感情、四つ 。+ オマケ

 



「マイルズさんは人間の肉を近所の方に譲りましたが、何時頃から人間を狩っていましたか?」


「さん、三か月くらい前だ。妻が妊娠したら悪阻が酷くて野菜や果物、甘いものしか食べられなくて、特に甘いものが食べたくて仕方ないって言っていたから少しでも稼いで甘いものを食べさせてやりたいんだ」


「なるほど。肉は奥さんに食べさせたり、お店で売ったりはしなかったのですね?」


「そ、そうだ、俺は食費を浮かすために食べたけど、セレストは悪阻で肉を食べられない。うちの子もあまり肉がす、好きじゃない。でも仕入れ先以外の肉はダメなんだ。店長が自分で見て、解体した肉だけ売って、俺が狩った鹿なんかも店長と一緒に捌いてた。だから、じ、自分でこっそり捕って、売ったり人にあげたりしていた」


 その決まりのお蔭で店に人肉が出なかったのか。


 食べたという話も、人間も動物も同じ生き物と考えていれば問題なく食せるだろうな。




「今、問題になっているのはなんです。これは売買も作ることも許されていません」


「ど、どうして?」


「人間――……つまり同族を殺してはならないと法では定められているからです。ですが、それは建前ですよ。同族同士で殺し合えば諍いが増え、数が減る。数が減れば国力が落ちる。働き手が減る。……子孫を残すために必要な法なんです」




 マイルズさんに理解させるには『人間だからダメ』という言い方では通じない。


 きっと本人が納得出来る理由が必要だ。


 狩りを学んだなら、獲物を狩り過ぎると絶滅してしまうため、種の保存の大切さも知っているはずだ。




「で、でも、人間はどこにでも、た、沢山いる」


「確かに、掃いて捨てるほどいるでしょう。しかし――……」




 元の世界では人口が七十億を超え、まるで砂糖に群がる蟻の如く人間が増えてしまった。


 この世界もどうかは知らないが王都の人口は相当数あり、数人程度、何の問題にもならないだろう。


 だが、これでもそう言えるだろうか?




「もし、マイルズさんの奥さんやお子さんが、どんな気持ちになりますか?」




 マイルズさんがキョトンとし、それから考えたのか段々顔が強張っていく。




「そして奥さんや子供の体を切り刻まれ、売り払われ、他人が食べてしまったらどうですか?」


「ダメだ!」


「ええ、そうでしょう?」




 共感出来ない訳ではない。


 ただ、そこまで考えが至らなかった。


 ある意味では無知で、ある意味では純粋だった。


 けれどもう、それはココでお仕舞いだ。




「あなたがやったのはそういうことです」




 呆然とわたしを見遣るマイルズさんの目から涙が零れ落ちる。


 それは罪を知った苦しさからか、それとも自責の念か、あるいは――……いや、わたしが憶測でものを言うべきではないか。


 憐れな人だが同情は出来ない。


 罪は罪、それ相応の罰と償いが必要だ。




「あなたの行動は幾つかの法に触れました。人間の肉と黙って売らせた詐欺、殺人、死体の損壊。最も重い罪は殺人です。意思を持ってあなたは人を狩りました。それは立派な殺人罪です。金銭の財産は全て没収され、恐らく絞首刑が斬首刑に処されるでしょう」


