第8話
あれから教室に戻ってまた授業を再開して私は分からない所が益々増えて沈んだ。結が勉強会をしてくれるからその時まとめて聞けば良いよねって思ったけど大体の教科を聞く事になるだろう。
あぁぁ、元からバカだから仕方ないけど絶対舌打ちして悪態つきながら文句言われるよね。
考えると何かもう逃げたい。
バカな自分を恨むけどもうどうにもならない。私はその日苦しんでいたけど帰る時は開き直り過ぎて清々しい気分だった。
もう良いんだ、明日また授業を分からないなりに頑張って明後日キレられながら勉強教えてもらえば。あいつ学年一位だし何でも答えてくれるだろう。投げられるかもしれないけど。
私は帰りも話しかけられないように急いで帰ってまた意味がないだろうバカなりの勉強をして朝を迎えた。
あぁ、だるい。今日行きたくない。帰ろうかなって思ってたら学校着いちゃうから本当に嫌になってしまう。
下駄箱で靴を履き替えて教室に行って自分の席に座ると嫌々ながら今日の授業の予習を始めようと思う。
今日も分かんないんだろうな、当てられたら死去だよ。……はぁ、やだ。
一時間目は化学だからまだマシだけど、私はいつか皆さんの平均八割を取れる日が来るんでしょうか。私は落ち込みながら化学のノートを見返していた。
「泉おはよう」
あぁ、またか。私の席の前にやってきた結は今日も可愛らしく笑っていた。
「……おはよう結」
「昨日聡美にも紹介したかったのにお昼どこかに行っちゃうから皆で予定立てられなかったんだよ?どこ行ってたの?」
こいつどっからこんな優しげな声出てんだろう。もしかしてイタコ?今は霊が乗り移ってる?話してるだけで疑ってしまうけど早く答えないと足を踏まれるのでとりあえず答えた。
「いつものとこ行ってた」
「もう、お昼一緒に食べるって約束したのに。今日は一緒に食べようね?千秋も話したがってたから」
約束した記憶ないし聞いてる振りして脅迫してるだろうから頷こう。私には頷いて笑うしか選択肢はない。
「……うん、分かった」
「良かった。忘れないでよ?泉は本当にうっかりなんだから」
「うん。いつもごめんね結」
「ううん、別に怒ってないから。だけど千秋が少し落ち込んでたからちゃんと気にしてあげて?」
あー、なるほどね。結がにこやかな裏が分かった。千秋が落ち込んで結がキレてるんだね。うん、私は昨日まずったらしいな。
千秋何で落ち込むんだよ。結はおしとやかに言ったけど今日はキレさせないようにしないと私が痛い目にあってしまう。
私が苦笑いしていたら丁度話の種の千秋がやって来た。
「結ちゃん、泉ちゃん…おはよう」
可愛らしく笑って控え目に話しかけてきた千秋。可愛いんだけどあなたのせいで私キレられてるんですよ。
だけど千秋は要注意人物だから私はいつも以上に笑った。
「千秋おはよう」
「おはよう千秋。今、泉を少し叱ってたんだよ。昨日千秋が落ち込んでたから」
私に続けて挨拶した結はにこにこ笑いながら地味に力強く足を踏んできた。痛いけどここで何かアクションを起こしたら私に不利だ。
「ゆ、結ちゃん!私、別にそう言うつもりじゃ…」
なぜか慌てている千秋。それでも結はただ優しげに笑っている。
「昨日話したかったって言ってたじゃん。泉に言っておいたから今日は大丈夫だよ」
「結ちゃん…言わなくても良いのに…」
千秋は私と何を話したいんだろう。何か恥ずかしがってるけど私達共通の話題なくない?この子、結と同じくらい謎だわ。お嬢様の思考回路は下々のハエ同等の私には分からない。
しかし、結が一瞬真顔で私を見たので会話をしなければならない。これはもう理解できてきている。
「千秋、昨日はごめんね?今日はお昼一緒に食べるしずっと教室にいるから大丈夫だよ」
千秋と何を話したら良いんだろう。政治経済?為替?ていうか、何か返答に困るような難しい話とか振られたらどうしよう。私が笑いながら内心どよめいていたら千秋は嬉しそうな顔をした。
「うん、いっぱい話そうね。あの、でも……泉ちゃんのせいじゃないから謝らないで?…それより、授業終わった後の……休み時間とか、話しかけても良いかな?」
