第7話


そうこうしていたら音楽の授業が始まる。今日もよく分かんない歌を歌うらしい。まずCDを流してどういう歌か確認してから皆立ち上がって先生のピアノに合わせて歌い出す流れだけどだるいなぁ。

CDを聴いていたらいつの間にか終わっていて先生がピアノを弾き始めるから私達は立ち上がって歌う準備をする。私はだるいから教科書を持ちながら口パクをしていたら隣でちゃんと歌っていた結に足の脛を蹴っ飛ばされた。



声が出なくて良かったけど痛くて驚いて結を見たら何か殺す勢いで睨まれた。怖。お嬢様は真面目なので私が気に入らないみたいだ。私は仕方なく真面目に歌った。あぁ、本当に何なの。こいつのせいでせっかくの音楽が気が休まらない。


真面目に歌ってから着席したら個人練習の時間になった。この時間は実質自由時間で話してるやつもいれば真面目に歌ってるやつもいるし様々だ。別に歌っていなくてもテストとかないから特に問題もないし音楽の授業は緩い。


暇になった私は頬杖をついた瞬間に結から注意された。


「泉、行儀が悪いよ頬杖は」


上品に座って姿勢を正している結は笑っているけど内心キレてるだろう。足をにじり踏まれた。最悪、後でキレられるわこれ。私は急いでやめた。


「あ、ごめんそうだったね。忘れてた」


「泉は本当にうっかりなんだから」


「うん。ごめんね結。ありがとう」


あぁ怖い。うっかりじゃないけどお嬢様なだけあって厳しいな。ていうか、足痛いし。投げられたらどうしよう。内心怯えていたら結の隣にいた城代が話かけてきた。


「……柳瀬さん結ちゃんと昔から仲良しみたいだね」


「……ははは、そうかなぁ?」


注意されて足まで踏まれてんのに仲良しに見えるなんて結がにこにこ笑ってるからだろうか。私はどう反応したら良いのか分からなかったからとりあえず引きつりながら笑ってみた。

すると結はさっきよりも優しいトーンで穏やかに笑顔で話しだした。


「昔から仲良いのは千秋と私でしょ?泉ってバカだから世話が焼けるけど面白いから千秋も仲良くできるよ。泉は少し照れ屋だからあれだけど」


「そうなんだ。今日の朝、少し話したんだよ柳瀬さんと」


「あぁ、そうだったの?じゃあすぐに仲良くできるね。千秋と話が合うと思うし、泉も仲良くしてあげてね?千秋と」


「……うん」


私は内心驚いて動揺して返事が遅れてしまった。私と話してる時と丸っきり態度も話し方も違うから私と話していた結は幻覚でも見たのかなって思ったけど、昨日抱き締めた時は暖かかったし良い匂いしたしやっぱり同じ人だよね。こいつ何か呪いとか呪術にかかってるとかじゃないんだよねこの感じ。色々考えると本当に怖いんだけど。何てホラーだよこれ。



「あの……私も……泉ちゃんって呼んでも良いかな?」


私が結に改めて怖がっていたら城代は控え目に言った。もう最初から結に勝手に呼ばれてるから断りとかなくて良かったけど結は頷けよ、と笑いながら目で言ってきたので私は笑って頷いた。


「そんなの全然良いよ。ちゃんとかもつけなくて良いし」


「本当?あ、ありがとう。……じゃあ、あの、泉って……呼ぶね?」


「うん、そうしてよ」


「あと、私の事も……下の名前で……呼んでほしいんだけど……」


城代は言いづらそうに言うから私はとにかく頷いて答えた。


「あ、うんうん、分かった。千秋って呼ぶよ。よろしくね千秋」


「……うん。よろしくね、泉…ちゃん」


ちゃんはいらないって言ったけどなぜかちゃん付けで呼ばれてしまった。何か私まずった?内心焦りながら結の顔色を伺ったら特にキレてはなさそうだった。と言う事は、千秋はこういう子なんだね。


「良かったね千秋。泉は頭が悪いから気にかけてあげてね。よくぼーっとしてるし、いきなり転んだりするから」


「うん、分かった。……結ちゃんと泉ちゃん仲良くて良いなって思ってたから、泉ちゃんと仲良くなれて良かった」


「………」


結が軽くディスってるのは前からだから気にしてないけど私は千秋の発言に反応できなかった。私と結が仲良くて良いなって、マジで言ってんの?千秋に見せてないの裏の顔?しかも今朝あんな気まずそうに話しかけてきたのに友達になりたかった?みたいだし。……もう頭痛い。よく分かんない。

いつも千秋みたいな反応されて引かれてたから頭が麻痺してる。


私が笑いながら混乱していたら結は上品に笑う。


「まだまだ泉とは仲良くなったばっかりなんだよ千秋。…あ!じゃあ皆で今度遊びに行かない?聡美も一緒にどこか行こっか?」


「うん!……皆でどこか行きたい私も!聡美ちゃんも良いって言ってくれるだろうし」


え?何?何か勝手に話が進んでるけど。何かまた頭痛い。混乱する。何楽しそうに笑って話してんの?