「こ、絞首……斬首刑……?」


「裁判の判決次第ですが、あまり軽くなることはないと思います。貴方には情状酌量の余地がない」


「そん、そんな、でも、俺は、じゃあ……なんて、ことを……」




 顔を覆う姿をわたしはただ見つめるしかない。


 マイルズさんは人を殺すとそのに気付いた。


 その罪は償い切れないだろう。


 一つ言うならば、詐欺はもしかすると罪に当たらないかもしれない。話によるとマイルズさんは肉を譲ったが金銭や物品を代わりに受け取っていない。


 殺人と死体の損壊だけの可能性もある。


 どちらにしても重い罪だ。




「殺した人間の家族に申し訳ないと思うのなら、警官に包み隠さず話してください。それが今、あなたに出来ることです」




 そう言い残して席を立ち、部屋を後にする。


 廊下に出ると同じタイミングで刑事さんが隣室から姿を現した。


 また、何とも言えない顔をしていた。




「何が地味だ。相変わらず坊主はえげつねえな」




 えげつないとは失礼な。




「わたしは理解してもらうために対話しただけですよ」


「そうだけどよ。まあ、あの男も自分がやっちまったことを理解したみてえだし、俺達だけじゃああそこまで持っていけなかったからな。助かったぜ」




 バン、と背中を一発叩かれる。


 かなり力が強くて一瞬息が詰まった。痛い。




「……仕事ですのでお気遣いなく。それよりも、刑事さんも他の警官の皆さんも嗜み程度でも構いませんので心理術を学ぶことをお勧めします」




 心理学というか相手の気持ちを察する力を養うべきかもしれない。


 刑事だけあって相手の負の感情は気付けるみたいだが、他となるとどうにも鈍い。




「心理術? って、人の行動と心がどうとかって心理学の仲間か?」


「仲間と言えるかもしれませんね。心理術は心理学を元に動作から相手の感情や言葉の真偽を判断する術ですよ。実際、マイルズさんと会話を出来たのは心理術それを少しばかり嗜んでいたお蔭なのです」


「でもなあ、そういうものの研究してる教授やお偉いさんに頼んだところで断られるのは目に見えてるんだぜ?」




 少し考えてから口を開く。




「勝手にお約束することは出来ませんが、もし宜しければわたしの心理術の知識をお教えします。心理学を知らなくても問題ありません。ただし、それには伯爵の許可と仕事としての依頼が必要となりますが」


「へえ、坊主が?」




 面白そうに目を細める刑事さんからつい半歩引いてしまう。




「あくまでお教えするだけです。覚えられるかどうかは本人次第ですから、わたしに期待するのは筋違いですよ。とりあえず仕事も終わりましたので屋敷へ戻りますが宜しいですか?」


「ったく、可愛げのねえこった。ああ、もう帰ってくれて構わないぞ。報告書は後日旦那宛てに送るから、気になるならそっちで聞いてくれ。心理学の件はちっと待ってくれ。伯爵もそうだが侯爵家にも問い合わせてみる」


「侯爵家……ああ、そうですね、その方が良いでしょう。それでは失礼致します」




 襟を整え、一礼して、その場を離れる。


 この世界の心理学はまだ研究が遅れているので、胡散臭く感じる部分もあるのだろう。


 わたしの知る知識は元の世界のものだからこちらで知られていない可能性も高い。


 歩きながら自然と溜め息が漏れた。


 ……人を追い詰めるというのは存外疲れる。






* * * * *






 更に二日経つと伯爵の下へ報告書が届いた。


 まず主人である伯爵が読み、それから差し出された紙束を受け取って見た。


 中身は今回の事件の概略と調査結果である。


 肉屋――正確には食肉加工店――の従業員マイルズ=オアは初犯を遡ると十三年ほど前より殺人かりを行っていた。最初の殺人は意外なことに偶然だったという。自宅に侵入し、盗みを働こうとした貧民街の女を追い出そうと揉み合いになった際に強く頭を殴ってしまい、それで死んだ女を狩りの獲物同様にバラして捨てようとしたそうだ。肉を持つ肉屋の従業員は不審がられず、むしろ見かけた人間に捨てる肉なら譲ってくれと頼まれて何度か配ったそうだ。


 すると肉が欲しいと訪れる人間が後を絶たなくなった。人に喜ばれると自分も嬉しく、少ないが金も手に入り、自分の食費も浮かせられると気付いたマイルズは貧民街で狩りの獲物を探しては年に二、三人ほど殺していた。これも自供で判明したという。


 方法は至ってシンプルだ。肉屋の従業員だがクズ肉が余って困っているので分けると言えば誰もがついて来る。狩りをした時に解体するためにマイルズは小さな借家を別に借りており、そこに引き入れて、肉を出すから待つように言って油断させたところで後ろから頸動脈を掻き切って殺す。体の大きなマイルズにとっては男だろうが女だろうが大した差はなかったらしい。男女問わず、年に三人殺したとして単純計算で十三年間で三十九人。


