第24話 カオスな世界
「う……」
真也は目を覚ました。
「ここは……」
白いベッド。どうやらそこは病室のようだった。意識を失ってる間に運ばれてきたらしい。
「ッ……!」
頭がズキズキする。頭に触ると包帯が巻かれているようだった。
周りを見るとそこは大部屋で結構な数の者が収められていた。みんな怪我人のようで看護師がせわしなく走り回っている。これも部長が過去に消したはずのカオスのせいだろうか?
「というか、あれからどれくらいの時間が経ってるんだ……?」
隣のベッドの中年男性は片足を骨折しているようだったが、何か文庫本を片手に読書をしていて別に現在進行形で苦しんでいるわけではないようで真也はその人に尋ねてみることにした。
「あの……」
「おう? 兄ちゃん、あんた目ぇ覚めたのかい」
「あ、はい」
「具合はどうだ? 看護師さん呼ぶか……? まぁ、忙しそうだが」
「あ、いえ、とりあえず大丈夫です。あの、俺ってどのくらいここにいたか分かりますか?」
「んー、確か兄ちゃんがここに運ばれてきたのは二日前だったかなぁ」
「え……二日!?」
となりの中年男性は「あぁ」と頷く。そんなに長いこと真也は気を失っていたのか。
「えっと……ここにいる人達ってもしかして、みな化け物にやられた感じですか?」
「そうだなぁ、化け物っていってもいろんな奴がいるが……」
中年男性はカオスのことを認識したままになっているようだ。
真也には疑問がわいた。この状況は一体どういうことなのだろう。他の地域のイレイザーは一体何をしている。例えカオスたちによって現状のように死傷者が出ていてもイレイザーがその被害を出したカオスをイレースすればすべては元に戻るはずなのに。部長がイレースされて二日も経っているのにこの惨状とは。
ここにいては何も分からない。真也は状況を確認するために点滴の針を自分で無理やり引き抜き、スリッパがあったのでそれを履いてベッドから降りた。
すると、現状をすべて聞き出せそうな人物が部屋の入口から入ってきた。槻木杏里だ。
「槻木さん!」
真也はその名を呼びながら杏里の方へと近づいていった。
「え……っと、あなたは確か……意識を失っていた」
「えぇ、さっき目を覚ましたんですよ。それにしても無事だったんですね。よかった」
「無事って……まぁそうだけど」
杏里はなんだか戸惑いの目を真也に向けていた。何だろうこの感じは。
それにしてもここは人目がある。ここでペラペラとイレイザーの話をする訳にもいかない。
「……とにかく話をしましょう、来てください!」
「ちょ、ちょっと!?」
◆ ◆ ◆ ◆
真也は杏里の手を掴んで病棟から出ると、人の姿のない駐車場の端までやってきた。
時間が分からないが真上から照り付ける太陽から察するに正午辺りだろうか。
「一体何なのいきなり……」
「え……いや、何なのって……」
杏里の態度には何か違和感を覚えたが、真也はさっそく話を聞いてみることにした。
「この状況一体どういうことなんです? 部長が消え去ってしまって二日も経つのに、さすがに状況が改善されなさすぎのような気がするんですけど」
「えっと……私にはあなたが何を言っているのかさっぱり分からないんだけど……。人違いか何かなのかしら?」
「……」
杏里は眉をひそめ、冗談ではなく本気でそんなことを言っているようだった。まるで、これまでのことをすべて忘れてしまっているような態度だった。
「ハッ……!」
その時、真也にはその理由の察しがついてしまった。
「槻木さん、まさか……ライムに能力を奪われてしまったせいで……」
千沙にあの戦いの記憶が残っていたということは、ライムに現在も杏里の能力が吸収されたままになっていることはおそらく間違いない。杏里は能力をライムに奪われ、記憶を引き継ぐ力も失い、これまでのイレイザーとしての記憶を全部失くしてしまっているのだ。
「あの……なんか分けわかんないし、もう戻っていい? 私父の看病しないといけないから」
杏里は踵を返して病棟へと向かって引き返していってしまった。あの病室に入ってきたのは真也がいたからではなく偶然そこにいた彼女の父の看病のためだったということなのか。
「だとすれば今、日常部は……」
一体どうなってしまっているのだ。部員が誰もいないということになってしまうが。
「どうするこれから……」
やはり真也が気になったのは千沙のことだった。千沙は再びライムのことを召喚するなんてことを言っていたが今どうしているのだろう。
とは言っても現在千沙がどこにいるのか分からない。そして真也には現在、千沙と連絡する手段が何もなかった。携帯電話さえあればおそらく連絡がつくのだが。
「一旦家に戻るか……」
外に出て、今いる病院の場所は検討がついていた。ここから自宅までは歩いて二十分程度だ。そして自身のスフィアの気配は自宅方面からするような感覚がある。
退院するならば色々手続きが必要なのかもしれないが、今はそんなことはどうでもいい。
服も病衣だし、靴はスリッパだ。でも家に帰れば着替えることも出来る。携帯は病室にはなかったようだしおそらく自宅だろう。真也はその姿のまま自身の家を目指すことにした。
◆ ◆ ◆ ◆
駐車場から病院の敷地外に出てまず目に入ったのはあのフェニックスだった。あんなに目立つ位置で飛び続けているのにまだイレースされていないのか。
「こんにちは、今日は暑いですねぇ」
その様子に目を奪われていると、真也は声を掛けられた。
「あ、そうですねぇ、って!?」
話しかけてきたのはどうやらチンパンジーのようだった。ふつうにTシャツとジーパン姿でその手には手綱が握られている。どうやら犬の散歩中のようだった。
「どうかされましたか……?」
「あ、いえ……」
不思議そうな顔をして歩いていくチンパンジーを不思議そうな顔をして見送ると真也は自宅に向けて小走りでペタペタと移動を始めた。
道中、横道を見ると自衛隊と思われる集団が真也が二日前に襲われた牛頭のカオスと応戦しているようだった。そのずっと先には高さ百mほどはありそうな卵のようなものがあった。
その他にも腐った死体が歩いているわ、いきなり数軒先の住宅から謎のビームらしきものが打ちあがるわ、人が普通に空を飛んでいるわ、目の前の壁をよく見ると、たくさんの耳がくっついていて微妙に動いているわ……
「カオスだ……」
そこはまさにカオスな世界だった。
「どうなってるんだこれは……」
いくらなんでもカオスの数が多すぎるように思えた。部長はこんなにも多くのカオスを今までイレースしてきたのだろうか。
その時、ふと意識を失う前の千沙の言葉が真也の頭の中に蘇った。
――真也はカオスな世界を望んでいる。だからそれを実現させるの――
この状況、まさか千沙が作り出しているとでもいうのだろうか。しかしそんなのどうやって。
「急ごう……」
真也はカオスに極力目をつけられないようにしながらも自宅に向かって駆けていった。
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