夕焼けの約束

勝利だギューちゃん

第1話

カタコト、カタコト

列車は、走る。


「今日も、学校か・・・」

会社へ向かう、電車の中ふと想う。


「このまま、どこかへ行こうかな・・・なんてね・・・」

学生にしろ、社会人にしろ、誰しもが想うだろう。


このまま、列車に乗っていたいと・・・

そして、知らない町を歩いてみたいと・・・


まあ、社会人になれば、甘えは許されないが、

高校生なら、少しは多目に見て欲しい・・・


それに、今日は学園祭。

さぼっても、問題はない。


うちのクラスはないし・・・


「じゃあ、行こうか、一緒に・・・」

隣にいた女性に、声をかけられる。


「久しぶりだね。板倉くん」

「黒谷さん?」


昨年、クラスメイト女の子がそこにいた。

明るく誰とでも、仲良くなれる子だった。


「過去形にしないでね。板倉くん」

「すいませんね」

笑顔が、可愛らしい。


「元気だった?板倉くん」

「元気に見える?」

「見えない。見るからに疲れてる」


そう言われると、元も子もない。


「どうする?私に今日一日、付き合う?」

「拒否権は、ないんだよね」

「うん」


即答ですか・・・


「わかった。お付き合いします。姫」

「エスコート、よろしくね。王子様」


こういう子です。


こうして、ふたりは旅に出る事になった。

大袈裟だが・・・


まあ、後で連絡は入れておこう。


「学校の最寄り駅から、3つ先に大きな公園があるよね?」

「うん。噴水はあるが、遊技施設はなにもない、あの公園だね」

「そこへ、行こうよ。板倉くん」

「了解」


拒否権はないようだ。


そして、高校を自主休校して、公園に向かう。


そして、公園についた。

平日なので、ひとはまばら。

親子連れが、何人かいる。


ここは、憩いの場で遊ぶのは禁止なので、

ゲートボールをしている、お年寄りもいない。


「板倉くん、静かだね」

「うん、平日だしね」

「鳩、いないね」

「最近は、鳩に餌をやるのを、禁じているところが多いからね。

鳩も、『ここにいても、食べられない』と、どこかへ行ったんだろうね」

「かもね」


鳩に餌をやるのを禁じている所は多い。

フンにこまるためだが・・・

絶滅したりしたりした・・・


「それはないと、思うよ板倉くん」

「どうして?」

「鳩は、平和の象徴だもん」

「そのわりには、ぞんざいな扱い受けてるね」

「確かに」


他愛のない会話・・・

これだけで、癒しになるのかもしれない・・・


「ちょっと、そこのおふたりさん」

知らないおばさんに、声をかけられる。

出たな・・・


「あなたたち、高校生でしょ?学校は・・・」


おばさんの質問に、黒谷さんは、丁寧に説明をした。

うちの高校は、今日は学園祭で出入り自由。

当番ではないと・・・


おばさんは、納得して去って行った。


噴水の前のベンチに腰掛ける。


「板倉くん、何か食べる?」

「いや、いいよ」

「男の子は、たくさん食べなさい」

「じぁあ、アイスクリームと、クレープと、たこ焼きと、お好み焼きと・・・」

「遠慮しなさい」


わがままだ。

てっ、奢ってくれるのか?


「私から、誘ったんだもん。少しなら奢るよ」

「じゃあ、クレープ」

「OK」


黒谷さんは、走って行った。

まあ、クレープなら、女子の方が買いやすい。


「板倉くん、お待たせ。はい」

「ありがと。ごちになります」

「どういたしまして」


ふたりで、クレープを食べた。

そういえば、初めてだな・・・


「ねえ、板倉くん」

「どうしたの?」

「いつまでも、仲良しでいようね」

「どうしたの?急に」


真剣な表情になる。


「去る者は日々に疎しというよね?」

「うん。確かに」

「私は、嫌なんだ。それ・・・」

「どうして?」

「女の子に、言わせる気?」


そっか・・・

そういうことか・・・


本気がどうかは、知らないが・・・


「わかったよ。いつまでも、仲良しでいよう」

「うん、約束だからね。板倉・・・いや、義一くん」

「どうしたの?下の名前で呼ぶなんて・・・」

「ファーストネームで呼び合うほうが、関係は長く続くんだよ。

恋人も、友達もね・・・」


そうなんだ・・・

初めて知った・・・


「じゃあ、僕も・・・」

「うん。好美(よしみ)と呼んで」

「好美さん」

「さんは、いらない」


公園は、いつしか夕陽に包まれる。


2人の影は、重なり合った・・・

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夕焼けの約束 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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