 これが事実だとしたら空恐ろしいことである。


 肉を分けてもらった者は知らず知らずのうちに人肉を口にしていたのだ。


 これが新聞に掲載された時、思い当たる節のある者は悲鳴を上げるに違いない。


 被害者の衣類は古着屋に売ったそうだ。




「人は生まれながらに殺人を忌避する訳ではないのだな」




 報告書を読み終えて顔を上げると伯爵がポツリと呟いた。


 それは悲しげにも、どこか安堵している風にも見えた。




「人間を人間たらしめるのは理性と法だとわたしは考えております。秩序がなければ人は好き勝手に己の利益を求めて行動するでしょう。狼に育てられた少女が人語を解さず二本足で立たぬように、育った環境で人は善にも悪にも、人間以外の何かにもなってしまえるのです。教育で職業が決まるのと一緒ですよ」


「そういうことか」




 暫し思考の海に沈んだ伯爵がふと思い出した様子で顎から手を話す。


 引き出しから一通の手紙を出し、それを軽く持ち上げて示した。




「ところでセナ、お前は心理術という心理学を基礎に人を観察する術の心得があるそうだな?」




 唐突な話題の変更に戸惑いながらも一応肯定する。


 何となく嫌な予感がした。




「ああ、はい、そんな大層なものではなく触りといいましょうか、趣味で嗜む程度ですが」


「では今日はお前が持つ心理術の知識を聞くとしよう。私が聞いて警察に必要と思えば警察署の方へ派遣させるということでグロリアと話がついた」




「恐らく行くだろうが、講義にはグロリアも聞きに来るからな」と続けられた言葉に、素で反応してしまう。グロリア様まで来るなんて聞いてない。……いや、今初めて言ったのか?


 そもそも講義なんて言うほどの内容でもなく、覚えておけば相手の警戒心を薄めるとか嘘を見抜けるというくらいの豆知識なんだけど、それを言うタイミングを逃した気がする。




「ええっ? 今から? ……本当に大した内容ではありませんよ?」


「構わん。お前の『大したことはない』は当てにならんしな。しかしそのようなものまで学んでいるとは知らなかったぞ。心理学を基にする観察とは興味深い」




 知識に貪欲な伯爵は既に話を聞く体勢になっている。


 この状態になると梃子でも動かないし、意地でも話すまで迫って来るので、ココは素直に心理術について語るしかない。警察署で行う講義の練習と考えれば少しはやる気も出る。多分。


 記憶の底に眠る知識を引っ張り出しながらわたしは伯爵に告げた。




「……畏まりました」




 この後、伯爵を相手に心理術について語ることとなった。








# The fifth case:Pure insanity―純粋な狂気―Fin.


 

* * * * *






【 瀬那のなんちゃって心理術講座 】

 






 書斎のソファーに座る伯爵。そうして、その向かい側にわたし。


 コホンと咳ばらいを一つして喉の調子を確認し、口を開く。



 

「今回は初めてなので基本の『嘘の見抜き方』と『本音の見抜き方』。あとは『警戒心の和らげ方』でしょうか? わたしも全てを実践している訳ではありませんが、知っているのといないのとでは違いますので」




