最速で異世界を救ってみる

暗藤 来河

能力はガチャで決まります

「皆さんには異世界で魔王討伐を目指してもらいます」

 真っ暗な世界。周りにはどよめく人々。そして目の前には神を名乗る少女。フィクションではよくある展開。だけどまさか自分が巻き込まれるなんて。

「皆さんにはこれから一つずつ特殊能力を与えます。その能力を使って、ある世界で人々を苦しめる魔王軍と戦い、魔王を倒してください」

「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだ!」

「そうだ。元の世界に戻してくれ!」

 誰かが叫んだ。それに同調して多くの人々が騒ぎ出す。全部で百人くらいはいる。少女はしばらく黙ったあと、改めて話を続けた。

「皆さんは、元の世界で亡くなった人達です。このまま元の世界に戻したところで、すでに戻る肉体はありません。ただし、誰かが魔王を討伐した暁には皆さんを元の世界に戻して差し上げます。勿論、肉体も復活させた上で」

 再び人々のどよめきが大きくなる。先ほどまでの悲壮感だけでなく、戸惑いもあるようだ。

 たしかに僕は死んだ。病気に苦しみ、家族に見守られながら、静かに息を引き取った。そして気がついたらここにいた。気になったことを少女に聞いてみる。

「僕は病気で死んだ。元の肉体っていうのは、病気の状態に戻るのか。それともついでに健康体にしてもらえるのか」

「望むのであれば健康体にします。それも魔王を倒していただければ、ですが」

 それならやる価値はある。少女が全員に向けて詳しい話を進めるが、すでに僕はやる気になっていた。

「能力については、これで決めてもらいます。」

 少女の隣に光り輝く物体が現れる。眩しくて目を瞑った。光が収まり、再び目を開ける。そこにあったのは――。

「……ガチャガチャ?」

 百円入れて玩具が出てくる、あれだった。まさか、そんなもので決めるのか。

「こちらを一人一回まわしていただきます。能力は全部で千種類。カプセルの色でレア度が異なります。基本的にレア度が高いほど強い能力になります」

「レア度の内訳と色は?」

 少し離れたところにいる眼鏡をかけた細見の男が尋ねる。

「金がスーパーレア、十種類。赤がレア、百種類。青がノーマルです。」

 全部で千種類と言っていたから、スーパーレアの割合は百分の一。確率的にはゲームのガチャよりは高いかもしれない。だが、ここにいるのは百人程度だ。全員がノーマル、なんて可能性も十分あり得る。本当に魔王を倒させる気があるのか。

「それでは、一人ずつガチャをまわしてください。この空間も長くは維持できないので、お早くお願いします」

 言い終わると同時に、ゴゴゴゴゴ、と音が響く。暗くてよく見えないが、空間が端から崩れ始めていた。

「おい、急げ!」

「俺が先だ!」

 人々が慌ててガチャに向かう。一人目の男がガチャをまわしてカプセルを取り出す。色は青。

「くそっ!」

 男は項垂れてカプセルを開かずに捨てる。少女はそれを拾って中身を取り出した。中には一枚の紙と飴玉のような丸いものが入っていた。

「能力、バインド。敵の動きを止める魔法が使えるようになります。能力なしでは、異世界では生きていけません。こちらを飲んでください」

 紙と飴玉を男に渡す。男は迷っていたが、結局飴玉を飲み込んだ。

 少女が再び全員に向けて話す。

「このように、ガチャの中には能力の説明文と丸薬が入っています。丸薬を飲み込まなければ能力は使えませんので、お気をつけください」

 それだけ言って、少女は離れていく。ガチャの周りにいた人々は牽制しあっているようだったが、やがて次々にガチャをまわし始めた。

 僕はそこには参加せず、先ほどの少女の元へ向かった。少しでも情報を集めておきたかったのだ。

「少し質問いいか」

「どうぞ」

 少女は意外にも笑顔で了承してくれた。

「異世界って、どんなところなんだ」

「簡単に言えば、ゲームのRPGでよくあるような世界です。人々は町や村で生活し、その外には魔物がいます」

「魔物ってやっぱり人を襲うのか」

「はい。魔王の使いですから。それに魔物にとって人間は食料でもありますので」

「僕らの前にもその異世界に行った人はいるのか」

「はい。今回のような規模で、定期的に異世界に人を送っています」

「そのうち、生き残っている人は?」

「少数ですがいます。その方々に会えれば、何か情報が得られるかもしれません」

 定期的、というのがどのくらいの頻度か分からないが、百人を何度も送っているなら合計では結構な人数になるのではないか。全て亡くなった人だから元の世界で騒ぎにはならないだろうけども。

「他には何かありますか? 出来れば早く能力を引いていただきたいのですが」

「まだ混雑してるから、空いたら行くよ。それより、もう一つ質問」

 最も聞いておきたい、重要なのはこれだ。

「強さについて。レベルみたいな概念があるのか。それとも身体能力と特殊能力だえけで戦うのか」

 今までの質問は即答だったが、この質問には少し考えてから答えた。

「後者です。魔物は貴方たちから見たら異形の形をしていますが、落ち着いて戦えば一対一でも倒せるレベルです。魔王だけは違いますが」

「違う、というと?」

「一説ですが、複数の能力を同時に当てなければ倒せない、と言われています」

 つまり、どれだけ強かったとしても一人で倒すことはできない、ということか。

「そろそろ空いてきましたよ」

 ガチャの周りは残り数人になっていた。まだ聞きたいことはあるが、ガチャの方に目を離した隙に少女は消えていた。これ以上の質問は受け付けないらしい。

 仕方なくガチャの方に向かう。

 その途中、最初にガチャをまわした男とすれ違う。

「あの、すみません」

「なんだ?」

「ちょっとお願いがあるんですが」

 男に一つ頼み事をして、再びガチャへ向かう。

 ガチャの周りは四人ほどしかいなかった。他の人はすでに終えているらしい。

 周囲を見渡すと早々に能力を手に入れた者達は練習を始めていた。火や水、雷などがそこら中を飛んでいる。

「あとはあなただけです。どうぞ」

 振り向くとガチャの傍らに少女がいた。さっきまでいた四人ももう終わったようだ。

 ガチャの前に屈んで取っ手をまわす。

 ガコン、と音がしてカプセルが出てくる。

 色は、青。ノーマルだ。カプセルを開けて中身を取り出す。

「能力、ファイア。火の弾を打ち出す」

 なんともありきたりな、普通の能力だった。

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