語り屋は何を思い微笑むか

空彩★

*彼は終始笑顔であった*

…おや?何かお探しですか?


【あなたが訪れたのは、白い壁でできた小さな家】

【目の前には、様々な装飾品をつけた青年が分厚い宝石の図鑑のようなものを見ているでしょう】


…ふむふむ、日々のストレスや苦しみから解放されたいと…


【と、彼は胸にさげた3色の石がついた装飾品を触りながら、ニコッと笑い、優しい言葉で言うでしょう】


では、こんな話はいかがでしょう__





それは突然の出来事だった。

まだ幼かった彼には理解しがたいことで、心と頭が追いついていなかった。

その時の記憶には、赤、赤、赤赤赤…

そこらじゅうに赤いものが飛び散っていたイメージがある。

そこからの記憶はなかったが、必死に、文字通り死ぬくらい走った記憶しかなかった__






ウッドバード達が鳴く昼の話である。

その当時は彼が10歳、姉が14歳だった。

彼は前髪が長く、左目が隠れている。

姉の方は長い黒髪が特徴的。

気が弱く、狩に行ってもいつも他人任せでモンスターを狩ることが出来ない、泣き虫な少年と、そんな彼と比べ物にならないくらい活発で、弟の分まで狩をしたり、母親がわりをしてくれる人の手伝いを好んでやる、優しい元気な少女である。