 指折り数えながら言うと伯爵さんが顔を顰めた。




「嘘の見抜き方は不要だろう? 大体分かる」


「いえいえ、伯爵も特徴を覚えておくべきでは? 話の真偽に悩む時間が減ると仕事もやりやすいでしょう?」


「それはそうだが……」


「一つ目の『嘘の見抜き方』ですが、旦那様はわたしに自分のことを話してください。一つは嘘で、二つは真実を。相手が嘘と分からないものでお願いします」


「最初から難しい問題だな。主人と側仕えの間柄でつける嘘など少ないぞ?」




 伯爵が腕を組んで考えるが、そこまで難しくはないだろう。




「何かあるでしょう? 例えば、私には兄弟がいます。それから好きな人もいます。生まれ故郷は存在しません。……どれが嘘でどれが真実か分かりました?」


「どれも嘘に聞こえるが……」


「ほら、分からないこともあるでしょう? でもきちんと嘘は一つだけですよ」




 まあ、心理術を教える側のわたしが簡単に見抜かれたら形なしだからね。


 伯爵は考えたのか口を開く。




「私はパイプが苦手だ。杖を持って歩くのは面倒臭い。最近、セナが使う『エンピツ』とやらが気になっている。……以上だ」


「……何故それらを選んだんですか? どうでもいいような、よくないような……」


「分かり難いものとなるとこの程度しかない。セナ、どれが嘘だと思う?」




 突然飛んできた質問にわたしは焦らずに答える。




「二番の杖でしょうか」


「正解だ。何故分かった?」


「二番目だけ瞬きの回数が増えていたので」




 貴族男性の嗜みとして持つ杖を今更面倒臭がるはずもない。


 大体、人目に触れない時は杖で扉叩いたり、物を動かしたり、結構行儀悪く便利に使ってるしね。




「このように人は嘘を吐く時に無意識に体の動きに現れます。一般的には『目が泳ぐ』『瞬きの回数が増える』『早口になる、吃音が増える』『落ち着きがなくなる』と言いますが、そういった特徴を隠すのが上手い人もおりますよね?」




 かく言うわたしもその辺は気を付けて表に出さないようにしている。


 嘘が嘘だとバレた瞬間、相手からの信用を失うからだ。


 バレなければそれはにはならない。




「そうだな。確かに嘘を吐く人間によく見られる特徴だが、隠す者もいる」


「そこで、今回は嘘を吐いた後の仕草を覚えていただきます」


「後? 最中ではなく?」


「実は嘘を吐いた後の行動というものの方が隠し難いのですよ」




 懐から出した手作りの鉛筆を紙に滑らせる。


 大雑把な棒人間とが幾つかの動作をしてる場面と、その動作について補足を入れる。


 絵心? そんなもの、わたしにはない。




「嘘を吐いた後の特徴として『口元に手をやる』『首元や胸に手をやる』『唇を舐める』『口角の片方が上がる』という点です。これは上手く騙せた安堵感から無意識に出る行動ですよ」




 描いた絵を伯爵に渡すと「これは人か?」と零されたが無視した。




「次に『本音の見抜き方』ですが、これも相手の動きで確認出来ます。心理術は覚えてもらうだけですから、一度覚えてしまばラクですけど今回は三つずつにしておきます」




 次の紙に箇条書きで書いていく。


 1.頬杖をつく。

 2.耳を触る。

 3.唇を舐める。




「唇を舐める動作は意外にも色んな意味があります。その時々の場面によってその意味は変わりますので少々難しいですが、頬杖や耳を触る行為は分かりやすいですね」




伯爵が「耳を触る行為の意味は?」と先を促した。




「耳に触れるのは困った時や話に興味がなく別のことを考えている時です」


「……ああ」




 何か思い当たる節でもあったのか伯爵が頷いた。


 つい首を傾げてしまったけれど、それ以上は何も言わなかったので追及しないでおこう。




「次は手と足の特徴です。何でも手には気質や本音が出やすく、足は危険な時に即座に動くよう本能と直結しているために本音は出るそうです」




 1.髪の毛や頭に手をやる。

 2.テーブルの上で囲いを作るように手を置く。

 3.掌の内側を広げて見せる。


 書き出した紙を伯爵へ手渡した。




「髪や頭に触れるのは自分をなだめて安心感を得るためです」




 恐らく親が子の頭を撫で、それに安心感を覚えるのを自分でやっているのだ。




「テーブルの上で囲いを作るのは警戒心があるからです。壁を作っているのか、それとも『手の内を見せない』ようにしているのか、どちらにせよかなり厄介でしょう」


「マイルズ=オアの時に目を合わせたりしていたな?」


「ええ、目線を合わせ、出来るだけ微笑み、名前を呼びました。目線を合わせることで自分を気にかけていると思わせ、微笑むことで警戒心を和らげて好感を引き出し、名前を呼ぶことで親しみを感じさせるといった具合ですね」


