第18話 代償と巫女
「ぐあぁぁっ!!」
グレオンを吹き飛ばした劉はその場に蹲った。
「こ、れは……っ!?」
(力の使い過ぎだ)
(なっ、制御は?)
(一度にあんだけ力を引き出されると俺も制御できん。全盛期ならまだしも今の俺には無理だ)
(それは、早く言えよ……っ!)
(あんなに力を引き出せるとは思わなかった。それについては謝る)
(今更謝られても……っ!)
(ところでなんでお前が力を最大限使えないと思う?)
(僕の話しを聞けよ……)
(なんでだと思う?)
(知らないよ。僕がまだ未熟とかじゃないのか?)
(違うな。お前はそのステータスに見合った力を使える。だが、俺がその力を使えないようにしている。その理由は代償がいるからだ)
(代償?)
(ああ。自分よりも強い力を使うためには代償がいる。そして悪神という力の代償は闇の侵食だ)
(闇の侵食……)
(過ぎた力を求めれば求めるほど、使えば使うほどお前の身体は闇に侵食される。しかもただの闇じゃない。癒さなければ一生付きまとういわば呪いに近いものだ)
(癒す手段は?)
(それは……)
悪神が言おうとすると更に闇の侵食が始まった。
「ぐあぁぁっ!」
劉が先程よりも大きな悲鳴をあげる。劉の身体は右半身が闇に侵食されていた。しかもその闇は劉の身体だけではなく周りにも被害を及ぼそうとしていた。
●●●
「ここは……?」
ルゥが目を覚ますと目の前にはクイファがいた。
「目が覚めたのですね」
「お母さん?あれ、わたし確か……」
「体調は大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だけど、わたしなんでこんな所に?」
「それは……」
クイファは少し言い淀む。
「そういえばなんか襲ってきたんじゃなかったっけ」
「ええ。でもそれはもう討伐しました」
「そうなんだ。ところでリューは?」
「一つ聞きます。ルゥ、あなたはリューさんのことが好きですか?」
「な、なんでここでそんなこと聞くの!?」
クイファの質問にたじろぐルゥ。
「どうなんですか?」
だが、クイファの真剣な眼差しに正直に答えるしかなかった。
「す、好きだよ」
「どれくらいですか?」
「え、ええっ!?そんなこと言わなきゃだめ?」
「大事なことです」
「誰よりも好きだよ。この世界で一番大事な人」
「なるほど」
クイファが納得したように何度も頷く。
「な、何でこんなこと聞いたの?恥ずかしんだけど」
少し顔が赤くなったルゥはクイファに理由を聞いてみた。ところがクイファはなにか違うことを言い出した。
「昔に悪神を封印した5人の巫女がいました。その巫女たちは誰よりも優しく誰よりも愛情が深い者たちだったと云われています」
「と、突然どうしたの?」
「今リューさんは苦しんでいます」
「え!?」
「おそらく悪神様の力を使い過ぎたのでしょう。あの闇の侵食は見たことがあります。あれは本人が呑み込まれるまで止まることはありません。なのであの闇を祓う存在がいるのです」
「その闇と巫女の話しに関係があるの?」
「通常の呪いなどは祓う力だけで十分なのですが、強力な呪いはその者に対しての強烈な想いが必要なのです」
「強烈な想い?」
「例えば愛情とか友情ですね。あとは慈悲の心です。その中でも愛情を持つ者を癒すと普段とは比べ物にならない力を発揮されると云われています。それが巫女なら悪神の呪いも抑えられるでしょう。ルゥ、あなたは巫女です。このエレフェアを代表する者です。その巫女の力とリューさんへの愛情があれば今のリューさんを助けられるでしょう」
「わたしが巫女……?」
「ええ、そうです」
「それでリューが助けられるんだね」
「絶対にとはいえませんが、おそらく大丈夫でしょう。巫女の力は想いが左右するのですから」
「そうなんだ……」
「あとはあなたがどれだけリューさんを想っているか次第です」
「リューを助けるためならわたし頑張るよ!」
「では、行きなさい」
「うん」
ルゥは劉のもとへ飛んで行った。
●●●
「ぐ、うぅぅ……」
劉は今にも意識が途切れそうだった。
(これ、以上は……)
さすがに耐えられなくなった劉は意識を手放そうとした。そのとき声が聞こえた。
「リュー!」
その声は何度も聴いた馴染みの声。劉はその声の方に手を伸ばした。
ルゥと劉の手が繋がる。
「ルゥ……」
「リュー、大丈夫なの?」
「大丈夫、ではないかな」
「そうなんだ……」
「どうしてルゥがここに?」
「ねぇ、リューはわたしのことどう思ってる?」
「え、突然なに?しかも僕の話し聞いてた?」
「答えて」
「う……」
ルゥから謎の圧力があり、答えるしかなかった。
「……大事な人だよ」
「それだけ?」
「んー、あとは恩人?」
「他にはないの?」
「ない、かなぁ」
「リューのばか!」
「え、なんで怒られるの?」
突然怒り出したルゥに戸惑う劉。
「リューなんて助けてあげない!」
「そ、それは困る」
ぷいっと横を向いたルゥを宥める劉。
「……リューはわたしがいて嬉しい?」
「ああ、嬉しいよ」
「そっか……なら助けてあげる」
ルゥはそう言って劉の顔に触れた。
「え、ちょ、ルゥ……」
突然のルゥの行動に戸惑う劉。
「そのまま動かないで」
「うん……」
ルゥの手から翠色の光が微弱に放たれていた。その光に当たった闇はスーっと消えていった。
「こ、れは」
それをみて驚く劉。その翠色の光は劉全体を包み込んだ。優しく、暖かい光に包まれた劉は意識を失った。
●●●
作者からのあとがき
もうすぐで1章が完結!あと2、3話ぐらいだと思います。更新速度は遅いですが、待ってくれると幸いです。
転移した場所はみんなとは別の場所だった!?(仮) ちぃびぃ @thibi
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