第3話
美女こと女神様が神妙な顔でからになったお皿を前に話し出す。
「私の管理しているこの世界。貴女の住んでいる世界の三倍ほどの面積があるのです。
そして、食材もそれなりに豊富に存在しているのですが、そのまま食べて充分満足できているために、貴女の世界のように調味料などがほとんど発達していないのです。」
神妙な顔をして話す内容が少し気が抜けてしまう内容なのはなぜでしょうか?
それでも、女神様にとっては大事なことなのだろう。
「そう、調味料という意味で浸透しているのは塩とコショウ。そしてハーブが少々。
わかりますか?黒毛和牛並みの美味しいお肉に、塩とコショウだけの味付けなのです。
貴女の世界のように、醤油はありません。なので醤油ベースのステーキソースなんてありません。美味しいお肉には塩胡椒だけでもたしかに充分美味しいかもしれませんが、わさびもないのです。ガーリックバターもないのです!!」
うーん、まぁ、たしかにそれは物足りないかもしれないですけど。
それと自分がここにいる理由がよくわからないんだけれど。
「私はですね。貴女の世界を管理する神に、貴女の世界での食事を度々ご馳走になるのです。その度に、辛くなるのです。普段の食事の味気なさに・・・。」
悲痛な表情で話す女神様に、なんともいえない気持ちになってくる。
つまり、あれですよね ごはんおいしくないっていう・・・。
「そして、貴女の国のご家庭の味というものを味わう機会が何度かあったのです。
家庭の味のカレー、オムライス、生姜焼き、照り焼き、お刺身に、てんぷら・・・。
プロが作る料理は美味しいです。ええ、それは当然美味しいのです。ですが、家庭の味という、様々なバリエーションに富んだ料理を味わってしまったのです!」
「美味しかったんですね・・・?」
「ええ、美味しかったのです。そして、感動したのです。そして同時に絶望したのです。
家庭によって様々な味があるということを、なのに、私の世界の家庭の味は、塩とコショウと少々のハーブという・・・似たり寄ったりの味しかないという事実に」
目が潤んでくる女神様にたしかに、日本のご飯は美味しい。
もちろん料理が得意な人ばかりではない。だが、醤油も味噌も、調味料もふんだんにある日本の家庭の食卓というものは恵まれているのかもしれない。
焼いたお肉にさまざまなメーカーから出ている焼肉のたれを選んで楽しむことができる。
それが最初から最後まで塩胡椒のみ・・・。それは辛い たしかに辛い。
美味しいタレがあると知っているだけに辛い。
「なので、考えたのです。
私の世界の住人に、貴女の世界の料理を食べさせてみるのはどうだ?と。
そうすれば食卓のバリエーションも増えるのではないか?と
だから、私は貴女の世界を管理する神にお願いしました。
貴女の世界の人間の幾人かを私の世界の食卓事情を向上するために力を貸してもらえないか?と」
食卓事情で神様同士が話し合いをするのか。なんか、親近感わくな。
「神様、そうは言っても、私は醤油も味噌も、みりんも砂糖も作れませんよ?」
「ええ、それはそうでしょう。それらは職人がいるからこそ作られる至高の物なのですから。
ですが、調味料だけを私の世界の者たちに渡したとしてもきっと、使い方も分からず放置されるか最悪捨てられてしまうでしょう。
そうなってしまっては元も子もありません。なのでですね。
貴女には私の世界で、料理を作って、私の世界の者たちにその美味しさを教えて欲しいのです。
もちろん、タダでとはいいません。ちゃんとお給料も払います。
それだけではありません。貴女には貴女の世界と私の管理する世界を自由に往き来できるようにします。なので、永住していただくようなそんなことにはなりません。」
「それは、永住なんてこまりますから助かりますけど・・・。あの、一応、パートですが仕事をしているのですぐに料理をつくる仕事はできないかと・・・」
「そこは問題ありません。私の力で明日からでも私の世界でお仕事していただるようにしますし、貴女を含めまずは10人ほどにいまお願いしており、そのうちの5人にはすでに了承を得ていますのでなんの心配もなく!!私の世界で美味しいご飯を広めてください!!」
押しの強い女神様にお願いします!!と頼まれると、押しに弱い自分としてはその迫力に負けてしまいそうになる。
いや、待て自分、いつもそれで痛い目にあっているだろう?この女神様がホワイトだという確信は、まだ無い。もちろん、作ったご飯を美味しかったと食べてもらえたのはうれしいが、仕事の時間やら給料やら、どういう環境やらまだ、何も聞いていないでは無いか!
まぁ、正直、ファンタジー好きな自分としてはすでに心惹かれているはいるのだが。
「女神様、とりあえず、まずは給料から就業時間などの話を確認してもよろしいですか?そのあとでこのお話を受けるか受けないか決めさせていただきたいです。」
「ええ!もちろんですよ」
「自分、物覚えそんなに良く無いのでできればメモしたいのですが、何か書くものを借りてもよろしいですか?」
なにせ、カバンは車の中だ。カバンがあれば筆記用具が入っているのだが。
女神様はお安いご用ですと言って指をパチンと鳴らせば机の上にメモとペンが現れる。
失礼して、女神様の座っている席のテーブルを挟んで目の前に座らせてもらい、メモを開き、ペンを手に持つ。
そうして、女神様と面接を始めることになったわけです。
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