この小さい村は、村民も約30名程の、森や川で狩猟や農業などをする民族だった。

もちろんご飯はお腹いっぱい食べられることは少ないし、病人が出てもすぐ治すことが出来ず、そのままなくなってしまうことが多々ある。

病気をすぐ治すために必要な薬はこの村から南西に500キロ程行った所にある、大きい国で高値で売っているらしい。

なんでもそこは誰でも入国可能で、他国民でも、旅人でも、ましてや盗賊でも入ることができるとのこと。

そこで盗めばこの村から人がいなくなることは無くなる…と彼なりに考えてみたりもした。

ただ、そこで犯罪が起きたという話は何故か聞いたことがない。

彼は幼いながらも、何故盗みや荒らしがおきないんだろうとも考えていた。

相当厳重な警備がされているのだろうか…


そんなある日だった。

その日彼は姉と2人で村長の元を訪れていた。

村長はこの家のドアよりも背が高い、力の強い大人だった。

丁度その日は2人の生まれた月で、男は7歳、女は10歳の子が一人前になるための儀式を行ったのだ。

そして、村長から[オニキス]でできたネックレスをもらうと言うのが、一連の流れである。

オニキスはこの地方でよく採れる石で、『トラブルから身を守る、魔よけの石』とされている。


「いいかい、お前のには、オニキス以外に、少し遠いところで採ることが出来る[グリーンフローライト]という石がついておる」


姉は不思議がってなんで自分のには弟と同じものがついていないの、なんで自分のは[クンツァイト]がついているの、同じのがよかった

、と不服そうに頬をふくらませて聞いた。

ただ、彼は何故自分のに[グリーンフローライト]がついているのかなんとなく察していた。

[グリーンフローライト]は、『迷いを取り払い、知恵をもたらす石』とされている。

つまり、自分は落ち着きのない人間と見なされているのだ。

ほかの人間を頼らなければ生きていけないやつだと思われている、彼はそう思ったのだろう。

彼は村長の説明を聞く前に、怒って外に飛び出してしまった。

ちなみに、姉の方についていた[クンツァイト]は、『無条件の愛、真実の愛へと導く石』とされていて、姉にとてもぴったりな石だなとおもった。


すると、外が騒がしいことに気づいた。

大人たちが、何やら森の方でもめているらしい。

大人たちの真後ろまで来た僕は、もめている相手の手に握られたものを見て、足が固まった。

そこに姉が走ってきて、彼の隣で同じく固まった。

大人たちともめているのは、大柄な男たちで、手には大きく鋭くとがった剣が握られていた。

そう、彼らは盗賊で、まさに今、村の食べ物やお金などを根こそぎ持っていこうとしている所だった。

その揉め事に村長も加わり、どんどん声が大きくなっていくのが分かった。


バシャッ

ゴドンッ


突然、何かが顔を濡らしたと同時に、何かが落ちてきた。

雨でも降ってきたのだろうか。

ここではあまり雨が降らないので、恵みの雨として喜ばしいことなのだ。

…でも、何故か誰も声をあげなかった。

むしろ、何か危険なモンスターが出た時のような悲鳴があがり、辺りは静まり返ってしまった。

それに、何かが落ちた音はなんなのだろう。

彼はちょうど姉の方に目を向けていた。

姉の白い服に、赤いものが飛び散っているのが見えた。

ダメじゃないか、いつその祭衣装を汚したんだ、と心で問いながら、正面に向き直した。

前には村長を含めた6名の大人がいたはず。

だが、そこで初めて盗賊の顔をはっきり見ることとなった。

その盗賊は、顔に所々に傷があり、強面で、いかにも自分は盗人ですという顔をしていた。

中にはメガネをつけている者や、左目に眼帯をつけている者、ほとんどが茶髪や黒髪の中1人だけ金髪の高貴そうな者もいた。

さっきまでいたはずの大人たちはどこに行ったのだろう。

と、先程濡れた頬を拭い、その手を見るべく下を向くと、村長が彼を見上げていた。

いつも彼ら子供を見下ろしていた村長が、今は自分を見上げている。

そして、手には雨のような透明の水ではなく、赤黒い、少しヌルッとした液体がついていた。

村長がなぜ自分たちを見上げているのかは理解が追いつかなかったが、頬と手についた液体のことなら、なんとか理解ができそうだった。

これは狩の時に触ったことがある。

人間の体にも流れている血液だ。


それを理解してしまったであろう姉は、隣で泣き叫んだ。

彼は、思考停止してしまい、動くことが出来なかった。

目の前にいた大人たちは、死んだ。

あの大柄な男に、剣で首をはねられた。

それだけが、頭に浮かんだ。

それがどんな状態か、やはりなかなか理解が出来ないまま、呆然と立ちつくした。

そして、盗賊達は次々に中に入り、大人たちの首をどんどんはねていった。

そして、姉に逃げよう、と声をかけようと、左を向くと、そこには姉はいなかった。


ピチャンっ


姉を探そうと、前に進もうと右足を前に出した瞬間、水をふむ音がした。

足元で姉が苦しそうに唸りながら、横たわっている。

お腹から、大量の血液が流れ出ていたのだ。

彼は、自分より体の大きい姉を座って抱き抱えた。


「これをもって…にげて…」


手には、先程手渡しされた、一人前の証であるネックレスが握られていた。

やはり姉のには透き通ったピンクの石がついていた。


「いい…ここの森をぬけ…大きい…壁の中まで…にげて…わたしは…もうダメだから…」


姉の傷口を押さえながら、彼は大きく首を振った。

一緒にと、言った瞬間、弱々しく姉の手が、彼の頬を撫でた。

そしてニコッと笑い、そのまま力なく腕の中でぐたっとしてしまった。


気づくと、彼は走っていた。

後ろからは何人もの盗賊が息を切らしながら追いかけてきている。

ここは森の中で、足元には大きい石やツタなどがあり、なかなか走りにくく、盗賊達は追いかけてくるのに大変そうである。

彼は何回もこの森で狩りをしていて、体も小さいので相手から隠れるのが容易であった。

すぐに山賊たちは、彼を見失ってどこかへ行ってしまった。


___どれくらいそこに隠れていただろう。

シーンとした森の中、彼はぽたぽたと涙を流していた。

村はどうなっただろう、姉は本当に死んでしまったのだろうか、村に帰れるのだろうか…

彼は、そう思いながら空を見上げた。

でも、帰ったら今度は自分が殺されてしまう…

しかも、もう辺りは真っ暗で、月明かりだけが頼りとなってしまった。

…そうか、今日は侏日か。

侏日しゅじつとは、1年に2日だけ起こる自然現象で、昼の時間が少ない日のこと。

彼と姉の名前はそこから来ているはず。


…と、自分の石を思い出した。

『迷いを取り払い、知恵をもたらす石』…


知恵…か…

彼はそこからもう、どのようにして男達にに復讐するかということを考えることしかしなかった。

大切なものを奪われたことに対しての復讐心、その中でも1番である、大好きだった姉を殺されたことが、彼を動かす引き金となった__






「___さぁ、一体彼はどうなってしまったのでしょう…?」


騒がしい店内で、語り屋の青年が1冊のノートを閉じた。

目の前には、大柄な男たちが座っている。

手には酒が握られており、笑いながら彼の話を聞いていた。


「そりゃ、ガキもそいつらに殺されたにきまってるだろ!」


語り屋の目の前に座った、メガネをつけた男はいった。


「なぜそう思う?もしかしたら、森を抜けた先にある国で生きてるかもしれないだろう?」


語り屋は、前髪のせいで右目しか見えていないが、その目を細めて笑いながらメガネの彼にいった。

すると、その隣にいた金髪の高貴そうな男が、


「我が同士に、ガキ1匹逃がす奴はいない!」


と叫んだ。

それに賛同するように、ほかの男たちも高笑いし、酒をガブ飲みし、語り屋に酒のおかわりを頼んだ。


"死んでしまうくらい、うまい酒を"と、つけたして。


語り屋は、彼らの望み通り酒を出し、ニヤッと、首に提げた黒い石を握りしめ、微笑んだのだった。













その後は、私にもわかりません

その語り屋が何者だったのか、その石が[オニキス]だったのか、他2つの石はついていたのか、その男達が本当に村を襲ったのか、その酒は本当にうまい酒だったのか…


【先程の彼は微笑みながら、差し出された飲み物を飲んだあなたに言うでしょう】


…その少年は、本当に語り屋になんですかね?

この先はご想像にお任せしますが…



…あ、時間が来てしまったようですね

すみません、驚かしてしまいましたね

では、今回はここまでとさせて頂きましょう

どうです?日々の苦しみから解放されましたかね?

まぁさすがにこんな重い話で開放されるはずありませんよね

しかも拙い文章でしたので、さぞ聞きづからったでしょう

ご期待にそぐわず、申し訳ございません…

…そうそう、そろそろ眠くなってきた頃でしょう

今日は侏日のようですしね…

そこのベッドで寝ていてください。






___やっぱり…あんたも…ね…

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