第2話 まずは泣き落とし

 そうは言っても、三年も篭りきりなのだからいきなり外出しようなんて、そんな。

 階段をゆっくり降りてくる音がする。

 えっ、何。まさか・・・。


「久しぶり、八千代。ちょっと、出てくる」

「駄目だよ!」

「なんで」

「今日めっちゃ暑いから。熱中症とかマジやばいから」


 お兄ちゃんは諦めて二階に戻って行った。

 危ない危ない。なんとかセーフ。


「帽子かぶればいいだろ」


 アウトー!

 いい訳無いでしょ!何言ってるの!?

 ああもう、教えてやりたい。占い師から言われた事。でも絶対に信じないよね。なんとか諦めさせないと。


「そうだ、宅配便が来るんだった。私今から出かけるから留守番してて」

「八千代」


 静かなトーンで、お兄ちゃんは語る。

 大好きなユーチューバーに励まされて、今なら外に出られる気がするのだと。

 ユーチューバー余計なことするな!

 万人に向けた優しいメッセージが、お兄ちゃんにとっては即死フラグなんだから。もうどうしたらいいの〜!


「どこにも行っちゃダメ」

「八千代」

「イヤなの、お願いだから家から出ないで」


 有無を言わさぬ必殺技・涙!これにはお兄ちゃんも困っている様子。しばらく悩んで、頭をかきながらトボトボと階段を上がって行った。

 ごめんね、だけど許して。

 死んでしまうより悲しいことなんかないもの。

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