何かすごく言い方は可愛いんだよ?嬉しそうに恥ずかしがってるから。でも、あんまり話すと墓穴掘りそうだから極力遠くで見ていたいんだけど千秋って私の斜め前の前の席なんだよね。
一方結は窓際一番前で私は廊下側の後ろの方。つまり、私の方が近いんだよね千秋に。
嫌だ、何て言ったら投げられるだろう。むしろ窓から投げ落とされる。結も笑って私を見てるしまだ足踏まれてるし、これはさっさと頷こう。
「全然良いよ。大丈夫大丈夫。私も千秋と話したかったから」
「本当?嬉しい」
「もちろん本当だよ。えっと、私も千秋と仲良くなりたいと思ってたから」
強制的に仲良くさせられて優しくするように言われているけど、私が笑顔で言ったから結は満足したのか足を踏むのをやめてくれた。良かった。何か初めて結の怒りを買わなかったかもしれない。
「良かったね千秋。今日は皆でどこ行くか決めようね」
「うん。お昼が楽しみだね」
「そうだねぇ…」
お昼一緒なのかぁ。二人は楽しそうだけど私は苦笑いしか出ない。結だけならすぐ謝れるけどとにかく笑顔で話に上手く乗って行こう。二人はチャイムが鳴ると自分の席に戻った。
あー、私は内心疲れていた。私抜きで遊びに行けば良いのに結もよく分からない事を言ってくれるけどもう嘆いても仕方ない。私は覚悟を決めて授業を受けていたけどさっきの宣告通り授業が終わってすぐに千秋が話しかけてきた。
「泉ちゃん、今日の物理少し難しかったね」
「……そうだね」
少しと言うよりかだいぶ難しくて私は死んでいたけど。ていうか千秋も絶対頭良いんだろうに難しいとかあるのが意外だった。
「泉ちゃんは苦手な教科とかある?」
「え?……えーっと……古文?とか?」
いきなりの質問に全部苦手って言ったら引くと思うから私の大嫌いな古文を言ってみた。そしたら千秋はなぜか目を輝かせたように私を見た。
「え?古文苦手なの?」
「う、うん。古文は全然できないんだよね」
「じゃあ、あの、私教えてあげる!」
え、何この流れ。教えてくれるのは有り難いけど結に監視されてるし私の頭の悪さ知ったらドン引くだろ。私は控え目に申し訳なさそうに断ろうと思った。たぶんこのタイプなら断れるはず。
「でも、悪いから良いよ?めんどくさいし習い事とか大変でしょ?私は別に…」
「あ、あの!私、古文とか暗記するの得意だし英語なら中学生の時はアメリカに留学してたから上手く話せるし……他にも、あの、結ちゃん程勉強はできないけど……あの、教えられると思うから…えっと…」
必死そうに慌てて言う千秋は優しくて良い子なのが伝わる。こんな風に言われると可哀想で断れない。千秋って本当良い子だなぁ。ここは千秋の厚意に甘えるか。
「じゃあ、教えてもらっても良い?」
私の返答に千秋はにっこり笑った。
「う、うん。あの、何でも聞いてね?私、学年順位は四位だけど本当に大体は教えられると思うから。それに、本当に苦手なのは体育位だから……あの、大丈夫だからね」
「うんうん。ありがとう千秋。助かるよ」
「うん!結ちゃんだけじゃなくて私にも沢山聞いてね」
私は笑って頷くけど千秋も才色兼備みたいで驚いた。見た目は本当に小動物みたいで可愛いんだけど学年四位ってヤバくないか。しかもアメリカに留学もしてたってもはや英語は完璧なんだろう、そんな気しかしない。
私は何でこんな子に好かれてるのだろうか。お金は払った方が良いのか?何もしてないけどやましい気分になるのはなぜ?そもそも結と違って優しさが全面に滲み出てて下々の身としては反応に困る。
情けではないだろう厚意が有り難くてひれ伏しそうだ。身分の低い私に慈悲をありがとう千秋。
私はやっぱり次元が違う所にいるんだと再確認した。とりあえず膝まずいて話した方が精神的に楽だわ。身分の違いを思い知ったわ。奉りたいよ女神として。ていうか、私はやっぱりハエと同等だと思う。結の私を見る目はあってたよ。
私の心が荒れてきた所で丁度チャイムが鳴ってくれた。千秋は笑って席に戻ったけど笑いかけられてるのが私なのか疑ってしまった。
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