第5話



 僕はページをめくった先が、後書きの最後の1ページとなるようにして、そこへいつものメッセージをえる。見開きで見ると、次のページは空白になる。

 余韻よいんを残す為と言っているが、本当はただの僕の我儘わがままだ。

 大切な人へ伝えたい言葉がある。

 僕はその空白に、大切な人へおくる、大切な言葉を添えて、大切な人へひっそりと贈る。

 いつまでも大切な人と会えなくなって、どれくらい経つだろうか。

 最後に僕の大切な人の微笑ほほえみを見たのは、まだ作家としてデビューする前だった。

 処女しょじょ作の出版が決定した頃、僕の大切な人は、無理に笑おうとして、涙をこぼした。

 そして僕の大切な人は僕の前から消えてしまった。

 せめて声が聴きたい。けれども、涙を流した僕の大切な人のことを思うと、はばかられた。

 友人は、僕のせいじゃないと言ったが、がれ落ちた僕の半身、僕の大切な人の手を掴むことが出来なかった自分に、がっかりとした。

 友人から届いた僕の大切な人の近況きんきょうは、時々かげった顔をするものの、いつものように笑えているとのことだった。

 きっと人知れず、涙を流しているに違いないと僕は思う。胸がめ付けられる。

 僕は大切な人へ、届かなかった言葉を届けたくて、空白に大切な人へのエールを書きつづることにした。

 大切な人へ気持ちを届ける方法を思いついた僕は、処女作からいつものメッセージを書き続けており、空白のページへ僕の大切な人へのメッセージを添えて、大切な人へ送り続けている。

 作品の感想を届けてほしいかのように、僕の大切な人は穏やかに微笑みながら、僕の作品について友人たちへ話すそうだ。表情がかげることはなくなったと伝え聞いた。

 だからこれからも贈り続ける。僕の大切な人が、永遠に微笑んでいられるように願いながら。

 そして気が付いたら、僕らは合わさることが難しい遠い場所に、離れ離れになっていた。


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