『宇宙タクシー』

やましん(テンパー)

『宇宙タクシー』

 ☆これは、幻想にもとずく、フィクションです。☆彡



    ☆彡   ☆  ☆彡  ☆



 ぼくは、長年、流しの宇宙タクシーをやってます。


 けれど、毎年恒例のお客様も、あります。


 この時期、最大のお客様は、もちろん、織姫様です。


 彼女が住む星の太陽は、地球ではベガと言われています。


 もちろん、ベガそのものは、恒星なので、住むには暑すぎですから、彼女は丁度良い場所にある、小さな惑星に住んでおります。


 太陽系までの距離は、だいたい25.5光年で、かなり近いところにあります。


 織姫様が、もともと、どこからやってきたのか、本人が語らないので、よくわかりません。


 大むかし、毎日、ただ機織りに精を出すばかりであったので、天帝さまが天の川を超えて、恒星アルタイルの近所に住む、彦星さんとの仲人をして、結婚させたのですが、仕事をぱたっと止めてしまったので、憤慨した天帝さまが家に戻し、年に一回だけ会うことを許したのだそうです。


 結婚したから、仕事を止めるなど、それでは、天界の織物の需要が満たされなくなるからだったらしいです。


 まあ、一介のタクシー運転手のぼくが、とやかく言うべき事ではないですが、そもそも、天帝さまが、本人の意思をよく確認していなかったことが、まずかったのではないか、と思います。

 

 結婚したら、会社を辞める慣行などがあるのは、もちろん、すっごく良くないことだとぼくも考えるのですが、そうしたいと思う人を、強制的に働かせる理由もないでしょう。


 その行く先は、だから、彦星さんのところです。


 彦星さん(むかしは『比古保之』とも)のお家がある、アルタイルは、太陽系から16.7光年ですから、ここも近いです。


 ベガもアルタイルも、崩壊寸前位の、猛烈な速度で自転しています。


 まあ、これは偶然の共通点なんでしょう。


 あ、ぼくの出身地は、太陽系ですからね。


 地球じゃないですよ。


 あそこは、水浸しで、お魚以外は、もう住めないです。



 ところで、今年は、織姫様が、なかなかお家から出て来ませんでした。


 どうやら、宇宙亜空間電話で、喧嘩したらしいのです。


 彦星さんが、もう年だから、仕事を止めたいと言ったらしくて、そこから大げんかに発展したのだと、あとから、ようやくタクシーに乗った織姫様から聞かされました。


 最近、天帝さまが発した、『天界総活躍社会令』を巡って、話がこじれたらしいのです。


 自分たちには年金もないし、自分も最近は、布の縫い目がよく見えないし、針も通しにくいし、むかしのようには、早く製造が出来ない。


 ふたりで儲けないと、生活にならない。


 天帝さまの官吏たちは、お題目さえ作ればいいけれど、実際に働くのは自分たちだから、大変なんですよ。


 など、おっしゃっていました。


 まあ、始めは、かなりエキサイトしていましたが、だんだん、落ち着いてはきました。


 ぼくは、見計らって『今年は、少し荷物が大きいですね、』


 と、尋ねました。


『あ・・・・けんかしたから、どうしようかと思ったけど。せっかく一年がかりで編んだ、おそろいのセーターだから・・・・・・・』


『はあ・・・・うらやましいことですなあ。ぼくは、ひとりぼっちの宇宙の放浪者だから。ふたりで、おそろいのセーターなんて、高校生みたい。いいなあ。いいなあ。』


 まあ、じつは、ぼくにも奥さんはいるのですが、愛想つかされて・・・・・



『まあ・・・・・やましんさんたら・・・・・』



 お年に似合わず、いつまでも美しい織姫様が、少し赤くなりました。


 

 宇宙にさえ、永遠はありません。


 可能なかぎり、この、毎年の恒例行事が続けばいいなと、思います。


 また、もし、できるなら、一緒に住まわせてあげたいな、とも、思うのです。


 



  ********** ☆彡  🚖  ☆ **********



                          おしまい




 



















 






 


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『宇宙タクシー』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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