結は笑いながら一瞬鋭い視線で睨んできたし断れないじゃん。笑っていた私に結は穏やかに優しく聞いてきた。


「泉も良い機会だから行きたいでしょ?」


私はまた脅迫されているようだ。


「あ、うん……すっごく楽しそう。超行きたいです」


身の危険を感じた私は一生懸命笑って頷いた。こんな頑張って笑ったの生きてて始めてだよ。


「良かった。じゃあ、皆でどこに行くか考えよう?」


「うん。後で聡美ちゃんにも言わないとね?」


「聡美は言わなくても平気だよ。それより、千秋は行きたい所があったら何でも言ってね?泉もね?」


結はにっこり笑ってきたけどまた試練ができたみたいだ。出掛けてもすんごい私は頭を使って怖い思いしそうだし、結の前で下手な事言えないし投げられたら痛いから発言はとにかく気を付けないと。


千秋は本当に嬉しそうだけど千秋の扱いは一番気を付けないと投げられるじゃ済まないんだよね私。つまり、……結より要注意人物と友達になっちゃったのか……。千秋には申し訳ないけど内心複雑だよ。友達が増えたのは良い事だけど。



私は三時間目より撃沈して四時間目の授業を終えた。

私脅かされ過ぎじゃない?三人で一緒に教室に帰りながら私はげっそりしていた。

千秋はたまに話しかけてくるけど結に私の全部を見張られてて笑ってるけど目線が怖くて内心話してるだけで気が気じゃないんだけど。

何か間違ったらおまえ一瞬で投げるからなって事だよね。ナンパとかしてる男なら分かるけど無抵抗な女なのに、千秋の親父かよ。私、何もするつもりないんだけど……。


私は教室についてから昼休みになったので急いで鞄を持っていつもの校舎裏に急いだ。ちんたらしてたらまた結に捕まるかもしれない。小走りに急いで向かったいつものベンチには人はいなくて私は心底安心した。

あぁ、やっと憩いの時間がきた。

私は大きくため息をつきながらベンチに座ると早速お弁当を食べ始めた。


はぁ、何か疲れたなぁ。

てか、結はマジでどういうつもりなの。

本当に友達になったみたいだけど足は踏まれるし蹴られるし睨まれるし…いつかやめてくれるのだろうか。

とにかく千秋の事は大切みたいだけどもっと私に優しくしてくれないだろうか。


というか結の裏の顔を千秋はたぶん知らない。

小さい時から仲良かったって言ってたけど何か発言的に知らないで合ってると思うけどあいつの裏の顔は一体誰がどこまで知ってるんだろう。

あの喧嘩してた琴美ちゃんは知ってるだろうけど生憎違うクラスだし私全然あの子知らないんだよな。まぁ、結と同じくらい可愛いのは分かったけどあの平手はね、……驚いて引いたよ。


現実でもあんな事あるんだって思うのが精一杯だったよ。

何か男で揉めてるみたいだったけど彼氏かな?でも、結が彼氏って……普通に怖くね?

あんなハエでも見るような目を向けられてウザそうな顔されてデートとか精神衛生上良くない。

何か病気を引き起こしそうだよ一緒にいるだけで。


と言うか色々折れるよね。ずっと舌打ちされるしキレたら投げられるし、何かめっちゃでかい筋肉マッチョな軍隊出の男とかなら良いんだろうけど男の好み細かそうだしなぁ。

見た目は良いんだけどね見た目は。


私は弁当を食べ終わってからいい加減あいつの事を考えるのはやめて鞄に入れといた古文のプリントを見返した。今日やったとこはテストに出るって言ってたしとにかくこの文章を解読しないと。

私は携帯を出して適当に調べた。

英語みたいに読み方を覚えないと分からないんだけど昔の人は捻り過ぎて理解不能だよ。


ん?しかも読めない字がある。ここ混乱してて付いていけてなかったしこっから先もよく分かんないし…………終わった。

バカなだけでなぜこれ程までに惨めな思いをしなきゃならないんだ。

私はたった数分古文のプリントを見て書き込んで鞄にしまった。


はぁ、結に読めないだけでキレられるんだろうな……。

私は明後日の勉強会が怖かった。

でも読めないし正直に言おう。言うだけマシだって結は言ってたし。

大丈夫。私はよく分からない自信に心を落ち着かせた。

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