第6話 繭

吉祥寺の店に顔を出すと、彼女は病欠していた。彼女のことは心配だったが、僕は最高級のモヘアやアルパカの毛を10キログラムずつ買った。僕にはやることがある。とても大事なことだ。二人のためにやらなくてはならないことがあるのだ。


生業にしてるわけでもないのに、いままで購入したことがない大量の買い付けをする僕を店長は心配したような目で見る。「大丈夫ですか、以前いらした時よりもだいぶお痩せになったようですが、持って帰れますか?」帰れますとも。(だって二人の子供のためなんです)後半は流石に口に出しては言えなかった。でも僕は幸せだ。

20キロの高級原毛を背負って帰る僕の後ろ姿は相当奇妙だったに違いないと思う。僕もこんなに多幸感に包まれているのがなぜかよくわからない。でも幸せだ。蜂谷さんも幸せなのに違いない。彼女はこの世界で僕を見つけられたことがいちばんの幸せと言っていた。運命の人っているんだなあ。


帰ったら紡がないと。紡いでそして編まないと。急いで紡いで編まないと。心の中の声に従って編んで編んで編みまくらないと。だって僕の中には





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る