第23話 戦いの結果
*「はッ……!?」
次の瞬間真也は自宅にいた。服装も普段着に戻りベッドの上で寝転んで漫画を読んでいた。
「これは……部長がイレースされてしまったから……か」
部長がライムにイレースされ元からいなくなった場合の世界に切り替わってしまったのだ。
「それってつまり何がどうなったんだ……?」
ベッドを離れ周りを見渡す。机の上にスフィアと携帯があったのでその二つを手にした。
スフィアはポケットに入れ携帯を操作して連絡先の一覧を確認してみる。
「ない……部長の連絡先……槻木さんの連絡先も……エイルまで……」
部長の連絡先がないのは当たり前かもしれないが、あとの二人まで消えているなんて。
これは部長がいなければ彼女らと連絡先を交換する機会などなかったということなのだろう。
「……エイルはどうなった」
連絡先は登録されていないが、エイルは部長の存在に関わらず真也がこの世界に召喚したはずだ。ならいるのか?
しかし魔力が減ってエイルは一時的に異世界に帰ってしまっている。それは部長がいなくてもおそらく同じこと。なら、いるにはいるが彼女の現在地は異世界なのかもしれない。
「槻木さんは……?」
部長は杏里がやられたかもと言っていた。部長の元に駆けつけた時その姿はなかったが、やはり殺されてしまったのだろうか。部長はライムが杏里の能力を食ったとも言っていた。それは杏里はライムに体ごと取り込まれて消化されてしまったということなのだろうか。
しかし考えてみると部長がいなければ日常部とライムは戦うことはなかったのではないかという気もする。つまり例え殺されていても復活している? 考えてみたがよく分からなかった。
「……少なくとも千沙とライムは生きているか……いやでも……」
考えるほどに部長が消えた影響は思ったよりも大きな事かもしれないと真也は思い始めた。
「部長がいなければ、俺は日常部に入ることはたぶんなかった。ってことは千沙はライムを召喚することもなかった……?」
千沙は真也を日常部から辞めさせるためにライムを召喚したはず。
ならライムはこの世界に今いないということなのか。
「そして記憶を引き継げるのはイレイザーだけだ。ってことはつまり、いまの千沙はライムの記憶を失っている……?」
だとしたら、今も巨大化したライムが街で暴れまわっているなんてことはないのか。
真也がふうと、そのことにとりあえず安堵のため息をついた時だった。
いきなり手に持っていた携帯がブイイインと震え始めた。画面には千沙の名前が映し出されている。千沙は自分から電話を掛けてくることは滅多にないはずだが何の用だろう。真也は通話ボタンを押し携帯を耳に当てた。
「もしもし?」
真也は呼びかけたが、しばらくの間千沙からの返答はなかった。
「千沙……? 聞こえてるか?」
『真也……私ね、決めたの』
「え……?」
やっと返ってきた言葉は何だか意味の分からないものだった。
『ここまで来たら前に進み続けるしかない。そうだよね。だから私は……この世界を真也の望む通りに作り変えることにする』
「な、なにを言ってるんだ……?」
この感じ、まさか……。
「お前……記憶があるのか?」
「うん、そうだよ。私はライムと共に日常部と戦った。そして勝ったんだ」
「なぜ……イレースの記憶を引き継げるのはイレイザーだけのはずじゃ……」
まさか千沙はイレイザーだったのか? しかしそれは偶然が過ぎるのではないだろうか。
「さぁ……私には難しいことはよく分からないけど。もしかしたらそれは私がライムとどこかで繋がっているから……かな。今は遠く離れてしまってるけど、そんな感覚が残ってるの」
「……!」
その言葉を聞き真也の頭の中で一つのピースが当てはまった。そうだ、エイルもマスターである真也の能力を一部共有しイレイザーに準ずる能力を手に入れている。おそらく千沙にもマスターとサーバントの関係が逆ではあるが同じ現象が起こっているのだ。
ライムは杏里から能力を吸収しイレイザーになった。そして千沙はその能力を一部共有してエイルのように準イレイザーになってしまっているのだ。
「千沙……お前に記憶があるのは分かったけど、それでどうしようとしてるんだ。さっき言ってた事は一体……」
その時、ブロロロと何かバイクが通り過ぎるような音が電話の向こう側から聞こえてきた。
「言った通りだよ。真也はカオスな世界を望んでいる。だからそれを実現させるの。手始めにこの世界からいなくなっちゃったライムをまたこっちに呼ばなきゃね」
「え……」
「じゃあね真也、ライムを召喚したらまた会おうね」
ブツリと音が鳴る。
「あ、おい!」
画面を見る。千沙は通話を切ってしまったようだった。
「……また、ライムがこの世界に召喚されてしまう?」
千沙はそれを真也が望んでいることだと思っているようだ。確かに千沙に対しては今までそんな態度をとってしまってきていたが……。
真也は千沙に電話を掛け直した。だが携帯の電源を切られてしまっているようだった。
「クソッ……」
先ほどの音からして千沙はおそらく外を移動中だ。そしてライムを召喚しようとしているのならば目的地はおそらく魔術書のあるオカ研の部室だろう。
止めに行かなければ。とっさに真也はその場に立ち上がった。しかしそこで体が固まる。
「……それでいいのか?」
もともと真也は千沙の言う通りカオスな世界を望んでいたはずだった。部長がいなくなったということはその実現に一歩近づいたということではないのか。
結局真也の心は何も固まってなどいなかった。
「……考えはまとまらない。でも、とにかくあいつを追うぞ……」
◆ ◆ ◆ ◆
家を飛び出て自転車に飛び乗った。そして学校に向かって漕ぎ出したところで道の先に何か巨大な者が立っていることに気付いた。
「な、なんだ……?」
真也はとっさに急ブレーキをかけ自転車を止めた。
そこにいたのは牛の頭に人間の身体をした化け物だった。身長は4mほどはあり、その手には巨大な斧が握られている。
「カ、カオス……!?」
なんでこんなところにいきなり。偶然出くわすというのもありえない話ではないが。
「いや、まさかこれは部長がイレースされたから……? あいつは部長が過去にイレースしたカオス……?」
そうだ、部長が消去されてしまえば部長のこれまでのイレイザーとしての活動もなかった事になってしまう。だから部長に消されていたカオスが復活してしまったのだ。
牛頭は最初真也から見て横を向いていたが、真也の存在に気付いてしまったようだった。
「う……」
牛頭のカオス値の計測は出来ないが存在自体が完全に日常を壊してしまっていると言って過言ではないだろう。それに部長がイレースしたのであれば100を超えているのは間違いない。
「うごおおお!!」
牛頭は大声をあげ、両手で斧を大事そうに持ちながらこちらに向けて駆けてきた。
今はスーツを着ていないし、武器も何もない。真也はその場に自転車を置き去りにし慌てて自宅へと引き返した。
玄関の鍵を閉めて体重を乗せる。しかし次の瞬間だった。
ドガン! といきなり真也の体に大きな衝撃が走った。なんと家の入口ごと破壊されてしまったらしい。
「がッ!?」
前方の廊下に扉ごと吹き飛ばされる。そしてその先の壁にぶつかり真也は意識を失った。
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