「やはりあれにも意味があったのか」


「まあ、一種の処世術でもありますが」




 それにしてもよく覚えていたな。




「足はもっと分かりやすいですよ」




 1.足先が正面を向いている。

 2.足先が横を向いている。

 3.股がやや開き、足先がクロスしている。


 こちらも伯爵へ渡す。




「正面に向いている場合はこちらを受け入れようと真面目な気持ちの時、横向きは逆に他幾つか否定的な気持ちがある時、最後はリラックスしている時です。苛立った人が足先で床を叩くのを見て『不機嫌だな、怒っているな』と察するのも心理術ですよ」




「立っている時は別ですけどね」と補足する。


 渡した紙に伯爵が羽ペンで、わたしの話した内容を書き入れていく。


 実際に警察署で講義するとしたら警戒心を薄くする方法や本音を引き出す方法などを重点的に行うだろう。聞き込みや取り調べで役に立つはずだ。




「最後の『警戒心の和らげ方』はわたしの経験則も混じっているのでご了承くださいね」




 これは紙を使わずに説明する。




「先ほどお話ししましたが警戒心を和らげる単純な方法は目線の高さを合わせること、笑みを絶やさないこと、名前を呼ぶことです。マイルズさんの件を例に説明致します」




 目線の高さを合わせる。これは大人が子供にも行う仕草だ。目線は人それぞれで、わたしと伯爵であれば長身の伯爵に見下ろされるのが当然だが人によっては『圧迫感』や『威圧感』『見下されている』と感じることもある。物理的な郷里が心の距離にも繋がるのだ。だから目線の高さを合わせると『この人は自分を気にかけてくれる』『同じ高さだから怖くない』といった気持ちになる。


 そして笑みを絶やさないこと。人間は無表情や不機嫌な顔をした人よりも笑顔の人の方を好意的に感じる生き物だ。実はこの笑みは愛想笑いでも効果が出る。大切なのは笑うことで『あなたと仲良くなりたい』『敵意はない』と表して見せることだ。そうすると相手も自然と笑みを返してくる。互いに何となく愛想笑いをし合うだけで、互いの敵意を確認出来て、警戒心が薄らぐ。


 名前を呼ぶのは自己肯定を感じさせるためだ。人は誰しも『誰かから認められたい』『自分の存在を認識してもらいたい』と思うものだ。名前とは人間の個体の識別に重要なので、その名前を繰り返し呼んでくれると『自分を認めてくれている人だ』と認識する。




「会話の最中に相槌を打ったり頷いたり、重要そうな単語を会話の中に混ぜて復唱や質問するといったことも『話を聞いてくれている』という信頼感を得ることが出来ます」




 あとは相手の行動をあえて真似るという方法もある。


 ミラーリングと呼ばれ、無意識に好意を持つ相手と同じ行動を取ってしまったり、自分と同じ行動を取る相手に好意を抱いたりする効果がある。する側もそうだが、される側も相手に好意を感じるというこの現象はお互いの趣味趣向があるため、行うには少し気を遣うし警察には不要だろう。




「……お前もそれはやっていたな」


「ええ、会話中の確認も兼ねて復唱は混ぜております。聞き間違いの防止にもなりますので」


「常にそういったことを意識しているのか?」


「まさか。普段は特に何も考えていません。事件の調査など必要な時にのみ、ですね」




 そう言ったのに、伯爵は疑いの混じった眼差しを向けてくる。




「だが、お前は人に好かれやすい。それは心理術があるからか?」




 うーん、確かに言われてみればそれはあるかもしれない。


 愛想の範疇でやっているつもりだけど。


 自分でもよく考えてやってる訳ではないからなあ。




「御想像にお任せします」




 わたしはニッコリ笑って否定も肯定もしないでおいた。





 * * * * *

心理術はこの限りではありません。

ご了承ください。


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