墓穴掘ったかなと思ったけど結は照れたように言った。
「……私は約束守っただけだし、私も凄い楽しかったから。スフレは泉が奢ってくれたけど、またスフレも食べに行きたいし」
「うん。じゃあ、また食べ行こうよ。私もまた結と行きたいし」
結のこういう気持ちは純粋に嬉しいけどまた好きになってしまう。今日一日だけで私はどれだけ結にドキドキしたんだろう。結は私の気持ちなんか知るよしもないだろうけど耳を赤くして笑った。
「じゃあ、約束だからね」
「うん!約束ね。じゃあ今日は送ってくれてありがとうね。また明日学校でね?」
私は今度こそ車から出ようとしたら結はまだ服の袖を離さずに引き留めてきた。
まだ何かあるのか、私は思わず振り返ると結は言いずらそうに口を開いた。
「あの、言い忘れた事あって……」
「ん?なに?……何か私忘れてたもしや?」
私が何か忘れたのかもしれないと思ったけど結は首を振って否定した。
「違う。あの、もうすぐ体育祭でしょ?」
「え、うん。そうだね」
「だから、……頑張ろうねって事。沢山練習したし、どうせなら泉と勝ちたいし」
体育祭の事かと拍子抜けしたけど練習も沢山したし勝てる見込みはある。それに結にこう思われて私だって同じ気持ちになるに決まってる。
「頑張るに決まってんじゃん!絶対二人三脚勝とうね。それに、結はリレーも頑張ってね?」
「私は手を抜いたり何かしないから」
「ふふ、そうだったね。じゃあ、一緒に頑張ろうね」
「うん!」
体育祭はもうすぐだ。私は笑って頷いた結に笑いかけてからお礼を言って車から出た。
結が笑うだけで私はまだ隠せるけどドキドキしてしまって、平然を装うのに必死だ。この気持ちは絶対にバレたくない。今でこんなに胸が高鳴るんじゃ結をもっと好きになったら誤魔化せなくなる気がする。
私のこの恋心は結と一緒にいるのに今後邪魔になる気がしてならなかった。
翌日から変わらずに私は学校に向かってまたバイトをして過ごしていた。学校では席の近い千秋と話したり昼休みは四人でご飯を食べたりして過ごすのが定番になってきて、最初はクラスのやつらはどよめいていたけど今じゃ特に何も言われない。
結は変わらずに作った顔で過ごしているけどこの時の結には胸が高鳴ったりしないからほっとしている。
バイトも特に変わった事はなくバイト終わりに誰かとご飯を食べたりたまに遊びに行ったりしていたんだけど今日は驚きのニュースがあった。今日は久々に田村さんと一緒だった。田村さんは今年の春に入ってきた新人で私の一個下の子で凄く仕事ができるんだけど遠藤さん同様に少しぶっ飛んでいる。しかし、見た目はメガネの茶髪で可愛いらしい。
「柳瀬さん、ヤバイですよ。こないだ僧侶来ました僧侶」
「僧侶?」
ホールを二人で回しながら中でちょっと休んでいたら田村さんは興奮気味に言ったけど私には意味が分からなかった。そんな特徴的な客いたっけと思っていたら田村さんは耳打ちしてきた。
「遠藤さんの彼氏ですよ!」
「え?遠藤さんの彼氏?!え!詳細はよ!」
私は謎に包まれていた遠藤さんの彼氏の情報とは思わなくて興味津々だった。遠藤さんって美人で彼氏はいるんだけどバイト先に連れてきた事はないし教えてくれないから皆勝手にめっちゃイケメンと考えていたけど僧侶ってなんだ?田村さんは詳しく説明してくれた。
「こないだ遠藤いますかって来た客が遠藤さんの彼氏だったんですけど、これが引く程イケメンなんですよ!超身長高くて爽やかイケメンで私に風きたのかと思いましたけどなぜかハゲでこいつ寺から来た坊主なのかなって最初思ったんですけど違いました」
「……え?マジ?!めっちゃ見たい!」
田村さんの顔色からめちゃくちゃイケメンなのは伝わったからとても見たくなった。しかしハゲとは一体…。
「マジですよマジ。遠藤さんは彼氏だよって言ってたけど、僧侶ではなく?って感じでした。顔と身長と体型はめっちゃ良かったんですけどなんか修行ですかね?」
「分からん。でも、見てみたかったー。てか、何か想像できないんですけど。絶対イケメンなのは分かったんだけどハゲって……どうした」
遠藤さんは結とは違った綺麗な感じの美人だけど凄い美人だから益々謎だ。まさに美女と野獣と言うか美女と僧侶?語呂笑える。何が起きた一体。
「高木さんがめちゃめちゃ狼狽えてましたよ。でも、遠藤さんあの僧侶と長いみたいだし世の中分からないですよね~。私的にはあのイケメンならありよりのありですけど僧侶は未知ですよね」
田村さんは感慨深そうにジュースを飲んだ。確かに分かるけど何か見たくて見たくて堪らないんだけど遠藤さんの彼氏。私がいる時に来てくれないだろうか。それにしても涼介が狼狽えるってあいつ本当キモいな。頭悪いから変な事考えてそうだし。
「あぁ、涼介は別にどうでも良いけど本当だねぇ。どこで出会うの?って感じだけど遠藤さん謎なとこあるからね」
「ですよね。てか、あれから遠藤さんを見ると私聞こうか聞くまいか悩むんですけど。彼氏僧侶ですか?とか聞いたら失礼ですよね?もしも違った場合」
「それな。んでも、何となく聞いてみるしかなくない?それかもう幽霊に会ったとでも思ってとにかく違う事を考えて忘れる。……いやでもそんなイケメン忘れられないな」
こんなに田村さんに情報提供されて私も気にしない事は無理だし真相を知りたい。すると田村さんははっとしたように言った。
「そうですよ柳瀬さん、じゃあ、柳瀬さん聞いてくださいよ。瞑想でもしに行きたいから良い寺ないですか?って」
「脈絡無さすぎでしょ?また訳分かんない冗談ぶち込まれそうだからやだよ、田村さん頼む」
「えー、じゃあ、出会いはお寺ですか?って聞いてみます?何起こるか分からないけど」
田村さんは笑いながら冗談なのか本気なのかよく分からない事を言ってきた。本当田村さんの言う事は遠藤さんと近いものを感じる。言う事が一般人とは違う。面白いから良いけど。私はその後田村さんと色々話ながらバイトを頑張った。
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